第3話「城の外」
スキルの把握も終わり、一家団欒ならぬ、守護者全員を集め妹たちに紹介する流れになった。地下平原から直接空間移動して皆が集まるのは最初に居た中央広間。中央に巨大なテーブルを置き、まるで円卓のように様々な種族がテーブルを囲む。上座である場所にはもちろん魔王である俺たち三兄妹。中央に俺右にサキ、左に椅子ではなく先ほど召還した雷獣チョコの上に座っているミウがいる。(いつの間に付けた名前なのか、てかチョコッてお前の大好物だろうに。いやそれ以前に大精霊さんよ、それでいいのか?まあ本人が気に入っているようなので黙認する)
そして右回り、ミウの横から守護者統括であるアウロラ、副統括のウラノス、第一守護者のアレス、第二守護者のタナトス、第三守護者のヘパイストス、そして執事であるミゲルの順で座っている。あれミゲルいつの間に戻ったのやら。
「じゃあ、今後の方針を話すとしようか」
俺の声で一同が顔を上げ視線を向ける。
「とりあえず、しばらくは現状維持と戦力強化を行おうと思う。外の把握が出来ていない今、無理に外界に進出する必要はない」
その言葉に守護者たちはそれぞれに頷いている。
「だが、外界からの脅威に対応できないのは問題だ。だからミゲル、調査の報告をしてもらおうか」
話を振る先はミゲル。地下に行く前に城の外一帯の調査を頼んでいたのだ。本当であるならば俺に一番に報告するのだろうが全員集合を出したので調査半ばで強制的に戻されたのかもしれない。すまんミゲル、アウロラに召集を掛けた時に気づくべきだった。
そう反省しながらもミゲルの言葉に耳を傾ける。
「では僭越ながらご報告させていただきます」
そう言い、立ち上がったミゲルは改めて一礼をし、報告を始めた。
「現在調査はほとんど終えており、魔王城周辺の地図を完成させております」
そう言うと人数分の地図をワルキューレが各守護者や俺たちに渡していく。
「現在魔王城周辺の地図はご覧のとおりとなっており、右下の森にはゴブリンとオークの小隊規模の集団を複数確認しております。また南方には山脈があり、それを越えた先には人間の国家を確認しております。未だ規模などはつかめておりませんが最低でも100万以上の国家と思われます。また北方に位置する大森林を抜けた先にも国家群を確認しており、こちらはエルフの国家と確認がとれております。距離にして1500キロほど離れており、近距離ながらも発見されていないのは大森林においてこちらが隠匿されていたからと判断できます」
そこで一度言葉を切る。
それにしても思っていた以上に囲まれてるな。西には結構大きな国家。軍事力は解らないが魔物が存在するんだ、ある程度はあると考えていた方がいいだろう。こちらが侵攻されていないのは山脈のおかげか。そして北に位置するエルフの国家。もっと調べ無い事にはわからないがすぐに攻めてくるわけではないだろう。とりあえず警戒はしておくか。
「ウラノス」
短く呼ぶ俺の言葉に素早く反応を返すのはモノクルをかけた長身の美男子。
「隠密に長けた部下を複数名選出し、北と西の警戒に当たらせろ。もし侵攻などの動きがあった場合は素早く対応できるように定期的に連絡を取ること。あと城周辺から半径1000キロくらいまでの早期警戒網を構築してくれ」
「承知いたしました」
これでとりあえず警戒網は準備できる。どんな時も情報所持の優位性は損なわれることは無い。あとは
「アウロラ、さっき言っておいた全戦力の把握はどうなっている」
時間的にもそう立っていないでのまだ出来ていないだろうと思いつつも問いかけてみる。
「はいこちらに」
そう言うと紙を持ち出して俺の元へと届ける。
うそ、もうできてるの?優秀すぎやしないか?
