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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.11 マルティサン島編

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08 張りぼての冒険者


 水の民の男は、槍と戦斧(せんぷ)を手にしていた。斧をクロヴィスに押しつけ、自身も槍を握って身構える。


 得物を受け取ったクロヴィスは、意気揚々とした笑みを浮かべて水の民を伺った。


「イヴォンって言ったか。若けぇのに気が利くじゃねぇか。気に入ったぜ」


「男に好かれても嬉しくない」


「ははっ。ちげぇねぇ」


 イヴォンと呼ばれた男。実力はあるのだろうが、外見はいまひとつ迫力に欠ける。

 肩まで伸ばした髪と整った顔立ち。一見すると女性のようにも見える。美形と呼んで差し支えない部類の少年だ。


 痛めつけるのは心苦しいが、俺にも負けられない理由がある。それに、舞台裏には医療班も控えているという。多少の無茶をしても、彼らが手当てをしてくれるだろう。


 直後、イヴォンは槍を構えて突進してきた。

 見た目とは裏腹に、しっかりと体重を乗せた華麗で鋭い突きだ。


「でもな」


 気迫も速度も、シルヴィさんに劣る。


 身を反らして槍を避けた。飛び込んできた勢いを利用し、腹部へ膝蹴りを叩き込む。


 槍が床に落ち、硬質の悲鳴を上げる。背中を丸めたイヴォンの服を掴み、担ぎ上げた。

 細身だけあって体重も軽い。


「うぉらあぁぁぁ」


 気合いの声を吐く。後方の三人を目掛け、イヴォンの体を投げつけた。


 炎の民は鞭。雷の民は杖。風の民であるウードは弓。誰もが遠距離攻撃が可能だ。

 彼らの集中を阻害した隙に、クロヴィスの懐を目掛けて駆け込む。


「小僧!」


 クロヴィスが戦斧を振り上げる。その動きに合わせて、腰の革袋へ手を伸ばした。


 警戒したのか、クロヴィスの動きが鈍る。


 本来の規則であれば、道具の使用は不可能らしい。しかし俺が乱入したことで、規則は曖昧になっている。


 俺の撹乱作戦により、一拍遅れで振り下ろされた豪快な一閃。俺はクロヴィスの視線から逃れるべく、素早く左方へ飛んだ。


 戦斧が床石を砕く。その瞬間を捉えながら、相手の右手首を蹴りで破壊した時だった。


「がう、がうっ!」


「面白い男だ」


 ラグの警戒が聞こえ、横手にウードが迫っていた。


竜臨活性(ドラグーン・フォース)とは違うな」


 俺を捕らえようとする手を払いのける。


 尚も執拗に追ってくる両手を払ううち、組み手のような揉み合いに発展していた。ウードにも格闘術の心得があるらしい。


 気配は消していたつもりだが見破られた。こうなれば、出力を高めて一気に黙らせる。


 奴に飲み込まれない瀬戸際を探る。


 俺の敵は眼前の六人だけじゃない。もっと狡猾な大物が、精神世界に巣くっている。力を借りるのは癪に障るが、奴の力なくして目的を達することはできない。


 できることならひとりの力でこなしたい。でなければ、胸を張ってセリーヌと向き合う資格はないだろう。力を借りているうちは、まだまだ二流だ。ランクLという借り物の鎧を纏った、張りぼての冒険者でしかない。


 思い人の前では見合うだけの男でありたいと、心の底から願っているのに。


 竜の爪を思わせる一撃。それが、ウードのみぞおちを確実に捉えた。


 横手から、クロヴィスの左拳が迫っていた。右肘を使ってそれを打ち上げる。お返しとばかりに、左の掌打を顎へ叩き込んだ。


 よろめいたものの、さすがに崩れない。見た目通りの頑丈さだ。


「これならどうだ?」


 すかさず追撃。飛び上がると同時に相手の後頭部を押さえ、一気に膝蹴りを見舞う。


 竜の一撃を前に、巨漢の男も呆気なく崩れた。残るはふたり。


雷竜轟響(ヴォロンテ・トネール)


 目を向けた途端、雷球が繰り出された。


 思わず鼻で笑い飛ばしてしまう。


「効かねぇよ」


 右腕を振るい、雷球を引き裂いた。こちらに付いているのは炎を(つかさど)る王だ。燃え盛る業火へ、雷の魔力石を放っているに等しい。


 蛇のようにしなる鞭。それが右腕を絡め取る。だがそれだけだ。竜を縛り付けることなど不可能だと思い知れ。


炎纏(えんてん)竜翻衝(りゅうはんしょう)!」


 青白い衝撃波が(ほとばし)る。炎の民と雷の民だけでなく、周囲に倒れていた四人までもが揃って弾き飛ばされた。


 難を逃れた司祭は腰を抜かし、出てきたばかりの扉へ四つん這いで逃げてゆく。


「これで片付いたか」


 安堵の息を吐き、周囲を見渡す。戦いを見届けたラグが、俺の左肩へ着地してきた。


「あいつ、何者なんだ」


「なんだかわからないけど、強いぞ」


「クロヴィスに賭けた金はどうなるんだ」


 場内は口々に喚く観客の声に満ちている。だが、そんな声は知ったことじゃない。俺はこの場を収められたことに満足していた。


 直後、円形の舞台を取り囲むように、六枚の魔力壁(まりょくへき)が床からせり上がってきた。


 それぞれの魔力壁へ、異なる老人の顔が映し出されている。全員が七十歳を超えているように見えるが何者だろうか。


 ざわついていた客席が、無人になったように静まりかえっていることに気づいた。


「長老……」


 緊張を帯びたセリーヌの声が漏れる。

 ついに噂の人物を拝めたわけだが、どれが対象の相手かわからない。


「小僧、随分と好き勝手に暴れてくれたものだな。代償は高く付くぞ」


 正面に位置する一枚。そこに映し出されていた老人から、圧のこもった目を向けられた。


 これまでに受けたことのない威圧感だ。フェリクスさんと相対した時でさえ、これほどの緊張を感じたことはない。


「セリーヌ、おまえもおまえだ。神器の回収はどうした。そのみっともない服も捨てろと言ったはずだ。感化された元凶は、その男か」


「だったらどうだって言うんですか。俺は、セリーヌに自由を与えるために来た」


「自由だと? こざかしい。我々が、セリーヌを縛り付けているとでも言うのか。何も知らない余所者が口を挟むな。この島にはこの島の、流儀というものがある」


「流儀か……あなたたちの考え方が古いとは思わないんですか。感化されるなんて大いに結構だと思いませんか。新たな流れを受け入れ、若者の言葉に耳を貸すことも必要です」


「勝手なことを」


 老人は不快感に顔をしかめている。こちらの話を容易に受け入れてくれるとは思えない。


「風竜王の背中から、この大陸の様子も垣間見ました。建物の設計や人々の服装、俺たちの住む大陸とは十年以上も流行が遅れているように見えます。時が止まっているとは言いませんが、あなたたちの影響力が強すぎる」


「口の達者なことだ。そうやって、セリーヌをたぶらかしたというわけか。百害あって一利なし。生きて帰れると思うな」


 地の底から響くような低い声。たじろぐほどの迫力に、嫌な汗が噴き出してくる。


「おまえたち。竜臨活性(ドラグーン・フォース)と全竜術の使用許可を与える。外の者は皆殺し。セリーヌとコームを捕縛しろ」


 老人と話している間に仕掛けられていたらしい。癒やしの光が六人の民を包む。彼らは、死人が蘇るように次々と身を起こした。

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