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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.10 フォール編

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24 闇ギルドと秘匿情報


「団長を殺したのか?」


「アンナね、銀の翼を抜けた別の団と接触したの。人身売買に加担するそいつらを見てたら、怒りが抑えられなくなっちゃってさ。腐った奴らはどこまで行ってもダメだよね」


 アンナは、オルノーブルの街で出会った傭兵団、闇夜の銀狼の面々を思い返していた。リュシアンは何かと重宝しているようだが、彼女には到底受け入れられない存在だった。


「腐った部分は根元から断ち切らないと」


「数十人はいる兵団だった。おまえの力は認めるが、とても信じられん」


「アンナには協力者がいたの。酔い潰した兵士たちを片っ端から始末しちゃった。お陰で、わりと簡単な作業だったよ」


 普段は明るく温厚なアンナだが、その顔へ不意に影が差した。夜の闇に溶け込むような仄暗い空気が辺りを支配する。


「ライさん。日誌の中身を見たんだよね? それを渡して消えてくれるなら見逃してあげる。アンナだって、できればライさんを手に掛けるようなことはしたくないよ」


「それは無理な相談だ」


 静かに言い放ち、ライアンは剣を構えた。


「ひとつ忠告しておいてやろう。俺たちを敵に回せば、闇ギルドの連中が黙っていないぞ」


「闇ギルド!? 社会を裏から牛耳ろうっていう危ない連中でしょ。そんな奴らと?」


「汚れ仕事ばかりだが、剣の腕だけでのし上がれる世界だ。まともに働くのが馬鹿らしくなるほどの報酬も手に入る」


 アンナの口から深い溜め息が漏れ、闇へ吸い込まれてゆく。彼女の全身へ殺気が漲る様がはっきりとわかった。


「ライさんもついに腐っちゃったんだね」


 敵の懐へ飛び込んだアンナ。その両腕が、独立した意思を持つ生物のように動いた。


 ライアンはすぐさま防戦一方に追い込まれた。気を抜けば、勝負は一瞬。


 彼が身に付ける鎧は、二の腕と太ももが剥き出しの部分鎧だ。そこを狙ったアンナの連撃に、見る間に傷跡が増えてゆく。


 夜の街外れに金属音がけたたましく鳴り響く。炎に包まれた街と同様、たった一晩で全ての状況が一変した。ここにはもはや、穏やかな海辺の街という趣はない。オリヴィエの香りだけが変わらず漂うのみ。


