第2話「エクストラスキル」
ふと目を覚ますと目の前には天使がいた。
可愛く寝息を立てる我が家の天使。小学生の時に生まれ、それからは常に面倒を見てきた妹でもあり、大事な家族だ。
そんな可愛い妹が目の前に寝ている。寝ていることには何の疑問もない。いつも寝るときは隣に寝ているのでもう当たり前なのだ。
ところで
「ここって、どこ?」
自分は寝起きはいい方だ。起きて直後にテストを受けても高得点をとれる自信がある。その為起きた直後から違和感が纏わりついてた。
見たこともない部屋。見たもない調度品の数々。それは一つ一つが高級品のような輝きを放っている。
それを確認し、すぐにここが家ではない事を理解した。理解したが、ここがどこかはわからない。わかるのは高級ホテル以上の豪華な寝台、そしてそこに眠る妹のミウ。
部屋は寝室のようで、サキがのる巨大なベッド以外には二つのテーブルと椅子が複数おかれ、壁際には鏡をはめ込んだ机が置かれている。そして視線を彷徨わせるうちに一人のメイドに視線が止まる。メイド服に身を包み、まるで異世界から飛び出してきたような綺麗な人間が入り口の横に静かに佇んでいた。
「あなた、誰?」
見ず知らずの他人。しかしその美貌は同性であるサキでも見とれるほどのものであった。
「お初にお目にかかります。私は戦闘メイド“ワルキューレ”が一人、ヒルダと申します」
映画で見るような綺麗な挨拶と仕草は見惚れるほどのものだった。しかし傍に最愛の妹がいることからサキの思考はすぐに疑問をはじき出す。
「ここはどこ?」
まず最初に知りたいこと。それはこの場所であり、万が一誘拐などされているのであれば、最悪の状態である。なのでもう一度最初の問いを繰り返す。
「ここは魔王城の第二寝室でございます」
淡々と答えるメイド。その口調とは別に表情は柔らかく、安心感を感じさせるほどだ。しかし、サキは本能的にこの人は強いと感じていた。
まずは状況確認が先ね。
「まおう城?何で私たちはここにいるの?」
この問いの回答次第では複数の答えを得ることが出来る。もし教えられない、と答えられた場合は誘拐という線が高まる。反対に教えてくれるのであれば嘘の可能性はあるが多少なりとも理由が判明する。
そんな事を考えながらサキは返事を待った。
「サキ様のお兄様であるカオル様より、こちらに移動せよとのご命令を受け、移動させていただきました」
これは予想外の返答が返ってきた。まずカオル、兄貴の名前だ。
「なんで兄貴の名前を知ってるの?」
反射的に出た問い。だがその問いにメイドのヒルダは首をかしげるのであった。
「そう、答えられないって言うのね?」
サキはここで勘違いをした。自分たちの支配者である魔王カオルの名前知らないほうがおかしいのであり、知っているのは当たり前なのだから。
「申し訳ありません」
そう答えるのがヒルダにとって最適解だった。
「じゃあ、兄貴はどこに居るの?」
兄貴の命令であるならば、その本人が近くにいないとおかしい。もしいないとしても何らかの手段で連絡が取れる筈である。
「まもなくこちらに来られます。今しばらくお待ちください」
ここでも予想外の返答。それに驚きながらもサキは表情を変えなかった。
兄貴がいるのなら安心だけど。一体どうなってるの?
