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06 まだまだ青い


「それじゃ明日。朝十時に、冒険者ギルドの前に集合ってことで頼みますね」


 玄関まで見送りに来てくれた三人に告げると、シルヴィさんが不満そうな顔を見せた。


「起きられるかわからないから、リュシーが添い寝してくれると嬉しいんだけど」


「連絡用に渡してある魔導通話石を、枕元に最大音量で置いておいてください。鍋でも叩いて、音で知らせますよ」


「もぅ。相変わらず連れないのね」


 寂しそうな顔を見せられると、感情を揺さぶられてしまう。しかし、ユリスとの約束もある。心離れをする時期が来ている。


「アンナとマリーもいるんですから、寝坊なんて許しませんよ。シルヴィさんの力がないと始まりません」


「あら。相変わらず、あたしのことを転がすのが上手いんだから。憎い人」


 想いを振り切り、俺たち五人は宿へ向かった。両親の所へ泊まらせてもらうには、さすがに人数が多すぎる。


 外の世界を楽しませようと、天然温泉の大浴場がある宿を選んだ。マルティサン島から来た三人が食い付いたのは言うまでもない。


「ひとりでゆっくりしたい」


 レオンは離れた所で湯につかり、イヴォンとヘクターは大はしゃぎしていた。


「彼らも、まだまだ幼いですね」


 ひとり大人ぶっているユリスだが、ぬるま湯の区画に浸かっているのは見逃さない。熱い湯が苦手なのだろうが、ふたりのことをとやかく言うにはまだまだ青い。


「師匠。お背中を御流しします」


 湯船を出ると、ヘクターとイヴォンがタオルを手に、先を争うように寄ってきた。


「いや、そういうのはいいって。余計な気を遣わずに、ゆっくりしてろ」


「いやいや。そういうわけにはいかないっすよ。生き様を語る師匠の背中を洗わせて頂く機会なんて、そうあるもんじゃないっすから」


「イヴォンってさ、見た目だけだと無愛想なのかと思ってたよ。人懐こいっていうか、印象がだいぶ変わったわ」


「そうっすか? でも、よく言われるかも」


 頭を掻くイヴォンを眺めていると、ヘクターがそそくさと隣に寄ってきた。


「イヴォンさん、表裏が激しいんですよ。僕に対しては凄く厳しくて、横柄ですよ」


「そういうことか……」


「何をこそこそ話してるんすか。っていうか、師匠……あそこの大きさも師匠っすね。そいつに、シルヴィさんも夢中なのか」


「表現が生々しいんだよ」


 イヴォンを小突いて体を洗った後は、みんなで豪勢な食事を堪能した。


「これ、旨すぎです……爺ちゃんと婆ちゃんにも食べさせてあげたいなぁ……」


 しみじみと語るヘクターが可愛らしくて、気が済むまで食事を勧めてみた。


 そうして翌日を迎えたのだが、なぜか兄と親衛隊の三人まで付いてきた。


「シルヴィさんから話を聞いてね。リュシアンは気にしなくていいよ。僕たちが勝手に付いていくだけだからね」


「付いてくるのはいいけどさ、ランクLの依頼だよ。何かあっても守りきれないかも」


「ね、リュシアンもそう思うでしょ」


 長剣(ロングソード)を腰に提げ、軽量鎧(ライトアーマー)で武装したセシルさんが身を乗り出してきた。


 久々に見ると、冒険者姿も様になってきている。加護の腕輪もラインの色が変わり、ランクDに昇格しているのがわかった。


「その辺の魔獣を相手に戦ってもらえばいいじゃないって言ったんだけど、真剣勝負じゃないと面白味がないって言うの。そういう感覚は本当に理解できないわ」


「セシルさん、そこは男の浪漫ってものですよ。理解してあげなくちゃ。私は、ジェラルドさんにどこまでも付いていきますからね」


「たとえ魔獣に襲われても、ジェラルドさんが守ってくれるって信じてますから〜」


