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10 俺の正義を貫くために


「お気をつけください。リュシアンさんが思っている竜臨活性(ドラグーン・フォース)とは性質が異なります」


「セリーヌ様、ここにいては危険です。お下がりください」


 不安を帯びたセリーヌの声に続き、コームさんの警告が耳に届いてきた。

 確かにここで六人と全力でぶつかれば、どんな被害が出るのか想像もつかない。


「セリーヌ、忠告ありがとう。安全な所まで下がって、のんびり見物していてくれ」


 俺の言葉に合わせたように、舞台を囲んでいた魔力壁が客席の高さまで浮かび上がった。


 長老たちの目がなくなると、戦士たちは呪縛から解かれたように生気を取り戻した。その中でも、若くて血気盛んそうな水の民イヴォンから、険しい顔で睨まれている。


「随分と余裕なんだな。外の世界のことはわからないけど、俺たちを見くびるなよ」


 槍を構えたイヴォンの側で、杖を手にした(いかづち)の民と、長弓を持ったウードが身構える。


「こうなりゃ俺たちの出る幕はねぇ。巻き添えは御免だ。イヴォン、バルテルミー、ウード。ここはおまえらに任せる」


 苦笑したクロヴィスは、なぜか戦斧を下ろしてしまった。その側で、炎の民の若い男はほっとしたような顔を見せている。俺が倒したジャメルは、ようやく身を起こした所だ。


竜臨活性(ドラグーン・フォース)


 濃紺だった三人の髪色が銀色へ染まった。彼らから感じる力が爆発的に高まっている。


 クロヴィスたちは力を温存しているのか。それとも竜臨活性(ドラグーン・フォース)を使えないのか。彼の言葉を信じるならば、ここからは三対一だ。


「そうとなれば、こっちも……」


「がうっ?」


 左肩の上で、ラグが間抜けな声を漏らした。


 相棒へ素早く視線を走らせる。ラグは固まったように遠くを見ていたが、不意にこちらを向いた。


「きゅうぅん」


 切なげに鳴くと、ラグは薄まりながら消えてしまった。なぜかその姿が、別れの挨拶をされたようにも見えた。

 これまでも俺の体調と連動していたが、今は特段の変化もない。ラグはなぜ消えたのか。


「よそ見をしてる場合か?」


 イヴォンが槍を手に突進してきた。先程よりも加速を増した鋭利な一撃だ。


 気を抜けば容易に貫かれてしまう。

 身を反らし、それをどうにか避けた。


「逃がすかよ」


 突きを躱されるや否や、イヴォンは槍を横薙ぎに振るってきた。魔法剣を胸の前に構え、攻撃をかろうじて受け流す。


雷竜轟響(ヴォロンテ・トネール)


