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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.08 王都アヴィレンヌ編

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06 喰らいつくしてやるよ


 門へ近付くにつれ、巨人の姿までもが間近に迫ってきた。


「そういうことか……」


 黒煙が立ち込めているのは巨人の影響だ。奴の体を覆う風の力。それが強風を引き起こし、付近の延焼を助長させている。


 強風に阻まれ、冒険者や騎士たちも容易に近付くことができないらしい。弓矢で射掛ける者もいるが、飛び道具も弾かれている。


 まともに相手ができるとすれば魔導師くらいのものだが、王城も鳥型魔獣に襲われている。それにあの連中が、貴重な存在である魔導師を最前線へ出すとは思えない。


「炎竜王。あんたならやれるよな」


「がう、がうっ!」


 挑発するように心の内へ問うと、左肩の上でラグが力強く吠えた。その様子を目にして、途端に吹き出してしまった。


「あのデカブツに思い知らせてやれよ」


 体を覆う炎が勢いを増した気がした矢先、前方へひとつの人影を見つけた。


 ほっそりとした体を飛ばされないよう必死に腰を落とし、巨人を見上げている。純白の法衣が風に激しくなびく中、背後へ熊型魔獣が迫っていた。


「させるかよ!」


 人影と魔獣の間を馬で駆け抜け、手にした剣で敵の喉を一閃。すぐさま方向転換して振り抜くと、青白い炎に包まれた熊型魔獣は仰向けに倒れて絶命していた。そして人影は、目を見開いて俺を見ている。


「ちょっと。今までどこにいたのよ」


 襲われそうだったことすら構わず、マリーは挑むような目を向けてきた。


「話は後だ! あの巨人を止める」


「もう。なんなのよ、まったく……それに、止めるって言ったってどうするつもり?」


 俺は馬から飛び降り、手綱をマリーへ渡した。そうして巨人を見上げる。


「全部、喰らいつくしてやるよ」


 青白い炎がとぐろを巻いて、全身へ絡み付いている。それを眺めて自らを奮い立たせた。竜臨活性(ドラグーン・フォース)の反動が来るまでに、なんとしてもあの巨人を仕留めてみせる。


 剣を強く握り、即座に駆け出した。この強風、本来ならば立っているのもやっとだろう。しかし体を包む炎がそれを跳ね除け、俺を前へと進ませる。敵へ導いてくれている。


 風の巨人はそこで、ようやく俺の接近を目に留めた。引き絞った右拳。そこへ一撃必殺の破壊力と、風の魔法力が収束してゆく。


 直撃だけは絶対に危険だ。そう判断できるほど頭の中は冷静だった。俺の身長と同程度の拳が、唸りを上げて迫ってきた。


「遅せぇ」


 敵の胸元に近い位置で右へ飛び退き、拳を避けた。


 突き出された巨人の拳から凄まじい衝撃波が放たれ、周囲へ一気に拡散。その破壊力を間近に見ながら、地面を蹴りつけた。


 巨人の右甲へ飛び乗り、またしても腕を駆け上がる。だが、今回の狙いは頭じゃない。


 肘まで駆け上がり、敵の胸元へ飛び込んだ。俺の左手には炎竜王の力が猛り狂っている。後はこれを好きに暴れさせてやればいい。


 狙うは一点。風の巨人の胸元へ埋め込まれている、一際大きな魔法石だ。


炎纏(えんてん)竜牙撃(りゅうがげき)


