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碧色閃光の冒険譚 ~竜の力を宿した俺が、美人魔導師に敵わない~  作者: 帆ノ風ヒロ / Honoka Hiro
QUEST.08 王都アヴィレンヌ編

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02 漆黒の月牙、再び


 そして最も悪い出来事は、王都を守るはずの三重の防御壁が消えているということだ。既に破壊されてしまったのだろう。四方の門前それぞれで、乱戦が始まっている。


 不安な気持ちを振り払うと、次第に意識がはっきりしてきた。まぶたを開けて体を起こすと、風の結界は徐々に下降を始めていた。


 王城の屋根を横目に、戦地から少し離れた所へ運ばれているようだ。戦いに向けて気持ちを静めていると、頭上の巨影に気付いた。


「こんな時に……」


「がう、がうっ!」


 警戒を促し、左肩の上でラグが吠えた。


 戦いの行方を示すような曇天に舞うのは、大鷲型魔獣のグラン・エグルだ。群れの中から数羽が飛び出し、空に垂れ込める暗雲を切り裂く勢いで急降下を仕掛けてきた。


 しかも驚いたことに、その背には人影がある。俺はその姿を睨み、魔法剣を抜いた。


「インチキ魔導師……」


 こんな所にまで先回りをしていたとは恐れ入る。ナルシス以上のしつこさだ。


 舌打ちを漏らした直後、耳から空気が抜けるような感覚に襲われた。ユーグが拡声魔法を使ったに違いない。


「んふっ。なぜここに君がいるのかは疑問。だが、それを問うのは愚問。滅びゆく王都。それを目の当たりにできるのは幸運」


 頭上から降下してきた魔獣の影が、結界の横を過ぎながら接触してきた。すると、衝撃と共に何かを削り取る嫌な音が聞こえた。


「くそっ」


 見れば、半透明の球状結界に大きな亀裂が生まれている。それは(またた)く間に広がり、耐久限界が迫っていることを告げていた。


 視界の先で、大鷲型魔獣が旋回するのが見えた。魔導師の姿が再び近づいてくる。


「リュシアン君、次に会うのは別の場所。本当に興味の尽きない男だ。私が終末へ時を進める間、ぜいぜい足掻いてみせてくれ」


 そうして魔獣が横切ると、風の結界は崩壊した。俺は数十メートルの高さから、地上に向けて放り出されていた。


 本来なら動転してしまう場面だが、既に準備は終えている。ラグの力を取り込み、竜臨活性(ドラグーン・フォース)を発動。魔法剣の刃へ意識を集中させた。


付与(エンチャント)! 飛竜刃(ヴァン・ラム)!」


 即座に風の魔力を加えた。地面へ激突する直前、力を眼下へ解き放つ。


 土煙が立ち上り、大地が抉れた。近くにいた数体の魔獣が吹っ飛ぶ様を見ながら、膝をついて地上へ着地した。


 この場面で竜の力を開放したのは想定外だが、やむを得ない選択だった。あの高さから落下して、他に無事で済む方法が思いつかなかったのだ。


 近くに仲間の姿はない。ユーグのせいで完全に引き離されてしまった。あのインチキ魔導師も、既に姿を消している。


 王城の上空にだけ、雷雨のような暗雲が立ち込めていた。しかし、よく見ると複雑に形を変えている。雲ではなく、鳥型魔獣の群れだ。


 視線を下ろせば、王都へ詰め寄る魔獣たちの姿も見渡せる。その中でも一際大きな赤い影は、炎の力を宿した巨人だ。敵は手近にある西門を破ろうと、拳を振るっていた。


 地上と空からの二重攻撃を苦々しく思いながら、背負っていた戦利品の包みに触れた。


「邪魔だな……」


 マリーに預かってもらおうと思っていたが、とんだ誤算だ。捨てるわけにもいかず、この姿で戦うしかない。


 気を取り直し、腰の革袋から魔導通話石を取り出した。通話開始の窪みへ指を置き、音量を最大まで上げる。