その返答はすぐに兄貴の口から得ることが出来た。
「はあ?異世界に召還されて、そして魔王になった?寝ぼけてるの?」
いつも通りにそう話す兄貴は意外に楽しそうだった。それも多少は苛立った原因でもあるが、それはいつもの事。理由の大きな原因はその召還主である元魔王なのだ。
「だいたい自分の寿命が尽きるからって赤の他人に全部押し付けて自分は消えるって、どんな魔王よ」
自分勝手も甚だしい。第一、自分で蒔いた種は自分で狩り取るべきだと考えるサキにとっては他人に押し付けること自体許せないのである。しかも丸投げに等しい。
「なんの情報説明もなく、いきなり魔王だなんて・・・・」
だが目の前の兄貴はなんだか楽しそうである。なんかむかついた。
なので一発殴った。よし、少し落ち着いた。
「おい妹よ、なんで殴ってスッキリした顔をしている?」
うるさい。
「で、魔王ってやっぱり勇者とかと戦わなくちゃいけないの?」
「なんだ、ノリノリじゃん」
もう一発追加しといた。なんか周りのメイドは慌ててたけど、知らない。
「じゃ、魔王の仕事って何なの?」
その問いの答え。それは予想の斜め上を行くものだった。
「はあ?本当に全部丸投げじゃん。その魔王の顔、一発殴りたくなった」
とりあえずもう一発兄貴を殴っておく。
「で、自分のやりたいことかぁー」
そう言って周りを見渡す。
まあ、力を持ったらやりたいことなんて正直一杯ありすぎて困るんだけど。
「とりあえずは世界征服?」
いたっ。兄貴のくせに、兄貴のくせに私を叩くなんてむかつく。
だから数発蹴っておいた。なんか当たり所が悪くて体の真ん中の方を抑えながら縮こまってるけど知らない。自分が悪いのだ。
「まあ幸せに暮らせればそれに越したことないけど・・・そう簡単にはいかないわよね」
事実、母親が失踪してからの坂口家の家事はほとんどをサキが担っていた。掃除、洗濯、ミウの送り迎えに食事。食事についてはなぜか兄貴の方が上手であり、味と見た目、そしてレパートリーは勝てないのだ。
なんかむかついた。
なのでもう一発追い打ちをかけるように蹴りを入れる。だが次は避けられた。生意気ね。
「じゃ、今後の方針だけど、どうするの?」
一応は一家の大黒柱だ。最終決定は兄貴がする。こうして意見を聞きには来るが、最終的には自分で判断する。それが兄貴なのだ。そこは尊敬している、そこだけ、ね。
「とりあえずは平和主義者の俺は外に手を出すつもりはないよ。でももし攻められてこちら側に死傷者が出たらそれは許すつもりはないね」
いつもと違う雰囲気。家族じゃないと気づけないほどの微々たるものだが、こういう時の兄貴の決断は覆ることは無い。そう5年前、遠園の親戚一同に言い放った時のように。
「じゃあ、それに従うわ。でも少しは我儘聞いてほしんだけど」
てか、絶対きかせる。
「それは内容次第だけどいいよ、なんせサキも魔王なんだから」
そう言うと兄貴は座っていた席を立ち、ベッドに腰かけるサキの後ろ。いまだ寝息を立てている末妹の元へと近寄る。
「ミウ、起きて」
小さく、だが優しく揺すり、睡眠状態から覚醒させる。
「ん~?にぃに?なにぃ~?」
目をこすりながら起きだすミウ。その表情からも未だに完全覚醒していないのがわかる。
「眠いのにごめんねミウ。でも今からちょっとやらなきゃいけないことがあるんだ」
そう言うと兄貴は軽々とミウを抱きかかえる。
そう言えば小さい時何回もああやって兄貴にだっこされてたな。
そう考えた時にはすでに遅し、一気に顔へと血が昇り、次の瞬間には勝手に足が出ていた。
「痛いぞサキ。それに今はミウを抱えてるんだからちょっとは自重しなさい」
ふんだ。
「こら、ふてない」
なんか言ってるけど知らない。聞かない。
だが兄貴はミウを抱えるとついてきてと私に言ってきた。だから仕方なく、仕方なくよ?ついて部屋を出た。
廊下は豪華の一言に尽きた。壁紙、床に敷かれた絨毯どれをとってもいままで見たことが無いほどの高級なものであつらえてある。本当に魔王の城なんだ。
そんな高級な廊下を進むと地下への入り口が見え、そこを下ってゆく。階数にしてすでに10階以上は下っただろう。自分感覚を頼りに何気なく数えていたがすでにそこまで深く潜っている。
そんなに階段を下っているのに不思議と疲労感は微塵もなく、足取りは軽い。
そんなことを考えている間に目的地に着いた。
そこは広大な空間だった。
「えっ?外?」
まず部屋に入った瞬間に自らを照らす日の光。それは紛れもなく太陽光であり、流れる風と、それに乗って草木の匂いが鼻に届く。
「いえ。紛れもなく地下空間です。ここは空間魔法により面積を広げており、その広さはこの城の面積程あります」
すぐにメイドであるヒルダからの説明。しかしそれで納得できるわけがなく。
どういうこと?