 体勢が崩れた所を、雷の魔力球に狙われた。


 剣を振るっては隙が大きすぎる。


  咄嗟の判断で裏拳を繰り出した。


 青白い炎を纏った左拳が魔力球と激突。魔法を粉砕したものの、左腕に鋭い痛みが走る。

 さすがに(いかづち)をはねのけるのは無理があった。左腕は、指先から肩まで痺れている。


「その程度か」


 後方へ飛び退いた時、背後で声がした。振り向かなくてもわかる。風の民、ウードだ。

 いつの間に背後を取られたのか。まるで気配を感じなかった。


 振り向きざま、横一線の斬撃を繰り出す。それが相手を捉えるより速く、ウードの繰り出した掌底に顎を打ち抜かれていた。


「がっ!」


 視界が揺らぎ、足下がふらつく。


 この一瞬が命取りとなった。


 視界の隅には、槍を構えたイヴォン。耳にはバルテルミーの詠唱が聞こえる。これらを運良く凌いでも、再びウードに狙われる。


 ラグはどうした。


 混乱しながらも、イヴォンへ駆けた。敵を巻き込めば、魔法も容易には撃てないはずだ。


「甘いな」


 耳元で、ウードの声がした。脇腹へ蹴りを受け、石造りの舞台を転がっていた。


 なにが起こっているのかわからない。


 四つん這いになって身を起こすと、横へ大きく広がる紫電(しでん)の帯が迫っていた。


 網を投げ込まれた魚の気分だ。これはさすがに逃げ切れない。


 その時だ。俺と紫電の帯の間へ、人影が割り込んだ。魔力を帯びた斬撃が、紫電を鮮やかに斬り捨てる。


「だから言ったんだ。悪い前例があるって」


「見せ場はこれからなんだよ」


 呆れ顔のレオンに言い放ち、剣を構えた。


「おいおい。これは規定違反じゃないのか」


 野次を飛ばしてきたのはクロヴィスだ。

 レオンは相手を睨んで口を開く。


「こいつが、本気を見せてみろと言われただけの話だ。手を出すなとは言われていない」


「言い訳にしちゃあ苦しいんじゃねぇのかい? 素直に負けを認めたらどうなんだ」


 戦斧の柄に両手を置き、吞気に顎を乗せているクロヴィス。油断で緩みきったその顔を殴り飛ばしてやりたい。


「ふざけんな。負けられねぇんだよ。セリーヌに、自由を与えるって約束したんだ。そのためなら、どんな卑怯な手でも使ってやるよ」


「おもしれぇ。言うじゃねぇか小僧」


「勝利がすべてなんだ。俺は俺の正義を貫くために、てめぇら全員ぶちのめす!」


「言うは易し、ということか」


 背後で再びウードの声がした。俺とレオンは反射的に、左右へ散り散りに飛んだ。


 ウードが地を蹴ったのがわかった。そう思った時には、敵はレオンに追いついていた。


 レオンも風の魔法で脚力を強化しているが、ウードはその速度を更に上回っている。


「また、よそ見かよ」


 突きの構えをしたイヴォンが迫っていた。

 しかし、そう何度もやられるわけにはいかない。魔法剣を構え、敵の懐へ飛び込んだ。


流水堅牢(スロビュスト)


 高らかに声を上げたイヴォンの全身を、水の球体が包んだ。


 これは恐らく水の結界だ。水竜女王プロスクレが、炎竜王が乗り移った俺の一撃を退けた技に似ている。


 剣先が球体へ触れた途端、振り回されるように球体の外周を回っていた。

 そのままの勢いで、イヴォンの後方へ弾き飛ばされてしまった。


「右手に(いかづち)。左手に雷。双竜術(そうりゅうじゅつ)雷剛裂天(トルドゥデシル)!」


 倒れた先には、バルテルミーが待ち受けていた。杖の先から魔力が迸り、頭上から凄まじい雷撃が降り注ぐ。


 観客の声に混じり、セリーヌの悲鳴が聞こえた気がした。全身を次々と刺し貫かれる激痛。矢継ぎ早に打ち込まれる雷撃に、痛みという感覚さえ麻痺していた。


 魔力障壁(プロテクト)は耐久限界を迎え、ガラスの割れるような音を響かせた。石造りの舞台も落雷であちこちが崩れ、見るも無惨な姿だ。


 さすがに身動きが取れない。これほどの使い手がいるとは世界はまだまだ広い。


「レオン……」


 頼みの綱はあいつだけだ。


 斬り結ぶ、激しい衝突音が聞こえてくる。


「マリーさん、落ち着いてください」


「だって、レオン様が……私も加勢します」


 セリーヌとマリーのやり取りが聞こえた。バルテルミーはそれを鼻で笑う。


「割って入った剣士のことか」


 状況を確認できないが、一同の反応からして良い結果でないのは明らかだ。


「こんなところで終われねぇだろうが……」


 言葉とは裏腹に、体を動かすことができない。だが、セリーヌを失うくらいなら、ここで死んだ方が遙かにましだ。


 ここですべてを出し尽くすんだ。

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