「シャロット、聞こえるか?」


 応答時間がもどかしい。こうしている間にも誰かの命が失われている。そう思うと、焦りだけが急速に膨らんでくる。


『リュシアンさん!? 今、どこですか?』


 彼女の応答に安堵したが、切迫した緊張感が漲っている。


「無事でよかった。今、王都の西門の近くにいる。状況を簡潔に教えてくれ」


『私も冒険者ギルドの地下室に避難しているので詳細はわかりません。でも四方の門に攻めてきた巨人の攻撃で、防御壁が壊されてしまいました。空からも魔獣が魔法石を落としてきて、あちこちで火災が起こっています』


 その報告に、思わず舌打ちが漏れた。


「かなりの劣勢か……とりあえず、シャルロットはそのまま隠れていてくれ。下手に逃げ回る方が危険だ。後で必ず迎えに行く」


 通話を終えた直後、右方で殺気が膨らんだ。


「がうっ!」


 ラグが吠えると、数体の魔獣が体を裂かれて絶命した。飛び散る部位や降り注ぐ鮮血を避けた先に黒ずくめの人影を認め、油断なく剣を構える。


「派手な登場をする魔獣がいると思ったら、貴様か」


「期待に添えなくて悪かったな」


 言い返した途端、顔付きが妙なものを見るように歪んだのがわかった。


「雰囲気が変わったな。たった二、三日で何があった」


「そりゃどうも。こっちも呑気に生きてるわけじゃないんでな。おまえもうかうかしてると、そこいらの魔獣に食われるぜ」


「くだらない。当てつけのつもりか」


 敵意を込めた視線を、ラファエルに鼻で笑われた。漆黒の月牙。一度敗れたとはいえ、相変わらず気に食わない男だ。


「ラファエル。おまえほどの腕前の冒険者が、こんな後方で何をしてるんだ。門を守るために、死力を尽くそうとは思わねぇのか」


 こいつには申し訳ないが、とても街を守ろうとしているようには見えない。むしろ傍観を決め込み、戦場から溢れた魔獣を適当に狩り取って遊んでいるような雰囲気だ。


「門を守る? くだらない。王都がどうなろうと知ったことか。だが、間もなく生誕祭。城には王の左手が揃っていると聞いた。一網打尽にするのも面白いかもな」


「おまえも顔に似合わず冗談を言うんだな。返り討ちに遭うのは目に見えてるぜ」


「冗談に聞こえたのなら悪かった。俺は、できることしか口にしない主義だ」


 自信に満ちたその顔を睨むと、狂喜の滲む笑みを見せてきた。二十歳という割に、地獄を見てきたように薄暗い気配を纏った男だ。


 レオンにも暗い一面はあるが、俺から見れば鋭利な刃物を取り扱うような感覚がある。掴み所があるだけましだ。しかしこのラファエルという男は更に上を行っている。言うなれば、まさに漆黒。捉え所がなく、底の見えない暗闇を覗いているような錯覚がするのだ。


「てめぇが本気だって言うなら、ここで俺が止めるしかねぇ。発言を撤回して門を守るって言うなら、聞かなかったことにしてやるよ」


「大した自信だな。俺に敗れたことを忘れたか。せっかく見逃してやったのに、そこまで言うなら思い出させてやろう。ただし、その時には死んでいるかもしれないがな」


 ラファエルの顔から笑みが消え、纏う空気が劇的に変貌した。


竜臨活性(ドラグーン・フォース)


 直後、その髪が金色へ染まった。右腕に紫電(しでん)が走り、漆黒の長剣へと伝う。


 相変わらず謎の多い男だが、聞いたところで答えてくれるとは思えない。今はただ、こいつを止めるために全力を注ぐだけだ。


 腰を落とし、魔法剣を正眼に構えた。


 自分自身、今以上の力が必要だと痛感している。共に戦う仲間たちを守るためにも、もっと大きな、より強い力がどうしても欲しい。

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