表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
319/340

13 増量するなら大歓迎


 宴が大盛況に終わった翌朝、仲間たちと冒険者ギルドに顔を出した。すると、シャルロットがお下げ髪を揺らして駆け寄ってきた。


『リュシアンさんに打って付けの依頼を用意して、ずっと待っていたんですよ。それが……こちらですっ!』


 折り畳まれた依頼書を両手で持ち、恋文を渡すような勢いで差し出された。


 腰を折り、上目遣いでこちらを伺う少女。瞳には期待と好奇の色が覗く。この書類がまさしく恋文だったなら、大抵の男を堕とせるだけの破壊力があるに違いない。


 セリーヌと知り合わず、シルヴィさんとも再会せず、故郷に帰ってデリアに会うこともなければ、シャルロットと恋に落ちる未来もあったかもしれない。


 だがその前に、彼女の父であるルイゾンさんの鉄拳制裁をくらうだろう。話は冒険者を辞めてからだと言われるに違いない。


『ここ最近、オーヴェル湖の周辺で魔獣の目撃情報が増えているんですよ。種類や強さも様々で、討伐ランクLやSの魔獣も混ざっているらしくて……怖いですよね……私の胸が増量するなら大歓迎なんですけどね』


 これは笑っていい場面なんだろうか。


 判断に困った俺はシャルロットの自虐話を無言で流し、側にいる仲間たちに声を掛けた。

 シャルロットの寂しそうな顔に気づき、やはり笑っておくべきだったのだと反省した。


 魔獣の増加という現象について、兄、レオン、ヘクター、イヴォンと意見を交わした。ブリュス・キュリテールに起因している可能性が濃厚だという見方で話は一致した。


 ブリュス・キュリテールが神竜の額から食い千切ったという理力の宝珠。その力に、他の魔獣が呼び寄せられているのかもしれない。


『討伐数は多ければ多いほど助かります。レオンさんもいらっしゃいますから、討伐ランクLの対象については三十頭を目標にお願いしたいんですけど……構いませんか?』


「余裕だろ。任せておけって」


※ ※ ※


「碧色が、あんな安請け合いをするから」


 愛用の魔法剣を手に林を駆けるレオンは、不機嫌な顔で大蛇型魔獣を斬り捨てた。


斬駆創造(ラクレア・ヴァン)!」


 すぐさま、左手から真空の刃を顕現。風の渦が、背後に迫った二頭の狼型魔獣を刻む。

 風の魔法だけでいえば、風竜王の加護を受けたレオンの力は、竜術に匹敵する威力にまで上達しているはずだ。


「そう言うなって。何より、シャルロットからのお願いなんだぞ。無下にできるかよ」


 解き放ったスリングショットから、三つの魔法石が飛んだ。それらは頭上にいた蜘蛛型魔獣に炸裂し、爆発を起こす。


「おぉ。こいつは使えるな」


 このスリングショットは、昨晩にルノーさんから頂いたものだ。更に改良が加わり、最大で三つの魔法石の射出が可能になっていた。


『名付けて、トリプレ・スリングだ。いくつかこしらえた。好きに持って行くといいぜぇ』


 宴の席で上機嫌だったルノーさんは、親衛隊の三人娘にも配っていた。もちろん、デリアもしっかりと受け取っていた。確か、マリーと助祭のブリジットも貰ったはずだ。


『私はリュシアンさんのお下がりがいいです』


 シャルロットはそう言って、俺が使っていたものを胸に抱えて逃げてしまった。


「無下にできないっていうなら、碧色だけがこの依頼を受ければ良かったんだ。さっさと済ませて、島へ戻るべきだと思うけど」


「連れないこと言うなよ」


 得物を剣に持ち替えた俺は、林の奥から飛び出してきた虎型魔獣の首へ突きを見舞った。


「討伐ランクLの魔獣だけで三十体だぞ。これだけの人数で来たけど、一日で終わるような依頼だとは思えねぇ」


 首から血を流す虎型魔獣へ仕掛けたレオンは、見事な剣さばきで敵の胴を薙いだ。


「おまえ、俺の獲物を……」