「ありがとう」
ここで新たなスキルを使ってみる。思考加速、これは思考を通常の1000倍にまで加速させるスキルで意外と便利そうだ。
発動と同時に視界の中が止まっているかのように非常にゆっくりとなった。まるで停止時間内にいるようなゆっくりと、だが確実に時は進んでいる。
とりあえず受け取った紙に目を通す。そこには現在把握されている魔王城保有の全戦力が書き込まれていた。全兵力その数3万、うち2万がランクFなので一般的な人間の兵力換算でいいだろう。だがその後に続くのがランクBCDEでそこでほぼ一万。上位になれば自然と数は減るものの戦力的には非常に高い。またその上には守護者の近衛と守護者本人あと俺たち魔王もいるので最終的にざっとの計算だが人間兵力換算で1000万以上の大戦力となるだろう。まあAランク以上はほとんど未知数だけどね。
とりあえず過剰なほどの戦力があることは理解できた。ではこの後どうするかどうやら聞けば数は居るもののその統率はその種族に丸投げらしい。ならば
「指揮系統の統一のために全軍を再編成、アレス、君に頼みたい。各種族を平均的に割り振り、戦力の偏りを無くす。そして小隊規模で編成し、それを中隊所属、その上で大隊に所属させ指揮系統を確立させる」
戦の神の名前を持っているのだ、これくらいはできるだろう。
「はっ、カオル様のお心のままに」
これで万が一攻めてこられても対応出来るだろう。じゃ次は何をするか。
まあ生活に関してだろうね。いくら魔王で部下が絶対の忠誠を誓っているからと言って福利厚生は大事だ。
「ヘパイストス」
続いては生産などを担当している鍛冶の神の名を冠する少女に向かって声をかける。
「城の周りに城下町を作りたい。規模としては今の3倍以上の人数が生活できるような規模でだ。あと街道を東西南北に向かって工事を行い大規模な軍行が出来るように整備してくれ。これには存分に兵を使っていい。使用する兵に関してはアレスと相談して決めてくれ。工期はなるべく短く、早めに完成させてほしい」
あと娯楽関係だが、あのリサがそこらへんを疎かにしているとは考えにくい。まあ今後の調査で調べていくとしよう。
「わかったよー、このヘパイストスにお任せあれ!」
よし、これで大まかな方針は決定した。まずは防備を固める。その前にこの城の防衛機能を把握しとかないといけないがそれはまた後でだ。次は、と
「あとサキとミウはこの城の中の生活状況を見て回ってくれないか?それで改善できるところは改善して、無理そうなところは俺に相談してくれ。まあこれは日本人であるお前たちにしか頼めないし、わからないだろうから。一応護衛兼案内役としてワルキューレから誰か選出してくれ、ミゲル頼む」
ミゲルは承知と短く返事を行いすでに選出に入っている。
「まあ最低限の生活はしたいしね」
どうやらサキは納得してくれたらしい。あとは
「ミウもいくー!チョコもいっしょだよー」
うん可愛いいからよし。まあその大きさでは邪魔になるかもしれないな、チョコよ。
その時丁度良い大きさにまでチョコが縮んだ。あれ、思いが通じたのかな?てかそういう機能まで持ち合わせているのかよ、さすが大精霊。
「チョコちっちゃくなっちゃった」
ナイス判断だチョコ。まあミウは少し残念そうだけど。何とか納得してくれたようだ。そして残るはタナトスとアウロラ。すでに決めてある。
「タナトスは回復薬やその他の薬品関係の有無とその効能をまとめて書類を提出してくれ。あとその製造方法や材料が分かればそれらも頼む」
もし戦闘になった場合はこれらが重要になってくる。回復魔法もあるだろうが、いちいちそれをかけていたのでは間に合わなくなるだろうから。それに今後科学技術を発展させていく上では材料等は必要になってくる。その技術レベルもしかりだ。
「かしこまりました」
よし、じゃ最後。なんか目をキラキラさせてるアウロラに指示を出すとするか。
「最後にアウロラだが」
「はいっ!」
返事が早くて怖いよ、アウロラ。
