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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.12 フィクサル編

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04 自由と平和を勝ち取る戦い


 だが、ここでドミニクを責めても意味がない。せっかくの情報だ。それを深掘りすることが今は最も重要だろう。


「ドミニク。てめぇに挽回の機会をやる。ここまで出し渋ったってことは、アントワンたちの居所を掴んでるんだよな」


 わずかな間を置いて、ドミニクのかすれた息が通話石から漏れてきた。


『碧色様、そういじめないでほしいねぇ。残念ながらまったくの逆なんだわ。一味の足取りは途絶えて、目下捜索中。でもね、つい先日に王都近くで目撃されたって情報が、部下から上がってきたところなんだけどねぇ』


「王都へ逃げ帰ったってことか? それとも、この一件とは無関係なのか……」


「いずれにしても、この状況だもの。追ってみるだけの価値はあるんじゃない?」


「アンナも、シル(ねえ)の意見に賛成。なんだったら、アンナが引き継いでもいいよ。リュー(にい)と離れていた間はシル姉と依頼をこなしてるんだけど、魔獣退治ばっかりで張り合いがないんだよね」


 張り切って手を挙げるアンナと、側に立つシルヴィさんを右手で制した。


「相手はランクSだったな。下手に接触するのは危険だ。折を見て俺から仕掛ける。それまでは適当に泳がせろ」


 強い怒りが体を支配している。手にした通話石ですら、握り潰してしまいそうだ。


「もしもこの一件に絡んでいたら、ただじゃおかねぇ。その前に、こっちから仕掛ける餌に食い付いてくるかもしれねぇけどな」


「餌ってなんのこと? リュシーがくれる餌なら、あたしにも頂戴」


 余計なものまで釣れてしまった。

 シルヴィさんが途端に抱きついてきたが、相変わらず胸当てに圧迫されて痛い。


「シルヴィさん、離れて……肋骨が折れる」


 どうにか彼女を引き剥がして一息ついた所で、改めて一同を見回した。


「ドミニクも聞いてるな。通話を切るなよ」


『もちろん聞いてるよ』


 シルヴィさんとアンナは期待に目を輝かせているが、レオンは相変わらず我関せずといった冷めた顔だ。マリーとユリスは一歩引いた所で、俺たちのやり取りを静観している。


「ブリュス・キュリテールとの再戦に向けて、戦士の選別を行うと知らせを出したはずだ。仕切りは、シルヴィさんに任せてある」


「あら。そうだったかしら?」


「とぼけても無駄ですよ。で、王国からの懸賞金は十億ブランだった。向こうも襲撃からの復興で大変なのはわかってる。でも、国が存続するかどうかの一大事だ。大臣のアロイスを揺さぶったところ、国王が三十億ブランへの増額を提示してくださったそうだ」


