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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.12 フィクサル編

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14 呪縛を断ち切りたい


 驚く俺の顔を見たユリスは呆れたように顔をしかめ、首を左右へ振っている。


「自覚がないんですか? だったら尚更、頭に来るんですよ……姉さんは、俺にとって大事な家族だ。姉さんの心を(もてあそ)んでいるようなら、俺が絶対に許さない」


「ちょっと待て。弄んでるつもりはねぇ。俺は真剣にセリーヌのことを考えてる。災厄の魔獣を倒して、彼女には自由に生きて欲しい。それが今の目標、というより願いだ」


「口では何とでも言えますからね」


 俺のことを信用していないのか。それとも、大事な姉に近付く害獣とでも思っているのか。


「長老の言葉は呪いのようなもんだ。セリーヌを縛り付けて離さない。災厄の魔獣を葬ることで、その呪縛を断ち切りたいんだ」


 訴えても、ユリスに響いている様子はない。テーブルの上で手を組み合わせ、唸るように鼻から深い息を吐き出している。


「姉さんも、あなたとならばそれを実現できると思い込んでいるようです。だけど……」


 ユリスの目が、値踏みするようにこちらへ向けられている。なぜか、審判を待つ罪人のような気持ちにさせられてしまう。


「俺はまだ、あなたのことをよく知らない。ですが、マルティサン島では皆の信頼を集め、好かれているのもわかっています。地の民のクロヴィスさんは、あれで気難しい人です。あの人と短期間で打ち解け、炎の民のヘクターもあなたを慕っている」


「だったら何の問題もねぇだろうが」


「いいえ。こちらへ来て、徐々にあなたの本性が見えきた気がします。通話石でのやり取りも聞かせて頂きましたが、裏で色々と動いているようにも見えました」


 ユリスもまだまだ純粋なのだと思い知らされた。冒険者になったばかりの頃の自分を見ているようで、なんとも微笑ましい気持ちにさせられてしまう。


「あぁ、そのことか……綺麗事だけではやっていけないってことさ。大事なものを守るためには、自分が率先して泥を被らなくちゃならない時がある。神官として生きるおまえにも、そんな場面が必ず訪れるよ」


 気の緩みから笑ってしまったことが不満なのか、尚も挑むような目を向けられている。


「だったら、シルヴィさんとの関係はどう説明するんですか。そんな不純な人が、姉さんに相応しいとは思えない」


 一番痛い所を突かれてしまった。これについてはどうにもならない。何より、ユリスに対して誠実でいたい。ごまかしはなしだ。


「シルヴィさんは仲間だし、過去に関係もあったりで、切っても切れない縁なんだ。俺が本音をさらけ出せる数少ない相手でもある。この関係をわかってくれとは言わねぇけど、俺にとって特別な立ち位置にいる人なんだ」


「同じ冒険者として行動しているだけで、今は関係を絶っている、ということですか」


「そこに斬り込まれるとつらいな……まぁ、その、なんだ……色々と複雑な事情があって、不定期だけど関係は続いてるんだ……」


「どういうことですか?」


 信じられないという顔をしているが、当然の反応だ。釈明の余地はない。


「シルヴィさんがどうしてもっていう時の、慰め役みたいなものなんだ。最愛の相手が見つかるまでのつなぎだよ。でもな、セリーヌを選ぶとはっきり伝えてあるし、お互いに納得した、大人の付き合い方をしてるんだ」


「大人の付き合い方? どう考えても不純だし、頭がおかしいとしか思えない」


 語気荒く言い放ち、ユリスは席を立った。


「俺には到底信じられないし、受け入れられない。姉さんはあなたたちの関係を知らないんですよね。騙しているのと同じだ」


「違うって。騙してるわけじゃない」


「あなたと話しても時間の無駄だ。島へ戻ったら、姉さんにはありのままを報告します」


「待てって」


 止めるのも聞かず、背を向けたユリスは足早に扉へ歩いて行く。その手が扉のかんぬきへ伸びると同時に、ノッカーを叩く音がした。


「はいはい。ちょっとお邪魔するわね」


 突然に、黒いインナー姿のシルヴィさんが乗り込んできた。通路を塞ぐようにユリスの前に立ち、彼を押し戻してきた。


「高額階なんだから、もう少し声を抑えて過ごしましょうね。あなたの怒鳴り声、廊下まで漏れてたわよ」


 艶やかに微笑むシルヴィさんから鼻の頭をつつかれ、ユリスは慌てて顔を背けた。


 だが、シルヴィさんにユリスを逃がすつもりはないらしい。両腕を広げて壁に手を突き、囲い込むように腕の中へ捕らえてしまった。


「あたしとリュシーのことが気になるの? なんだか不安にさせちゃってごめんなさいね」


 余裕を感じさせるシルヴィさんの物腰とは対照的に、言葉を失って黙り込むユリス。思わぬ助っ人の登場に、俺は胸を撫で下ろした。


「ユリス、落ち着いて話を聞いてくれ」


「ちょっと。リュシーが入るとややこしくなるから、少しだけ黙ってて」


「はい」


 そう言われては何も言えない。


「あたしたちの関係を、不純だと思われても仕方ないわね。それに関しては否定しないわ。でもね、あたしにはそれが必要なの。彼に抱かれるっていう行為は、心の安定を得るための精神的治療だと思って」


「治療って……」


「そういうことなの。まぁ、こんなあたしでも過去に色々あってね。時々、すごく不安定になることがあるわけよ……リュシーには、わがままを言って助けてもらってるの。君には都合のいいことに聞こえるかもしれないけど、それが事実なのよ」


「だったら、他の方法はないんですか」


「それを知ってたら苦労しないわよ。それにね、リュシーがセリーヌに夢中ってこともわかってる。ふたりの間には入り込めないし、それを壊そうなんて思わない。あたしはリュシーのために尽くしたいだけなの。壊れそうだった心を救ってくれた、救世主だから」


「俺は、そんな大それた奴じゃありませんよ」


 シルヴィさんの本音を初めて聞いた気がした。いつも支えられているのは俺だ。その恩を少しずつでも返したいと思いながらも、実際は何もできていない。


 シルヴィさんは獲物を追い込むように、ユリスの顔を両手でしっかりと包んだ。


「だから君も、余計なことは言わなくていいの。あたしたちのことを口外して、傷付くのは誰だと思う? 君が大切にしてるお姉さんでしょ。そのことをちゃんとわかってる?」


「脅しですか」


「あら、心外ね。あたしの大事な忠告を、脅しだなんて言うわけ? 大体、君も君でしょ。リュシーはフェリクスっていう大事な精神的支柱を失って、その事実を今日、目の前に突き付けられたわけ。それだけ弱っている所へ、更に追い込むようなことをして。あたしこそ、あんたを許さないわよ」


 ユリスの顔を包んでいた手を解いたシルヴィさんは、彼の高い鼻を思い切りつまんだ。


「さっさと部屋に戻って頭を冷やしなさい。それでも納得しないなら、明日聞いてあげる」


 シルヴィさんの手を払いのけたユリスは、黙って部屋を出て行ってしまった。シルヴィさんは腰に手を当て、呆れた笑みを浮かべる。


「リュシーも大変だったわね」


「ありがとうございました。俺の言葉だけじゃ、あいつを納得させられなかった」


「つらいときは素直に言いなさいね。とりあえず、あたしのおっぱい揉んでおく?」


「ここぞという時のために取っておきます」


 両腕に挟まれ、柔らかそうに盛り上がった膨らみ。そこから目を逸らせずにいた。

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