 クリスタさんとソーニャは、左右から兄の腕にしがみ付いた。


 セシルさんの美しさは当然ながら、クリスタさんも綺麗で、料理が上手い。ソーニャも明るくて可愛らしく、愛嬌がある女性だ。

 三者三様の女性に囲まれるという羨ましい状況でも、まったく動じない兄を凄いと思う。


「離れて見ているだけだから。竜撃(りゅうげき)を使って戦う姿をもう一度見たいんだ。それに、彼らが使う竜術(りゅうじゅつ)にもとても興味があるんだよね」


 親衛隊に聞こえないよう耳打ちしてくるのだが、そんな兄をユリスが凝視していた。


「どうした?」


「ジェラルドさんの剣と鎧、見事だなと思って。どちらも魔力を秘めた品だと思いますが、加工から装飾に至るまで、芸術品のようです」


「あぁ、これですか。ありがとうございます」


 誇らしげに微笑む兄を見て、すぐ気付いた。


「それ、親父の?」


「さすがだね。冒険者をもう少しだけ続けさせて欲しいと頼んだら、一ヶ月も経たずに仕上げてくれてね。相変わらず見事な腕前だよ。魔法剣の聖光照刃(サリュミラ)と、魔導鎧(まどうがい)邪払輝(エクシャス)。これを身に付けて、これまでの罪を償うために戦うと約束したんだ」


「師匠、やってやりましょうよ。俺たちの訓練の成果を存分に見せる、いい機会っすよ」


「僕も頑張ります」


 兄の言葉に感化されたのだろう。イヴォンとヘクターが、やる気に満ちている。


「何かあれば俺が援護するから。碧色は何も気にしなくていい」


 腕を組んで澄まし顔をしたレオン。確かに、こいつがいれば不安はない。

 シルヴィさんとアンナもいる。回復にはもちろん、マリーの存在がある。


 結局、十三人という大人数で依頼をこなすことになった。留守番を任されたデリアは可哀想だが、彼女がいては、セシルさんも戦いに集中できないだろう。


「あなた宛の指名依頼が用意されています」


 冒険者ギルドの受付に向かうと、本部のギルド長からの指名依頼を言い渡された。

 内容は、廃城に巣くった魔獣たちの駆逐。凶暴な魔獣も多数確認されているという、気の抜けない戦いだ。


「この依頼が片付いたら、リュシアンにお願いしたいことがあるんだ」


 兄は、いつものように柔らかな笑みを浮かべて話しかけてきた。相変わらず爽やかだ。


「お願いしたいこと? なに?」


「終わってから話すよ」


「気になる言い方だなぁ……」


 閃光玉、魔法石、魔力石、設置型の罠も買い込み、万全の準備で武装した。


 テントと食料まで持ち込み、丸二日をかけた戦いとなったが、終わってみれば圧勝だ。


 俺とレオンの存在に加え、守り人の三人が繰り出す竜術も目を見張るものがあった。

 イヴォンとヘクターは継承戦を勝ち抜き、竜の力を継いでいる。水竜と炎竜の竜臨活性(ドラグーン・フォース)の力に、太刀打ちできる魔獣などいなかった。

 シルヴィさん、アンナ、マリーの援護もあり、兄と親衛隊の出番はなかったほどだ。


 戦闘終了後にはユリスの竜眼(りゅうがん)の力を使い、親衛隊三人から竜術の記憶を消してある。


 そうして報酬の百万ブランは山分けにした。討伐記録は、イヴォン、ヘクター、兄と親衛隊を抜いて分割。これによって、アンナはついにランクSへの昇格を果たし、ブリュス・キュリテール討伐の選抜参加の権利を得た。


 その翌朝、宿を訪ねてきた兄は、信じられないことを言い出した。


「僕をマルティサン島に連れて行ってほしい。プロム・スクレイルの栽培方法を学んだんだ。栽培の伝授を手土産に、リュシアンの滞在期限まで島に置いてほしいんだ」


 しかし、俺にそれを決める権限はない。

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