「つまりは元々地下にある部屋を魔法で広げたと。そしてこの空間に魔王城を入れることも可能なほど広いって事かな?」
なじむのが早いのか、兄貴は自分なりに解釈していた。
それにしてもだ。
「魔法ってなんでもありね」
改めて異世界の、そして魔法の凄さを実感したのだった。
「それで、ここに来た理由は?」
咲き誇る花々と、生い茂る木々が点在する広大な土地。地面は土で、それを草が緑の絨毯のように覆い隠している。本当に草原や森林が広がっているようだ。
「元魔王によると俺たちに力が強化して受け継がれているらしい。それを早いうちに確認して最低限使ええるようにしとかないとね。暴走とかは洒落にならんだろうし」
そう言う兄貴は嬉しそうだ。たしか部屋にもこんな異世界に転生とか召還される物語のマンガや小説が転がっていた。
「じゃとりあえず俺から」
そう言い抱えていたミウを降ろすと一歩前へと出る。だがその後何をするでもなく、ただそこに佇むだけ。
いったい何をしているのだろう。
「ねえ、スキルとか、力とかどうやって使うの?」
言い出しっぺがこれだ。とりあえずムカついたので殴っておく。
結局、新たな配下を呼び出して教えてもらうことになったのだが。
美人過ぎない?まあ、寝室にいたメイドも大概な美人だったけど、この人は特に飛び出ている。透き通る肌にモデル以上の体型。整いすぎた顔はある意味恐ろしい。
額の角もなんか神秘的に見せてるから評価的にはプラスに働いているけど。
てかデレデレしすぎ。
だから追加で殴る。誰とは言わない。
そのアウロラさんに教えてもらう限りではスキルなどは念じるように自分の中に問いかければ使用できるそうだ。スキルには二種類あり、一般的に上位の魔物が所有しているのが通常のスキル。そして魔王など最上位にしか種有することが出来ないスキルがエクストラスキル。まあ名づけたのが元魔王らしいが、安直というか簡単すぎ。
それでまずは兄貴が試しにやってみたらしい。すると
「すげぇ、このエクストラスキルって3つあるけど」
その時周りにいた複数の魔物が驚きの声を上げる。そんなに驚くものなの?試しにアウロラに尋ねてみると
「はい。通常エクストラスキルというのは最上位の者にしか付与されません。私とウラノスはそれぞれ一つずつ所有しています。また元魔王様も2つ所有されていました。ですが3つなどとは驚きました、さすが魔王様です」
だそうだ。てか目をキラキラさせてるんだけど。
念のため私も確認してみる。
自分の心に問いかけるように聞いてみる。するとすぐに返事が来た。
―通常スキルを検索・・・発見。スキル:魔力蓄積を確認。常時発動中。続いてエクストラスキルを検索・・・発見。エクストラスキル:能力融合、重力操作、魔力変化を確認。身体へのインストールを開始します―
その直後に体中にあたたかな熱が走るような感覚と同時に大量の情報が脳内に流れ込んでくる。
これがスキルか。
「ねえ、私もエクストラスキル3つあるみたいだけど・・・」
