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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.08 王都アヴィレンヌ編

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22 新たな冒険譚へ


「ちょい、救世主さん。どしたの〜?」


 背後から肩に手が置かれた。確認するまでもない。頬に傷を持った男だ。


「触るな。馬鹿がうつる」


 肘打ちを見舞うと男は苦悶の声を上げ、腹部を押さえてうずくまった。


「たった一撃って、芝居じゃあるまいし」


 小柄な男は乾いた笑みを浮かべて固まってしまった。その顔を真正面から睨む。


「同じ目に遭いたくなければ動くな。王都の救世主と、ただの飲んだくれ。大衆はどっちの言い分を信用すると思う?」


「がう、がうっ!」


 耳元でラグが吠えた。視線を向けると、あの酔っぱらいがマリーの目前へ迫っている。


「後悔させてやるよ」


 駆け出そうと軸足に力を込めた時だ。マリーを庇うように、ひとつの人影が飛び込んだ。


 そいつは、酔っ払いが伸ばした右腕を即座に掴み取っていた。突き刺さるような視線で、真っ向から相手を睨む。


零結創造(ラクレア・グラッセ)


 酔っ払いは、掴まれた手首から瞬時に凍りつく。凍結は瞬く間に広がり、首から下を氷漬けにしてしまった。


「そこで、頭と体を冷やしなよ」


 酔っ払いは怯え、言葉を失ってしまった。呆気に取られる俺をよそに、破顔したマリーがそいつに頭を下げた。


「レオン様! ありがとうございます」


「別に、礼を言われるようなことじゃない」


 胸の前で両手を組んだ彼女の隣へ、びゅんびゅん丸から飛び降りたナルシスが並んだ。


「ぐぬぅ。僕の活躍の場を奪うとは」


 ナルシスの活躍など誰も期待していない。それはレオンも同じらしく、俺を見ている。


「どうしておまえがいるんだ」


「なに? 馬車乗り場になかなか来ないから、様子を見に来たらこれだ。酔っぱらいなんて黙らせればいいんだよ。穏便になんてぬるい考えだから、余計にややこしくなる」


 馬車の乗り場へ向かうレオン。その背を慌てて追った。


「どういうことだ。てっきり、ヴァレリーさんと行くと思ってたのに……」


「簡単なことだよ。あんたに付く方が有益だってことさ。フェリクスさんからは、碧色を見習うように前から言われてる。それはつまり、俺に足りないものをあんたが持っているっていうことだ。それを見極めてみせる」


 レオンは前だけを見据えて歩みを進める。


「それに、マリーのこともある。フェリクスさんに任せるつもりだったみたいだけど、こんなことになってしまった。彼女がどこかに腰を落ち着けるまでは、俺が守るしかない」


「正直、女性ばかりのパーティになっちまったし、男手が多い方が助かる」


 これは本音だ。エドモンが不在。ナルシスが現れたが、あいつは人員に換算していない。シルヴィさん、アンナ、マリーと、なぜか女性の比率が高い。


「レオン様、どこに行ってらしたんですか? 見当たらないので心配していたんですよ」


「すまない。フェリクスさんの見舞いだ」


 みんなにはレオンの件は伏せていた。乗り場に現れなければ馬車の中で説明しようと思っていたが、それも杞憂に終わって良かった。


 レオンとマリーに追いついたシャルロットが、ふたりを見てにやにやしている。


「でも、さっきの登場は格好良かったですよ。マリーちゃんを助けに来た王子様みたい。リュシアンさんの次に格好いいと思います」


 それに反応したのはマリーだ。


「ちょっと待って。この人とレオン様を一緒にしないでください! なんだか心外です」


「いや。怒りたいのは俺の方だぞ」


 抗議していると、ナルシスが迫ってきた。


「はっはっはっ。君たちも見る目がないね。一番の華は僕だと気付かないなんて」


 不意に全員が沈黙し、びゅんびゅん丸の蹄の音だけが静かに鳴り響いた。


 そうして、街の中心にある馬車乗り場まで来た時だ。ヴァルネット方面の停留所に、マルクさん、レリアさん、ヴァレリーさんの三人が集っている。彼等を見ようと集まった野次馬を、壁になった兵士たちが遮っていた。


「どうしたんですか?」


 声を掛けると、腕組みをしたマルクさんが微笑んだ。黒の道着と鋼のような肉体は、相変わらず抜群の存在感がある。


「せっかくだからと見送りに来たが、予想以上の騒ぎになってしまってな。がっはっはっ」


「あなたの声が大きいから、無駄に注目を集めてるんだと思うのよね」


 レリアさんは長い黒髪を指先で(もてあそ)びながら、困ったように微笑んでいる。


「本当は、私も一緒に行きたいんだけどなぁ。超大型魔獣のこともあるし。王の左手なんて縛りもなくて十歳若かったら、リュシアン君を放っておかないのに。あの大蛇たちを一網打尽にした力。凄く興味があるの。体の隅々まで調べ尽くしてみたいわ」