そんな俺の思いを知ってか知らずかすでにアウロラは立ち上がり跪いている。
「俺と一緒に魔王城とその周辺を探索、細かいところまで把握する。やっぱり自分の目で見るのが一番だろうし。アウロラは護衛だ」
「身に余る光栄、謹んでお受けします」
うーん、ミウの教育上あまりよろしくないがしょうがない。
笑顔で返事するとニコニコ笑顔で席に戻るアウロラ。なんか怖いほど上機嫌だ。
これでほぼ全員大丈夫だろう。
「じゃ早速行動を開始しようか。何か問題があればすぐに報告してね」
それぞれが返事を返し部屋を去ってゆく。
最後に残ったのは俺とアウロラ。何やら部屋を出てゆく時にサキが睨み付けてきた気がするがなんだろう?まあいいや。
「じゃ、行こうか」
「かしこまりました」
そうして俺たち二人は空間移動にて移動をするのだった。
「おー、予想以上にでかいなぁー」
俺は今城の一番高い建物の屋上に来ていた。以前の調査によってこの建物が一番高く、その高さは500メートルを超える。まさにバベルの塔だ。建造目的は周辺の監視と、後はミゲルが小さな声で教えてくれたがリサの我儘で建てられたらしい。用途は後からとってつけたわけだ。すでに王城の高さも平均して100メートルほどであり、この異世界の建築物の中では異様な高さと大きさを誇っているだろう。
そして俺の眼下には王城一帯が広がっており、その広さは異様なほどに広大だ。土地の理由で真円ではないが、ほぼ正確に円を描いた城壁。そしてその内側には兵用の宿舎や食堂、倉庫など必要最低限がそろっている。修練場などは見えないが恐らく空間魔法などにより室内に作っているのだろう。
「これだけの広さの城を作ったのか・・・」
改めて浮かぶのは母の器用さだ。元々手芸などを得意としてよく性格と不釣り合いだなどと言われていたリサは一つの都を完成させていた。
「リサ様のご命令通りに城を作りました。細かなところまでは行き届きませんでしたが、その殆どはいまだ建設中であり、完成まで30日ほどと見ております」
なんと、まだ建設中だったのか。
そんなことを考えながらふと視線を上げる。
そこには広大な土地が広がっていた。通常ファンタジーなどに出てくる魔王城がある地域などは様々な理由から草一つ生えない枯れ果てた土地だったり、危険な魔物が跋扈する土地だったりと様々な不要な要素を持っている。しかし眼下に広がるのは見るからに普通の土地であり、森林や小さな湖、山脈など豊かな土地のようだ。
「報告通り、なかなかいい土地じゃん」
まだサキが生まれる前、俺は田舎に住んでいた。まだ祖父母も健在で、元気に農家を営んでいた。俺はよくその手伝いに駆り出され、その度に祖父から耳に胼胝ができるくらい農業の事を教わっていた。その後病気で祖父が亡くなり、サキが生まれた直後に祖母も他界。その時に都会へと引っ越したのだった。
そんな昔のことを思い出しながら俺は眼下の広大な土地を見る。ここに来る前に少し資料等に目を通したが食料事情は明るくない。基本的に食料の生産は地下の空間にて栽培されており、不慣れな魔物たちが精一杯育てている。その収穫率も悪く、現状の兵士の数ギリギリなのだそうだ。
城の拡張と同時に田畑の作成も行わないとな。
そう思った時突如後ろから声がかかる。
「カオル様、緊急の要件がございます」
いつの間にか背後に現れていたのはウラノスだった。挨拶もなしにいきなりの出現。これが不満なのかアウロラの表情は不機嫌そのものだ。怒らないか心配にもなりながらウラノスに視線を向け、その報告を続けるように促す。
「我が部下の監視網に人間を4名捉えました」
なぜか笑みを浮かべるウラノスの口から出たのは来客の報告だった。
3話、お読みいただきありがとうございました。今回はネタバレはありませんので、お先に読む方は遠慮なくどうぞ。
さて、今回は少し短めの話になりました。書きながら様々な事を考えていましたがやはりここ出来るのが一番だと判断したからです。では続いて4話の制作に取り掛かりますので、更新までお待ちください。