その声でさらに周りが騒がしくなった。まあ一番煩いのが兄貴なので一発蹴っておとなしくさせる。うずくまる兄貴になんか慌ててアウロラが走り寄る。なんかむかつく。しかし今回は抑えることにした。
それにしてもこのスキル。特に重力操作ってのがすごい。これ、自由に空飛べるじゃん。
そう思いとりあえず発動させてみる。
まるでジェットコースターや飛行機に乗った時のような感覚が体を襲うが、すぐになれる。着ている服から重さが消え、ふわりと飛翔する。
まずは少し浮くだけ。続いて横移動。
サキの行動を見ていた複数の者が驚きの声を上げる。
「これは元魔王様と同じ重力系のスキルでは?」
「しかし元魔王様はご自身の浮遊はできないと仰ってた。すると」
「重力操作・・・エクストラスキルか」
などと自己完結しているから説明は要らないか。
よし、もっと高く飛んでみよう。そう思うが早いか、少し考えるだけで思い通りに体が動く。すぐに10メートルほどの高さになる。
自由に空を飛ぶってこんなに気持ちいんだ。
今までに味わったことのない感覚を堪能しようといろいろと高さを変えて飛び回るサキ。しかしそこに声をかける人物がいた。
「おいサキ、飛ぶのはいいがパンツ見えてるぞ」
その直後血流が顔に上る感覚を感じるサキ。
スカートだということを失念していた。
その直後に地上10メートルからの自由落下飛び蹴りが炸裂したのは言うまでもない。
アウロラが地面に埋まった兄貴を引っ張り出すのを横目に地面に降り立った私は傍で目をキラキラとさせていたミウと目が合う。
「サキねえすっごいっ!おそらとんでた!とりさんみたい!」
妹に褒められるのも悪くない。むしろ心地いい。
でも重力操作って、自分が飛べるだけじゃないよね?そう思いミウに声をかける。
「ミウもお空飛びたい?」
すると秒速で首を縦に振る。しかも何回も。
「わかったわかった。お姉ちゃんに任せなさい」
とりあえずミウの周りを包むような感覚でスキルを発動させる。するとミウはそれを感じ取ったのか
「なんかフワフワするよ?」
うん、怖がらない。何といっても肝が据わっているわね。我が妹ながら恐ろしい。
「じゃあ飛ぶよ?」
「うん!」
恐怖より興味がさきにたつのか、それとも純粋に恐怖がないのか。どちらかはわからないが、何の抵抗もなく空へと浮き上がった。自分は先ほどの失敗を経験して飛んでない。
どこまで飛ばせるのかは心配だったがそれはすぐ杞憂に終わる。視界の中ならばどこでもスキルを発動できるらしい。数百メートルを飛行させた後ミウをすぐそばに下ろす。
「もういっかい!」
何とも可愛いおねだりの仕方だが、ごめんそれは後でね。
そう心の中で謝りつつミウに尋ねる。
「ねえミウ、あなたはどんなことができるの?」
単純な質問の仕方が、先ほどの兄貴の問いの答えを聞いて何かやっていたミウを見ていたのだ。
「うーん、あのねぇミウはねこれできるよ?」
そう言うと同時に視界が高くなった。あれ?
