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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.12 フィクサル編

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01 言いようのない胸騒ぎ


「一度、アンドル大陸へ戻ろうと思うんだ」


 食事の席で切り出すと、マリーから不思議なものを見るような顔をされた。


「どうして、こんな中途半端な時期なの?」


 洞窟の中に俺たちの声が響く。


 岩を削って作られた、無骨なテーブルと腰掛け。これはこれで味わいがあるものの、どうせなら青空の下で食事をしたい。


 訓練の合間を縫って軽食を摂るには、ここに集まった方が手っ取り早いという理由で、今もこうして加工肉のクローズドサンドを頬張っている。

 テーブルの片隅には、セリーヌが持ち込んだ甘辛ボンゴ虫が器に盛られている。しかし、そこに手を伸ばす者はいない。


「これだよ。これ」


 二の腕に填めた、加護の腕輪を指先で弾く。


「俺たちがここに来て、もうすぐ三ヶ月だ。冒険者活動を百日以上とめると、強制的に除名されるっていう規則があるんだよ」


「え!? そうなの?」


 目を丸くするマリーを見て、隣の席に座るセリーヌが口元を隠して微笑んだ。


(わたくし)の腕輪を使ってくださっているのですから、マリーさんがご存じないのも致し方ありません。リュシアンさんが仰る通り、シャルロットさんから同様の御説明を頂きました」


「なかなか言い出さないから、忘れているのかと思った。さすがに覚えていたか」


「当たり前だろうが」


 レオンにすかさず言い返したが、涼しい顔で木製カップの水を口にしている。


「というわけで、戻って適当な依頼を一件こなすぞ。最悪は俺たちの腕輪をシルヴィさんに預けて、代わりに依頼をこなしてもらう」


「ぬるい考えだ」


 レオンは手にしたコップを、叩き付けるように荒々しくテーブルへ置いた。


「マリーはともかく、俺たちは依頼を選ぶような立場じゃない。それぞれの力量に合わせたものを振り分けられるはずだ。ランクLともなれば、代役に対処できるはずがない」


「悪い。レオンの言う通りだな」


「力を付けようと焦るのはわかるけど、他を疎かにしては上手くいくものも立ちゆかなくなる。今の力量を確認するくらいのつもりで、ひとつずつ丁寧にこなすべきだと思うけど」


「レオンさんの仰る通りです」


 力強く頷いたセリーヌは、甘辛ボンゴ虫の盛られた器を引き寄せた。


「これも訓練の一環だと思い、食べられるよう丁寧にこなしてください」


「なんでここで、それが出てくるんだよ」


 思わず溜め息が零れてしまう。


「セリーヌが飲んでいるのは水じゃなくて、酒なんじゃねぇのか」


「失礼ですね。そんなことはありません。こんなに美味しいものが苦手だなんて、人生のいくばくかを損していますよ」


 頬を膨らませていたセリーヌは、ボンゴ虫のひとつを咀嚼した後、席を立った。


「皆さんがアンドル大陸へ戻られている間、私はここに残って訓練を続けるつもりです」


「一緒に来ないのか?」


 意外な言葉に胸がざわつく。共にいるのが当たり前になっていた自分自身に戸惑い、彼女の存在の大きさを改めて思い知られた。


「私の腕輪は、マリーさんが使ってくださっております。私が出向く必要はありませんし、何より訓練も途中ですから」


「途中っていうなら俺も同じだ。セルジオンとの連携だって完全じゃない。ガルディアは次の段階に進みたがっているし、もどかしくて仕方がないって感じだけどな」


「では、皆様には息抜きも兼ねた良い機会となりますね。私は、ガルディア様とアレクシア様も許可をくださらないでしょうし、何より長老たちが良い顔をなさらないでしょう。ガルディア様がお目覚めになられた今、私もこれまでの遅れを取り戻さなくてはなりません。今度こそ、災厄の魔獣を討ち果たすために」


「そうだな。みんながそれぞれの目的のために動くべき時なんだろうな」


「え〜。女神様と離ればなれだなんて……」


 途端に、マリーが不満の声を上げた。


「それなら私も腕輪を放棄したいですけど、アンドル大陸に戻ることには賛成です」


「そうとなればガルディア様に相談し、飛竜を用意して頂くことに致します。二、三日中には帰郷の目処が立つと思います」


「ありがとう、セリーヌ。急な話で申し訳ないけど、頼めるか」


 そうして迅速に話は進み、翌日には俺たちを運んでくれる飛竜が手配された。


 久しぶりに冒険服へ袖を通したが、あちこちが破れ、見るも無惨な姿だ。鎖帷子(くさりかたびら)は着られそうにないので処分してもらったが、それはレオンの鎧も同様だ。アンドル大陸へ戻ったら、早々に装備の新調が必要だ。


 神殿の前で待つ飛竜の下へ来ると、セリーヌが見送りに来てくれていた。隣にはユリスの姿もあるが、他の候補者たちは訓練を優先しているのか姿が見えない。


「リュシアンさんに、竜の笛をお預け致します。牙から削り出した特別な笛で、その音色は竜たちにしか聞こえません。皆さんをお送りした後、飛竜は人目に付かぬ場所で休ませますが、笛の音を聞きつければ馳せ参じますので」


「それはありがたいな」


 革紐が通された小さな角笛だ。炎竜の首飾りもあるが、首に掛けて持ち歩くのがいいだろう。


「それと、皆様にひとつお願いがあります」


 申し訳なさそうにするセリーヌの横で、腕を組んだユリスが尊大な顔で鼻から息を吐く。


「姉さんの代わりといっては何ですが、俺が外の世界へ付いていくことにしました。外の世界で見聞を広め、神官の活動に活かすようにと(おさ)からも言われています。職人たちも付いてきたいと言っていますが、彼らは別行動になります。気にしないでください」


「付いてくるのは勝手だけどさ。なんでそんなに偉そうなんだ」


「偉いからですが。悪いですか」


 不遜な態度を崩さないが、こういう所にまだまだお子様らしさを感じてしまう。


「この島を出れば、おまえも他の奴らと同じ扱いなんだぞ。先に言っておくけど、俺はおまえを守るつもりもねぇからな」


「別に、守ってもらおうとは思っていません」


「だったらいいんだ。聞き分けのない駄々をこねるようなら、飛竜ですぐさま送り返してやるからよ。安心しろ」


「言わせておけば……あなたの化けの皮を剥いで、本性を確かめさせてもらいます。姉さんに相応しい相手は、俺が決める」


 相変わらず、姉さん大好きな小僧で困ってしまう。ことあるごとに絡まれる、俺の身にもなってほしいものだ。


「申し訳ございません。弟を何卒よろしくお願い致します」


 セリーヌに頭を下げられては無下にできない。ユリスを加えて飛竜の背に乗り、俺たちは風の結界に包まれて移動を始めた。


 島を覆う霧を抜け出し、三十分が過ぎた頃だ。腰に提げた革袋の中で、魔導通話石(まどうつうわせき)が反応を示した。


「どうしたんですか」


『ちょっと、リュシー。今まで何してたの!? 何ヶ月も連絡が取れなくなるなんて、まったく聞かされてないわよ!』


 シルヴィさんの苛立ちが、通話石越しにもはっきりと伝わってくる。魔獣と話しているような威圧感に気圧されてしまう。


「すみません。鍛えてくれるという話になって、みんなで訓練を受けている最中で」


『こっちはそれどころじゃないのよ。大変なことになってるんだから! とにかく、すぐに帰ってきて。フェリクスが……』


「フェリクスさん?」


 消え入りそうなシルヴィさんの声に、言いようのない胸騒ぎがした。

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