『三十億!?』


 シルヴィさんとアンナから同時に声が上がり、通話石からドミニクの口笛が漏れた。


「選別でどれだけの冒険者が参加するかによるが、ひとり頭で換算してもかなりの報酬だ。ランクS以上って条件付きだが、更に厳しい条件にしてもいいかもしれない」


『戦いのどさくさに紛れて、碧色様を狙うような奴が出てこないとも限らないよねぇ。護衛として、こっちの傭兵団からも腕利きを出しておいた方が良さそうだわ』


「確かにそれは盲点だったな。報酬の管理と分配は討伐後ってことにしてるけど、どんな馬鹿が出てくるかわからねぇ。もしくは、分配後に襲われる可能性も零じゃない」


 口にしてから、フェリクスさんとヴァレリーさんの顔が頭をよぎった。


 王の左手という存在でさえ命を狙われたのだ。大金を持っていると宣言している俺など、格好の的になってもおかしくない。


「安心して。リュシーのことは何があっても守るから。たとえ命に代えてもね」


 口元は笑っているが、いつになく真剣な目を向けられている。フェリクスさんを失ったことに強い後悔を感じているのかもしれない。


「シルヴィさん、立場が逆ですよ。俺だってみんなを守るために強くなったんだ。戦いで命を散らすようなことは絶対にさせない」


 強い決意を込めて、言葉として発する。そうすることで、自分自身にも一層の気合いが入るのがわかった。

 自由と平和を勝ち取る戦いだ。ひとりでも多くの人に、新しい世界を謳歌してほしい。


「好き! 今すぐ抱いて! あたしの命は、リュシーの枕元で散らすわ」


 またもやシルヴィさんが抱きついてきた。


「いや、だから肋骨が……」


「だったらアンナは、そんなふたりのことを絶対に守るからね。任せて」


 遊戯のようなやり取りに辟易しながら、どうにかシルヴィさんを引き剥がした。


「俺の話はまだ終わってないんだ。王国側から、ひとつ条件が付いた」


 それまでの騒ぎが途端に鳴りを潜め、みんなの意識がこちらへ向いた。


「王国軍の精鋭も戦いに参加するって話だ。王国軍がとどめを刺せば、懸賞金は半分の十五億に減額だとさ。そうなれば、俺は五億の負債を背負って、冒険者たちに分け前を払う羽目になる。俺たちの誰かが魔獣を仕留めて、少しでも支出を抑えるしかねぇ」


「なるほど。そういうことでしたら、俺たちも名乗りを挙げさせてもらいます」


 不意に声を上げたのはユリスだ。


「俺たちもって、どういうことだよ」


()(びと)の中からも腕利きの戦士を揃えます。俺からの提案はもちろん、婚姻の儀の仕切り直しです。我々がとどめを刺せば、姉さんの相手は島の者から選ばせてもらいます」


 なにやら面倒なことになってきた。俺は慌ててユリスに近付き、その肩に手を置いた。


「そういう大人の取り引きは、裏でこっそりやるもんだ。ここでは矛を収めろ」


 敵意を込めた目で睨まれた。ユリスは身じろぎして距離を取り、苦々しい顔を見せる。


「ガルディア様は、機会を与えるようにと仰られただけです。災厄の魔獣の首は、俺たちがもらい受けます。姉さんと俺の悲願を達成するためにも、この役目は譲れない」


「守り人たちが、並々ならぬ因縁を抱えているのはわかってるつもりだ。それでも結果を求められれば、俺も黙っていられない。それに生半可な力じゃ、あの怪物には通用しない。俺はあの力を肌で感じたひとりだ」


「ちょっと待って」


 側に立っていたマリーが声を上げた。


「ユリスさんの言うとおりになれば、女神様をこの野蛮な人に獲られなくていいってことよね。シルヴィさんの求めにも応じられるし、みんなが幸せになるんじゃない?」


「あのな。俺とセリーヌはどうなるんだ。本人たちの意思は無視するのか」


「あなたの独りよがりな行動に決まっています。女神様はお優しい方だから、そそのかされているんです。あんな卑猥な法衣まで着せられたばかりに、長にも怒られて。本当に可愛そう……私が目を覚まさせてあげないと」


 マリーは謎の使命感に燃えている。


「おまえら、言いたい放題だな」


 溜め息をついた途端、肩を抱かれた。視線を向けると、勝ち誇った笑みを浮かべたシルヴィさんから熱い視線を注がれている。


「姉さんだの婚姻だの、何やら楽しそうな話ね。あたしも混ぜてもらおうかしら」


「え? いや……シルヴィさんには関係のない話なんで大丈夫ですよ。混ざりたくても、凄い力で反発しあうと思いますから」


「なによ。隠し事なんて酷いじゃない。あたしもリュシーの隠し子を産んじゃおうかしら」


「話を余計にややこしくするな」


「いい加減、場所を移したら? 墓所で喚いていたら失礼だと思うけど」


 レオンの指摘で全員が押し黙った。その正論に救われたことに変わりはない。

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