よく見てみると地面が高くなっていた。いや、地面に生える草が伸びて不自然な形でサキの足元で重なり、床を形成していたのだ。
あー、あれか植物を操れるんだ。
「す、すごいね!で、でもお姉ちゃん下ろしてもらえると助かるなぁ」
集まったのは植物だ。生きている。だから硬いわけがなく、小さくではあるが動いている。それが何とも気持ち悪く、早く降りたかったのだ。
素直に下ろして、あとねぇと説明を続けるミウ。まだスキルあるの?そう思うサキの目の前に次は丸い紋章のようなものが出現した。
「お友だちもよべるの!」
そう嬉しそうに言うミウ。その顔は笑顔であり、自信に満ち溢れている。
地面に出現したように見えて実は数センチ上に出ている魔法陣。それはサキが見たこともないような文字が書かれており、その光をどんどん増している。すると後ろの方から
「あれって精霊召還の魔法陣?」
などと声が聞こえる。
精霊?魔法も精霊もなんでもあり。さすが異世界ね。
そう考えている間に召還は終了した。
まばゆい光の中から現れたのは一匹の獣だった。いや獣というにはあまりに神秘的な容姿をしている。殆ど体型は犬に似ているが大きさが大きい。体長3メートルはあるだろう。それに額には角があり、尻尾は3本ある。そして大きな足の周りには電気がパチパチと放電し、リングを形成していた。
「こ、これは上位精霊の中でも最上位に位置する大精霊の雷獣ではないですか」
そう驚きの声を上げるのはアウロラだ。彼女の説明によると守護者と同等の戦闘能力を持っているらしい。見るからに強そうなのはわかる。私もあまり近づきたくないのだけど。
そう思って向ける視線の先にはミウが背中に乗って遊んでいた。
天真爛漫とはまさにこれにあてはまるだろう。ていうか肝座りすぎでしょう。怖いもの知らずなのかもしれないが。
「まあ、ペット、ねえ」
半分ため息をつきながら兄貴を見る。すでに自分のスキルを一通り検証したのか、摸擬戦に入っていた。相手は先ほどまではいなかった人物。いや人とは言えないだろう。一見してイケメンでモノクルをはめる青年に見えるが、背中に羽が見える。羽の黒さから悪魔にも見える。
「彼の名前はウラノス。守護者副統括をしております」
サキの視線に気づいたのかアウロラが補足する。それにしても肉弾戦とは。元々兄貴は合気道の道場に通ってはいたがそれも5年も前の話。だがそれは体が覚えているようで、一つ一つの動作はまだぎこちないものの、徐々に感覚を取り戻しているようだ。
サキ自身も現在進行形で道場に通っている。心配性な兄の推薦で今では師範代に並ぶまでに上達している。ぶっちゃけ兄貴より強い。
それもあり、時々休日に指導していたのだが、それも今実っているように見える。
「何か見慣れない武術をカオル様は使用しているようですが」
やはり見たことが無かったのだろう。アウロラが目を輝かせて二人の摸擬戦を見守っている。
「あれは合気道って言って簡単に言えば相手の力を受け流し、自身の攻撃につなげるというものよ。まあ、まだまだだけど」
そうはいうものの周りに陥没した穴や新たに作られる攻撃の後に舌を巻く。一体どれほどの力があればこれほどの跡を残せるやら。
目の前で行われる摸擬戦は次第に速さ、そして威力を増していった。
その摸擬戦が終了したのはそれから15分後。勝利したのは兄貴だった。これで魔王の面目躍如というものだろう。大分疲れているみたいだけど。
その摸擬戦跡地は悲惨の一言だった。大小さまざまな穴に巻き上げられた土、粉々に散らばる木々と岩等々、まるで爆撃でもあったかのような惨状になっていた。
「いやぁ力の制御が結構難しくて」
という兄貴。ため息をつきながらも修繕するように言っておく。
「まあ、あの兄貴の攻撃をよく凌いだわね」
そう声をかけるのは呼吸一つ乱していないウラノス。アウロラに聞いたところ肉弾戦では3番目らしいが兄貴も手加減していたようなのでおあいこだろう。
「おほめ頂き誠に恐縮でございます」
丁寧にお辞儀をするウラノス。そこが見えない、女子に感じる腹黒さがこの男からは出ている。女子じゃないけどね。それを感じたサキは心の中で一歩引きながらも