 押し出すように繰り出した掌底が、狙い違わず石を直撃。巨人は仰向けに転倒し、俺も覆いかぶさるように倒れた。


 巨人が倒れた拍子に、街を守る壁の一部へ右腕が触れてしまった。堅牢を誇るといわれている石造りの壁が、呆気なく崩れてしまう。


 巨体から急いで降りると、壁の周囲に残る騎士たちへ目を向けた。


「魔獣を通すな! ここで食い止めろ!」


 警戒を促している横で、巨人が立ち上がる気配を感じた。


 思っていたより頑丈だ。先程の一撃でどれだけの損傷を負わせたのかはわからない。だが、周囲に吹き荒れていた強風は嘘のように静まっている。


「徹底的に潰してやるよ」


 巨人を睨んだ時だった。体へ纏わり付いていた青白い炎が消えてしまった。全身が重くなり、まともに立っていることさえできなくなっていた。


「がう、がうっ!」


 左肩の上で、ラグの慌てた声がする。


「嘘だろ? こんな時に……」


 竜臨活性(ドラグーン・フォース)の反動だ。恐らくこれ以上は戦えない。そう判断して即座にマリーを探すと、彼女は馬に跨りこちらへ駆け寄って来ている所だった。血の気を失った真っ青な顔で、必死に何かを叫んでいるが聞こえない。


「マリー、急げ!」


「すぐに避けて!」


 マリーの声が聞こえると同時に、背後で殺気が膨らんだ。慌てて振り向いた先には、巨人の繰り出した拳が迫っていた。


 避けられない。恐怖に立ちすくんでいると、馬に乗ったマリーが俺を追い越していった。

 迫る巨大な拳へ向かい、彼女は右手を掲げた。聖者の指輪が光を放つ。


光爆創造(ラクレア・エクシオン)!」


 爆発のような光と轟音。そして、巨人の拳が脇へ弾かれた。体勢を崩した巨人は、後方へよろめいている。


 驚異的な威力を見せられて呆然としていると、マリーは急いで引き返してきた。


「一旦、ここを離れるわよ」


 馬上から差し出されたのは、細く白い右腕だった。それを掴もうと手を伸ばした時、横手から迫る狼型魔獣の群れに気付いた。


「先に行け!」


 馬の腹を叩くと、いななきを上げて一目散に離れていった。俺は剣を構え、魔獣たちに睨みを効かせて立ちはだかった。


「行かせるかよ。ここを越えたけりゃ、俺を殺す意外に方法はねぇ」


 視界の端で、巨人が身構えているのがわかった。これはいよいよ危機かもしれない。


「でもな、黙ってやられるつもりはねぇよ」


 最後の力を振り絞って身構えた。前傾姿勢で駆け込み、乱戦へ身を隠す。他の冒険者や騎士には悪いが、巨人への目くらましだ。


 駆け抜けざまに刃を振るい、狼どもを次々と斬る。だが、それも一時のこと。右足へ噛みつかれ、進む力を奪われた。


「がう、がうっ!」


 左肩の上で、悲鳴のようなラグの声がする。


 四方八方から狼に飛び掛かられ、腕や背中へ激痛と重みがのしかかる。押し潰されるように、その場へうつ伏せに崩れていた。


「簡単にやられてたまるか」


 右手に握っていたそれを、即座に開放した。紫電(しでん)が弾け、狼たちが悲鳴を上げる。


「ざまぁみろ……」


 電撃の魔法石。先程取り出しておいたそれを地面へ投げ捨てた。これで本当に打つ手なしだ。


 うつ伏せになった耳元で、狼たちの唸り声がいくつも聞こえる。電撃に警戒しているのか、すぐに襲ってこようとはしない。


「セリーヌに会いたかったな……」


 最後に浮かんだのは、父でも母でも兄でもない。やはりセリーヌだ。最後にもう一度、あの微笑みを見たかった。


「いつまでそうしているつもりなんだい」


 風を切る音と、狼の悲鳴が上がった。


「串刺しの刑!」


 馬のいななきと狼の鳴き声。そして、耳障りな高笑いまで聞こえてきた。


「立つんだ。リュシアン=バティスト! こんな所で終わるつもりはないんだろう」


「いつもながら、うるせぇ奴だな」


 顔を上げた先には、びゅんびゅん丸へ跨るナルシスの姿があった。

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