「ふんっ!」


 戦いの流れを変えたのはライアンだ。篭手に仕込んでいた魔法石が地面で弾け、彼らの足元へ即座に薄氷が広がった。


 駆け込んでいたアンナは脚を滑らせた。咄嗟に片膝を付いて体勢を保つ。


「どうだ!」


 ライアンは薄氷地帯を飛び退きながら、続く魔法石を放る。薄氷の上で黄色の魔法石が炸裂し、氷上へ紫電が(ほとばし)る。


 だが、アンナの身体能力が上回った。両手をつきながらの連続後方回転。間一髪で氷上から抜け出したものの、双剣は氷上へ置き去りにされてしまった。


 武器を拾い上げようと身構えたアンナ。走り出そうとしたその刹那、身に迫る危険を察し、即座に体を後方へ反らせた。


 眼前を真空の刃が掠めて過ぎる。彼女の代わりに幾本かの木々が薙ぎ倒され、乾いた音を立てて地面に転がった。


「へぇ。やるじゃない。さすが、あのボウヤが手元に置いておくだけのことはあるわね」


 アンナは背筋を伝う悪寒に身震いした。ライアンへの殺意も忘れ、心は一瞬の内に恐怖という感情で塗り替えられてゆく。


「あんたは……」


 気配すら感じさせずに現れたのはモニクだ。アンナの視線を笑ってやり過ごし、ライアンが投げ捨てた麻袋の側へ着地した。


「依頼主自ら現れるとは、どういう了見だ」


 ライアンの問い掛けに、モニクは不機嫌そうに眉をひそめた。


「あなたたちがだらしないからじゃないの。街をひとつ堕とすのに、何人の犠牲を出すつもり? あのボウヤを追い込むには少しでも戦力が必要だって言ったのに」


 嫌味を言いながら、モニクは麻袋の中へ杖の先端を差し込んだ。


「とは言うものの、あなたは褒めてあげる。これを奪ってきたのは大きな功績ね」


 持ち上げられた杖の先には一本の首飾りが下がっている。ライアンが、セリーヌから奪ったタリスマンだ。


「これさえあれば私の魔力も跳ね上がる。あなたたちがいなくてもボウヤと渡り合えるわ」


「待て。それは俺が」


「何よ。文句があるの? これは天才魔導師であるこの私にこそ相応しいの。蕁麻疹さえ出なければ存分に使いこなせるのに」


 モニクはそれを身に着けると、双剣を拾い上げるアンナを見た。弱者を見下す、余裕の込もった侮蔑の視線が突き刺さる。


 恐怖に顔を引き攣らせるアンナ。息を呑むその細い喉が、悲鳴を上げるように鳴った。


「いいものを見せてあげる。とっておきよ」


 モニクは腰に巻いたベルトへ杖を刺し、両手を腰の高さまで持ち上げた。


「躍動の(あかし)、猛るは炎。この身へ宿りて焼き尽くせ。蒼駆ける風、自由の証。この身へ宿りて敵を裂け」


 左と右。それぞれの手中で、異なる属性の魔力が急速に膨らんでゆく。それを目にしたアンナは、脱兎のごとく逃げ出した。


 このままでは危ない。


 彼女の生存本能が危機を告げていた。


「合成魔法、灼熱暴風(フラム・トルナ)


 直後、炎の嵐が吹き荒れた。辺り一面を瞬時に飲み込み、夜の闇を炎の紅が染め変える。血のような紅に、微笑むモニクの姿が浮かぶ。


「あぁ。愉快、愉快」


 街人の苦しみとは裏腹に、拡声魔法に乗ったモニクの高笑いだけが呑気に響く。

 燃え盛る業火をうっとりと眺めていたモニクは、側に立つライアンへ視線を向けた。


「ところで、日誌って聞こえたけど」


「何のことだ」


「嘘が下手ね。銀の翼ってことは、ヴィランド城を根城にしてたんでしょ。暗殺されたあそこの王も、研究に加担していたはずよね」


 研究という言葉に、平静を保っていたライアンの口元が僅かに歪んだ。


「言っている意味がわからないな」


「私にも色々情報網があってね。蝶々が、いくつか教えてくれたのよ。その蝶々もこの間、あの碧色のボウヤに始末されたようだけど」


「そうなのか」


「安心して。それを横取りしようなんて思ってないから。闇ギルドなら飛びつきそうな情報よね。なにせ、超大型魔獣ブリュス=キュリテールに関わる秘匿情報なんだもの」


「あんたの目的はなんなんだ」


「別になにもないわ。強いて言うなら破壊、かしらね……」


「破壊?」


「何もかもなくなってしまえばいいのよ。こんな世界なんて消え去ってしまえばいい」


 唇を噛み締めたモニクは、憎き相手を睨むように眼前の炎へ目を凝らした。


「それにしては、碧色ひとりに対して、やけに執着しているように見えるが」


「執着じゃなくて、標的って言って。こんなのは退屈しのぎのお遊びよ。ジェラルドっていう駒をどう使うか考えた時に、一番効果的なのがこの街を潰すことだったってだけ」


 胸にわだかまる思いを捨て去るように、モニクは深く息を吐いた。


「さてと。そろそろ行くわよ。あのおデブちゃんを使って、碧色のボウヤを炙り出さないとね。祭りの仕上げといくわよ」


 闇の中へ歩き出すモニク。後へ、麻袋と魔導杖(まどうじょう)を拾ったライアンが続いてゆく。

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