「まだやれたでしょう?なんで反撃しなかったの?」
純粋な疑問。見る限りあまり肉弾戦は得意としていないようだが、あそこでやられるほどやわには見えない。戦闘力を見極めるのもまた武術を学ぶ上では重要なのだ。まあここまででたらめな強さになるとそれも怪しいが。
「いえ、カオル様にあれ以上攻撃してもそのまま返されるだけで有効ではなかったでしょう。そして技術面的にも私より上であることは誰が見ても明らかですので」
確かにウラノスの用いる戦闘技術は我流なのか荒く、隙が多いものだった。
「元々私は魔法を操る方を得意としておりますので。カオル様もそれを知った上で手加減されておりました」
確かにまだまだ余裕そうにみえてはいたが。
「あらウラノス、それは負け惜しみにしか聞こえませんよ?」
おっと火に油を注ぐのがお得意なようで。
「私が負け惜しみなんておかしいですねアウロラ。どうです?その考えを改めるためにも後で一戦交えませんか?」
先ほどの摸擬戦で小手調べ、本気の戦闘になるとこの城自体が危険になりそうだ。なので止めておく。
「いやいや、あなた達が戦ったら危ないから禁止。今後許可なく戦闘しない事、わかった?」
いやはや、早くも魔王の態度が板についてきたようだ。
「「かしこまりました!」」
その場に素早く膝をつく二人。多少なりとも罪悪感を抱きながらも先ほどの摸擬戦を思い出す。
「それにしても兄貴、硬すぎじゃない?いくら身体能力が強化されているからって」
摸擬戦中に何度か兄貴は直撃を食らっていた。それは周りを見ればわかるが相当な威力の攻撃だ。普通の人間の体であれば消し飛んでいるだろう。
「あれはおそらくエクストラスキルでしょう。私も何度か打ち込みましたがほとんど手ごたえがなく、むしろこちらがダメージを受けておりました」
それほどに硬かったということらしい。一体どんな能力やら。今後殴ったり、蹴ったりする上で障害にならなければいいが。
なんて考えているうちに修繕が終わったらしい。
驚くことにほとんど元通り。それもそのはず、森に棲む精霊のような小人?みたいな者たちに手伝ってもらい、まるで逆再生のようなスピードで修繕作業が行われたのだ。
「終わったよー」
服を土で汚しながらも兄貴の表情はスッキリした表情だった。
「申し訳ありません。我が主にこのような雑務を・・」
真っ先にアウロラが浄化魔法?で汚れをきれいに落としながら駆け寄る。
「いいって、自分でしたことだし」
まあ自分の後始末は自分でつける。これは5年以上前に母が決めた我が家のルールなのだ。
「じゃ大体みんなのスキルも把握したところで上に戻ろうか?」
そう切り出す兄貴に反対する者は誰一人いなかった。
じゃあ行こうか、と切り出す兄貴。先頭を歩くかと思ったがすぐに止まり前に手を突き出した。すると何もない空間が歪み、丸い円状の物が浮かび上がった。
「これは・・・空間移動のスキルですか?」
今日一番の驚きを表すアウロラとウラノス。ここの統括者であり最強である二人が驚くのだとてもすごい能力なのだろう。
空間がつながる先は豪華な空間。
「じゃ、移動しようか」
そう言うと一番に兄貴がその円の中に入った。
「もう自分勝手な」
そう呟きながらもサキの心は嬉しさに包まれていた。
さてさて、本日もこうして更新することが出来て感謝です。
っということで第2話の更新となります。いかがでしたでしょうか?サキの性格が予想外?まあまあ、私にも実妹がいるのですが、案外兄弟というのはこういうものですよ?ここまで蹴られた記憶は・・・・・まあ聞かないでください。
さて今回は妹であるサキとミウの登場です。サキの性格は見ての通りツンデレ、ミウは天使というのを目標に書いてみました。まあキャラつくりが私にとって一番難しいのでなかなか濃く作ってみたつもりなんですがね・・・
タイトル通り今回は魔王が所有するスキルについての回でした。空間移動や重力操作、精霊召還などでたらめな能力を所有していましたが、さてさて今後その能力がどう生かされるのかはお楽しみですね。実際私にもどうなるかわかりません。念のため言っておきますが、スキルは今回出たものだけじゃありませんよ?
ということで次回3話をお楽しみに!