「横取りがダメだとは言われてない。うかうかしてると、碧色が最下位になるよ」


「うるせぇ。まだまだこれからだ」


 結局、兄とレオンとヘクターとイヴォン。この面々に、シルヴィさんとアンナを加えて依頼に臨むことになった。


 この決定に、親衛隊の三人娘がざわついた。


『せっかくジェラルドさんが帰ってきたのに……私たちでも同行可能な依頼にしてもらって、少しでも長く一緒にいさせて欲しいの』


『それ、素敵な意見ですね〜。私もクリスタさんに賛成で〜す』


 クリスタさんとソーニャの気持ちもわかるが、わがままを聞く余裕はなかった。


『あなたたち、立場をわきまえなさいよ』


 セシルさんの静かな怒りを受け、騒ぎは一気に沈静化した。


 そうして飛竜を使ってオーヴェル湖まで来ると、完成間近の砦の姿を目の当たりにすることができた。

 湖の外周を石壁が覆う姿は圧巻だ。ブリュス・キュリテールの封印が解けたとしても、簡易的な足止めにもなるだろう。


『せっかくだから賭けをしましょうよ』


 依頼の開始前、妙なことを言い出したのはシルヴィさんだった。


『討伐ランクLの魔獣を狩った数で勝負っていうのはどう? 最下位だった人は、最上位の人のお願いをひとつだけ聞くの』


 アンナとイヴォンが面白がり、真っ先に食い付いた。兄は状況を楽しみながら静観し、ヘクターは嫌がりながらも反論できず。レオンは端から負ける気もなく、好きにしてくれと言い放って終わった。


流水堅牢(スロビュスト)


 俺の意識を戦いへ引き戻すように、林の奥からイヴォンの声が聞こえてきた。


 イヴォンの体を水の球体が包み込む。その流れに弾かれた豹型魔獣が宙を舞った。

 だが、魔獣も器用に宙で身を捻った。四肢を踏ん張り、着地の衝撃に備えている。


 しかしその時にはもう、イヴォンは次の攻撃を仕掛けていた。


激流鋭穿(トランシュ・ペルーズ)!」


 落下してきた獲物を見据え、激流のごとき勢いで槍を突き立てた。


炎竜舌縛(ラングリエ)


 見れば、ヘクターも善戦している。炎を纏った鞭を自在に操り、熊型魔獣をがんじがらめにした所だった。

 腰から引き抜いた短剣(ショートソード)が炎を帯びる。それを魔獣の顔面目掛けて投げ付けた。


炎竜絶牙(エテンドル・クルー)


 短剣が魔獣の額に刺さると同時に爆発。頭部を失った巨体が仰向けに転がった。


「おいおい。あいつらも仕上げてきたな……これは本当にやばいかも」


 苦笑していると、近くで戦っていた兄の姿も視界に飛び込んできた。

 その両手には一対の長剣(ロング・ソード)が握られている。


 兄は島での特訓で二刀流へ転向したそうだ。父が作った魔法剣も背中に担いでいるが、双竜炎舞(バルデュ・ジュモーラ)と名付けた二本の剣を作っていた。

 いつの間にか島の鍛冶職人とまで仲良くなっているとは、とんだ人たらしだ。


炎竜双爪(フラム・ドゥ・グリフ)


 刀身から炎を上げる二本の剣を操り、次々と魔獣を薙いでゆく。その様は剣の名の如く、二頭の炎竜が苛烈に舞っているようだ。


「ちょっと、みんなずるいでしょ。そんなに強くなれるなら、アンナも島に行きたいよ!」


 魔導弓(まどうきゅう)を手に、頬を膨らませるアンナ。その姿を可愛いと思い、吹き出してしまった。


「できればそうしてやりてぇけど、島の掟とやらが厳しくてさ。ごめんな」


「そこは、リュシーの腕の見せ所じゃない」


 シルヴィさんの斧槍(ハルバード)が、横手から飛び掛かる豹型魔獣を切り裂いた。


「俺にもユリスにもどうにもできませんよ。ブリュス・キュリテールを倒したら、少しは影響力も持てるとは思いますけどね」


 諭しながらも、お互い攻撃の手は休めない。


 誰もが最下位だけは御免だと、ひたすらに魔獣を狩り続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