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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.14 オーヴェル湖・決戦編

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11 信頼の証


 アランさんの工房を後にした俺たちは、隣に建つマリーの工房を訪ねた。


 小ぶりな建物だが、真っ赤な屋根が存在を主張している。装飾が施された鉄の門扉を押し開けると、石畳が入口の扉まで延びていた。

 石畳の周囲へ庭が造られ、水瓶を担いだ天使の石膏像に目を惹かれた。群生する可愛らしい草花が周囲を彩り、マリーの感性が活かされた素敵な空間に仕上がっている。


「こんばんは」


 ノッカーを打って声を掛けると、すぐさまマリーが顔を覗かせた。


「思ったより早く着いたんですね」


 作業中だったのだろう。軽装姿に前掛けという姿で出迎えてくれた。その表情は以前よりも明るくなった気がする。


「久しぶりにマリーに会えるっていうんで、レオンが急げってうるさくてさ」


「え?」


 目を見開いて顔を赤くするマリー。そんな反応を楽しんでいると、背中に衝撃を受けた。


「勝手な嘘はやめてくれ。不愉快だ」


「なんだ。嘘なんですか……」


 マリーの明らかに落胆した顔を見せられ、申し訳ない気持ちになってしまった。


「いや、碧色の言っていることが嘘っていうだけだから。気にはしていた」


 ぶっきらぼうに言い放ったレオンは俺を追い越し、足早に工房の中へ入っていった。


「だとさ」


 取り繕うようにマリーに微笑みかけると、右脚のつま先を思い切り踏まれた。


「ぬか喜びさせないでよね。ついていい嘘と悪い嘘っていうものがあるんだから」


「悪かった……」


「前から思ってたけど、私のことをいじって楽しんでるわよね。シルヴィさんといい、私はあなたたちの玩具じゃないんだから」


「反省します」


「ほら、さっさと中に入って。開けっぱなしにしていると虫が入ってきちゃうから」


 マリーは工房の奥へ去ってゆく。


 入ってすぐの部屋は受付のようになっていた。木製の長机には花瓶が置かれ、それを囲むように六脚の椅子が置かれている。


 室内には、プロム・スクレイルの香りがほのかに漂っていた。壁に飾られた絵画と相まって、美術館にいるような気持ちになる。


「普段はあんな感じなんだ……マリーちゃんって、もっとお淑やかな印象だったけど」


「師匠にあそこまで強く言える人を初めて見ました。びっくりしました……」


 イヴォンとヘクターは呆気にとられた顔をして、衝撃を受けている。


「マリーが恩人と慕っている大司教と、過去にいざこざがあってさ。そのことを根に持っていて、俺には当たりがきついんだよ」


「僕は逆だと思うけれどね」


「え?」


 兄の言葉に、間抜けな声が出た。


「素を出せるということは、心が安定している証拠だよ。リュシアンのことを信頼している証だと思うけれどね」


「それならいいんだけど……」


 半信半疑でいると、いくつかの小瓶を手にしたマリーが戻ってきた。


「プロムナの改良品。順調に仕上がってるわ。後はこれを、どこまで量産できるかだけど」


 硝子の小瓶は半透明の赤い液体で満たされている。完成品の出来映えに興奮してきた。


「手のひらに収まるし、大きさも丁度いいな。いくつか持っても邪魔にならない」


「でしょ。結構がんばってるんだから。中身を飲み干せば、十分程度で傷を体内から癒やしてくれるわ。切り傷なんかを治したい時は直接かけた方が早いの。ものの数分で、簡単に塞がっちゃうんだから」


「これで、ひと財産を稼げると思うぞ」


「やっぱりそう思う?」


 聖女が悪い顔をしている。

 それを面白く思って眺めていると、前にセリーヌに話した妙案を思い出した。


「マリーの顔を映写に撮って、この瓶に貼るんだ。この際、商品名も変えた方がいい。多少高くても間違いなく売れる」


「だけど、お金儲けしたいわけじゃないから」


「もったいねぇ。欲がないんだな……」


「みんなが碧色のように下劣なわけじゃない。自分と同じに考えない方がいい」


「下劣って、おまえな……」


 レオンの指摘に少しだけ傷付いた。

 冒険者活動にも資金は必要だ。仲間を抱えるなら尚更のことだというのに。俺の苦労も少しは理解してもらいたいものだ。


「そういえば……」


 俺も背中に担いでいた革袋を机に下ろした。


結界革帯(セントゥリエ)だけど、こっちもユリス発案の改良品が完成したんだ。結界の強度は、ランクSと同等にまで高まった」


「え!? ランクSと同等って、すごい……」


「俺とレオンの分も直してもらったんだ。残っていた十点を改良して持ってきたから、みんなに渡していた分と交換な」


 シルヴィさん、アンナ、親衛隊たちに渡していた分も、マリーに回収してもらっている。それらを革袋に詰め替えた。


「尽力してもらったサミュエルさんと教皇には悪いと思うけど、人命がかかった道具だからな。優秀なものを使うに越したことはねぇ」


「サミュエルさんもそこは理解してくれてるわよ。自分が作ったのはあくまで試作品だから、って。より良いものが出てくるのは仕方のないことだよ、って言ってたわ」


「そう言ってくれて助かるよ」


「だけど、プロムナにしても革帯にしても、自分の発想を盗まれているんだ。本人としては面白くないだろうけど」


「レオン、それを言ってくれるなよ。俺だって、良心が痛まないわけじゃねぇんだ」


「へぇ。碧色にもそんなものがあったのか」


「おまえな……」


 兄だけじゃない。マリー、イヴォン、ヘクター。四人に笑われているのが腹立たしい。


「そうそう。サミュエルさんって言えば、なんだか大活躍してるみたい。シルヴィさんが、彼のお陰で大儲けだわ、って上機嫌なのよ」


「なるほど。着実に結果を出してるのか」


 胸の中に、もやもやした気持ちが渦巻く。


 島を出た後にシルヴィさんと交わした通話で、娼館の運営はすこぶる好調だと聞いている。サミュエルさんのお陰なら、シルヴィさんは本気で付き合いを考えるのかもしれない。


「さてと。プロムナの報告も済んだし、私たちも勇ましき牡鹿亭に向かいましょうよ。早くしないと、シルヴィさんの相手をしているアンナさんが酔い潰れちゃうかも」


「あぁ、そうだな」


 迷いを振り切るように、そのことを考えないようにした。


「久しぶりの牡鹿亭も緊張するな……なんだか顔を出しづらくなってきたぞ」


「あなたの失敗談も色々聞けるから、私は楽しいけどね。クレマンさんもイザベルさんもすごく良くしてくれるし、家庭的で素朴な味付けの料理も大好きになっちゃった」


「あの店は、一部の街人から熱狂的に愛されてるからな。イザベルさんも昔は痩せていて、有名な看板娘だったらしいんだ」


「へぇ……映写とか残ってないのかな?」


「どうだろうな。聞いてみろよ」


「最近は、サンドラさんもお店を手伝ってるのよ。ふたりとも仲良しなんだから」


「は? そんな話は聞いてねぇぞ」


 俺にとってはふたりの母が共同作業しているようなものだ。


「余計に行きたくなくなってきた」


「だめ。首輪を付けてでも連れて行くわ」


 革帯を手にして微笑むマリーが怖い。

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