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26 ギルドからの圧力


「で、どんな用事だったの?」


 冒険者ギルドの本部を出て仲間と合流するなり、待ちかねたシルヴィさんが聞いてきた。


「ここじゃなんだな。場所を変えよう」


 復興が進む王都の街並みを夕日が優しく照らす。それを眺め、中央広場へと向かった。


 さすがに王国の中心地が荒れたままでは体裁が悪い。各地から職人が集められているのだろうが、思った以上の再建速度だ。街にも以前の活気が戻りつつある。


 広場の片隅で出店を見付け、人数分の果実水を購入した。酒でないことに不満をもらした女性がひとりいたが、完全に無視する。


「呼び出しの相手は、ギルドの本部長でした。テオドール・ジョクス。知ってます?」


「フェリクスにくっ付いて、何度か顔を合わせたことがあるわね。渋いおじさまよね。元冒険者ランクL。優秀だったって聞いたわよ」


「でしょうね……五十歳くらいか。引退して長いでしょうけど、隙のない人ですね。物腰は柔らかいのに、目の奥が笑ってない」


 フリルの付いたシャツの上にベストとコートを羽織り、身綺麗にした紳士だった。口髭を貯え、彫りの深い壮観な顔立ち。全身からは威厳と風格が漂っていた。


 思い出しただけで体がこわばる。王城へ呼ばれた時とは別の緊張感があった。


 面会前に冒険服を買い換えたが、もっと上物にしておけばよかった。足下を見られず、対等な話し合いを進められたかもしれない。


「それでどうしたの?」


 シルヴィさんだけでなく、アンナも興味津々という顔だ。ふたりを眺めつつ、カップを口へ運んだ。冷えた果実水が染み渡る。


「簡単に言うと、警告だな」


「警告? リュー(にい)、なんかした?」


「あれだよ。ブリュス・キュリテールを封印した後で、知らせを出しただろ。報酬を出して戦士を選別する、ってやつ」


「やましいことなんて何もないじゃない」


 俺に同調して怒ってくれるシルヴィさん。寄り添ってくれる存在は素直に嬉しい。


「ギルドに相談もなく冒険者を募ろうとしたのが面白くなかったんでしょうね。しかも、報酬は二十億ブランだ。ギルドの面子が丸潰れだ、って威圧されましたよ」


「小さい男ね……」


「まぁ、向こうの立場もわかります。知らせを出す前に、きちんと話を通すべきでした」


「つまり、告知を取り下げろってこと?」


 結論を急かし、レオンが口を挟んできた。


「いや。冒険者の選別に一枚噛ませろ、だとさ。招集を手伝う活動費として、王国からの報酬である三十億の一部を寄越せってわけだ」


「なにそれ。ただの横取りじゃん」


 アンナが、ぷくりと頬を膨らませた。


「おまえが怒るのもわかる。でもな、冒険者ギルドの戦力を使わせてもらうのも事実だからな。知らせの記載は二十億だし、こっちには十億の予備費がある。ここでごねても仕方ねぇから、三億の寄付で話を付けた」


「え〜。もったいない」


「やられっぱなしで引き下がると思うか?」


 シルヴィさんとアンナの後ろで話を聞いていたユリスとマリーも、興味深そうな顔だ。

 広場のあちこちで聞こえる子どものはしゃぎ声が、俺を称賛しているように思えた。


「ブリュス・キュリテールを見張る砦を作っても構わない、って前に言ったよな。その建設をギルドが請け負ってくれることになった。オーヴェル湖を取り囲めれば一番いいけど、簡易的に壁を作るだけでも違うからな」