「レリアさんに解剖されそうで怖いです。十歳なんて言わなくても、十分綺麗ですよ」


 四十歳を超えているだろうが、三十代前半と言っても通用しそうだ。


「あら、お世辞でも嬉しい」


「お世辞じゃなくて、本気で思ってますから」


「ちょっと、リュシアンさん。こんな所で賢聖を口説かないでください。セリーヌさんに言い付けますからね」


「いや、口説いてるわけじゃないって」


 シャルロットの言葉にうろたえていると、ヴァレリーさんが近付いてきた。


「君たちの活躍に期待している。レオン君にまで振られてしまったのは本当に残念だ。鍛え甲斐のある人材なのだが、まさか即答で断られるとは意外だった」


「え? どういうことですか?」


「その話はいいでしょう」


 驚く俺の横から、レオンが慌てて口を挟んできた。俺には迷っているような素振りを見せながら、腹づもりは決まっていたのか。


 堪えきれず吹き出してしまった。なんだかんだで、レオンも心を開いてくれようとしているのかもしれない。


「碧色、何がおかしいんだ」


「なんでもねぇよ」


 そう答えるなり、腕組みをしたレオンはそっぽを向いてしまった。そこへ、マルクさんの笑い声が重なる。


「まだまだ荒削りの面子だが、それぞれが大きな可能性を秘めている。王の左手を超える、その言葉が本当になるかもしれんな。フェリクスの想いに応えるためにも頼むぞ。口には出さないが、あいつも相当落ち込んでいる。走り続けろ。それがあいつからの伝言だ」


「わかりました。肝に銘じます!」


「俺たちも走り続ける。エクトルのことは残念だったが、いつまでも落ち込んでいられん。王の左手の名を天まで轟かせてやろう」


 力強く頷き返し、ヴァレリーさんを見た。


「フェリクスさんがどんな選択をするかわかりませんが、ヴァレリーさんと行くと言うなら、その時はよろしくお願いします」


「任せておきたまえ」


「大丈夫。私も言いくるめてあげるから」


 レリアさんがヴァレリーさんの肩に手をかけると、剣聖の頬だけでなく、耳まで赤く染まった。


「いや。そういうつもりでは……」


 そして、名残惜しくも別れの時間が訪れた。俺たちは馬車へ乗り込み、びゅんびゅん丸に乗ったナルシスとルネが後を追ってくる。


「待ってろよ……」


 これでようやく水竜女王との約束を果たせる。彼女から話を聞き出し、セリーヌとの再会を果たして見せる。またここから、新たな冒険譚が始まろうとしているのかもしれない。

QUEST.08 王都アヴィレンヌ編 <完>


<DATA>


< リュシアン=バティスト >

□年齢:24

□冒険者ランク:L

□称号:碧色の閃光

[装備]

恒星降注レセトール・エフィス

スリング・ショット

冒険者の服

光纏帷子ブレル・チューンヌ


挿絵(By みてみん)



< シルヴィ=メロー >

□年齢:25

□冒険者ランク:S

□称号:紅の戦姫

[装備]

斧槍・深血薔薇フォンデ・ロジエ

深紅のビキニアーマー


挿絵(By みてみん)



< レオン=アルカン >

□年齢:24

□冒険者ランク:A

□称号:二物の神者

[装備]

ソード・ブレイカー

軽量鎧


挿絵(By みてみん)



< アンナ=ルーベル >

□年齢:22

□冒険者ランク:A

□称号:神眼の狩人

[装備]

双剣・天双翼パラディル・エージュ

クロスボウ・夢幻翼レーヴ・エール

軽量鎧


挿絵(By みてみん)



< マリー=アルシェ >

□年齢:18

□冒険者ランク:B

□称号:アンターニュの聖女(仮)

[装備]

聖者の指輪

白の法衣

タリスマン



< ナルシス=アブラーム >

□年齢:20

□冒険者ランク:B

□称号:涼風の貴公子

[装備]

細身剣・青薔薇ローズ・ブルー

華麗な服


挿絵(By みてみん)



< フェリクス=ラグランジュ >

□年齢:38

□冒険者ランク:L

□称号:断罪の剣聖

[装備]

聖剣ミトロジー

軽量鎧



< ヴァレリー=ブランジェ >

□年齢:33

□冒険者ランク:L

□称号:止水の剣聖

[装備]

長剣

軽量鎧



< マルク=バロワン >

□年齢:41

□冒険者ランク:L

□称号:苛烈の拳聖

[装備]

黒の道着



< レリア=アズナヴール >

□年齢:41

□冒険者ランク:L

□称号:随意の賢聖

[装備]

魔導杖

薄紅の法衣



ラフスケッチ画:やぎめぐみ様

twitter:@hien_drawing

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