「あの魔獣の前では無意味だ」


 レオンはあくまで否定的な見方だ。


「なにも、攻撃を遮れるとは思ってねぇよ。奴の初動を封じるのが大事なんだ。氷の封印が解ける前兆もわからないだろ。溶けずに、いきなり水に戻るのかもしれねぇ」


「水竜女王の力なんだから、急に消えるなんてことはないと思うけど……」


 不安げな顔でつぶやくマリーに、ユリスが力強い表情で頷いた。


「そうですね。氷が溶け始めてくるというのは考えられます。もしくは、氷山の瓦解か」


「決戦の時が来ればわかるさ。で、俺がギルドへ行っている間に調べは進んだのか? ラモナ(とう)についてわかったことは?」


 仲間を見回すと、レオンが口を開いた。


「城下町の港から、船で三日くらいか。漁師も近付かず、凶暴な魔獣がはびこる小さな島だ。人が住んでいる形跡もないって言うし、何があるのかはわからない」


「なんだろうな……王立図書館で調べても、その程度の情報しか出てこないのか」


「ほんの数時間だ。書物でさわりを読んだだけだし、きちんと調べるには時間が必要だ」


 不満を漏らすと、レオンに言い返された。わざわざ調べてくれたのに、申し訳ない言い方をしてしまった。


「悪い。責めてるわけじゃねぇんだ。ミシェルが口にしたくらいだし、念入りに調べてみるだけの価値はあると思うんだよな」


「聞き間違えたわけじゃないよね?」


 果実水を飲みながら、アンナは半信半疑という目を向けてきた。


「あのな……俺を疑ってるのか」


「だって、あの爆発だったでしょ。早く逃げなきゃって時に、ちゃんと聞き分けられる?」


「念を押されると、自信がなくなるだろうが」


「でしょ。ラモナじゃなくて、レモナかも。ルモナってこともありえるよねぇ」


「わかった、それはもういい。後はこれだ」


 ポケットから、折り畳んだ羊皮紙を出した。


「ギルドに顔を出したついでに、パーティ登録も済ませてきた。これで俺たちは、正式に組んだことになる」


 広げたそれをみんなに見せると、同じような反応が返ってきた。ただひとりを除いて。

 眉根に皺を寄せたアンナが、険しい顔で俺を睨んできた。疑問と不満のある顔だ。


「これ、マリーちゃんの名前がないんだけど」


「そうだな」


「そうだな、じゃないよ。どういうこと? リュー(にい)、レン君、シル(ねえ)、アンナとセリちゃん。五人の名前しかないじゃん」


「そういうことだ。セリーヌを加えて、俺たちは五人で活動することにした」


「なんなの!? ちゃんと説明してよ!」


 アンナが憤慨すると、マリーは深々と頭を下げた。長い黒髪が肩を流れ、彼女の顔を覆い隠した。


「皆さん、すみません。別行動を取らせて欲しいって、私からお願いしたんです」


「なんで? 嫌なことでもあった? シル姉に体を触られすぎて、嫌になっちゃった?」


「違うんです。皆さんにはとても良くして頂き、感謝しかありません。これは私のわがままです。私にしかできないこと。それを見付けたんです……違う形で皆さんの支援をしていきたい。そう強く思っています」


「何それ。どういうこと?」


 追求するアンナの口調が刺々しい。仲間意識が強い性格だ。納得がいかないのだろう。


「俺は事前に相談をされてたんだ。オルノーブルの街で、エルザ司祭と知り合っただろ。司祭から、プロム・スクレイルを融通してもらえることになったんだ。マリーは、サミュエルさんの流通経路と、昔の縁を頼って、プロムナの作成方法を学びたいそうなんだ。プロムナを生産することで、俺たちに貢献したいって言ってくれてるんだよ」


 回復や戦闘補助の要となる存在を失うのは正直なところかなりの痛手だ。それでも、本人が望む道を尊重すべきだとも思っている。マリーは俺たちの所有物じゃない。


「いいんじゃないかな。俺は賛成だ」


 レオンがすぐさま乗ってきてくれた。元々、マリーが戦うことを反対していたし、良い機会になるだろうと予想していた通りだ。

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