第1話「魔王」
「えーっと、ここどこ?」
目の前に広がるのはテレビでしか見たことが無いほどの豪華な部屋。天井は高く、ゆうに10メートル以上はあるだろう。大広間のようで、各所に施された装飾は華美。それ以外に表現する語彙を持ち合わせていないのも理由だが、その装飾一つ一つがとんでもなく高価なものであるというのはすぐに理解できた。その他にも床に敷かれた絨毯や、電灯と違い不思議な光をともす明かりは金のように輝く金属のような材料でできており、映画のセットだとしても作り込みすぎている。一体いくらの予算をかければここまでの装飾が施せるのだろう。
まずは状況を確認しよう。そう、焦るのは状況が悪化するのみ。ここは大人の余裕を見せないと。まずは記憶に残っていることを思いだそう。
俺はいつも通り会社に出勤するために玄関に手をかけた。そこまでは覚えているし、後ろに妹であるサキと末っ子のミウが送り出してくれていた。時刻にして午前7時を過ぎたくらいだろう。だがその直後の記憶がない。
ふと腕時計を見ると8時15分を指している。すると約一時間ほどの記憶がないということになる。そして、だ。
俺は目の前の光景にもう一度声を発する。
「ここ、どこ?」
それはしょうがないだろう。見たこともないようなところにいるのだ。隣にはすやすやと妹二人がベッド並みに大きな椅子の上で寝息を立てている。それに俺の服装もそうだが見たこともないような服装になっている。なんというか豪華であるし、驚くほど軽く着ているという感覚がほとんどない。
「お目覚めになりましたか、カオル様」
妹二人を確認した後、すぐ後ろから声がかかる。人の気配すらなかった背後からの声に多少驚きながらも振り向いた俺の視界に初老の執事姿が入る。
「お初にお目にかかります。私は筆頭執事のミゲルと申します。カオル様、そして妹君お二人のお世話を担当しております」
そう説明するも俺の頭はまず、状況が把握できていない。
「ま、まってください。まずはこの状況を説明してもらえませんか?」
社会のマナーとして年上の人に対しての敬語は当たり前。その常識を考えることなく体が実践してしまう。だがそれはミゲルという初老にはよくなかったようだ。
「いけませぬカオル様。カオル様方は我々の主であります。そのようなお言葉遣いは非常によくありません」
ミゲルの態度からも薄々気づいてはいたが気にしたくなかった。いや密かに気づいたら負けかな、とも思っていたのだがそれはあたりだったようだ。
「は、はあ。わかり・・わかったよ」
渋々従うが、そうしないとどうやら他にひざまずいている人たちが動き出しそうな気配を感じたからだ。社会に出てまだ4年ほどの新米だがそれくらいはわかるようになった。
「それで、現状を教えてもらいたいんだが」
そう言うとはっ、とまるで映画で見るように跪くとミゲルは説明を始めた。
結構長かったし、所々わからない単語もちらほらとでてきたが大まかにまとめるとこうだ。
一つ、俺たち3人の兄弟は異世界(この世界で言う俺たちがいた世界の事)から魔王として召還された。
二つ、召還したのは元魔王で、その人は召還の代償として消滅した。なのでその配下だったミゲル含め魔王の所有物すべてが俺たち兄弟に権利ごと譲渡される。
三つ、召還の儀式は魔王しか知らず、俺たちの帰還(元の世界に戻ること)は絶望的であるという事。
なんてことだよ。おい神様。俺は無神論者だが今回ばかりは神に怒りをぶつけたい。
「で、俺たちは何をすればいいんだ?」
結局のところ魔王と言われても何をするんだ?世界征服?そんな面倒なもんしたくない。俺は人間であり、平和主義者だ。ゲーム、アニメをこよなく愛するオタクでもある。まあこれは家族だけの秘密でもあるのだが。
「なにも。カオル様が為さりたいことを」
これだよ。まあ、成り行きで魔王ってあれか、異世界召還ものか?だったらハーレムとか最強とかいろいろついている筈なんだが。俺にはどうやら兄弟がついてきた。まあ残しておいても心配だし、離れるくらいなら死んだ方がましだし。
あ、死ぬとか言ったらサキに殺される。まあそれは置いといて、現状をもう一度確認する。
「したいことって、俺がしたことなんでもいいの?」
改めて問うと魔王っぽいが、残念ながらもう魔王になったのだ。それに戻れないしね。
「はい。我々はそれを全力でお手伝いさせていただきたいと思います。それのみが我々のz存在意義であり、お仕えすることが我々の喜びであります」
おーっと、こりゃあれだ。死ねって言ったら喜んで死ぬタイプの忠誠だ。恐ろしや、魔王。あー、今は俺が魔王だった。
「んー、そうか。まあとりあえずはサキたちが起きるまでは結論は出せないな。じゃ、それまでこの世界の話とか、ミゲルさんたちの話を聞きたいな」
「かしこまりました。ではご案内する前に魔王様より伝言を預かっております」
そう言うとミゲルは姿勢を正し、一言失礼いたしますといい、水晶のような球状のものを取り出した。
『やあ新しい魔王』
そう発して現れたのは美しいと表現するよりも可憐で可愛いと表現した方がいい少女の姿だった。そしてなぜか見たことのあるような変な感じが俺を襲う。
元の世界ではホログラムとか言われている立体映像。まだ技術的に開発できてなかったが、この世界ではそんなのはお構いなしのようだ。
『まずは突然この世界に召還してしまったことを深く謝罪しよう』
そう言うと目の前の少女は深々と頭を下げた。
『これには深いわけがあって、私の命はそう長くない。私の子供たちも十分に強く育った。だが親の感情として心配ぜずにはいられないのだ。だから残る寿命のすべてをつぎ込んで新たなる魔王を召還することにした』
そこでいったん切ると少女はすぐ横に置いていたのであろう何かを取り出した。それはこの世界にはないはずのもの。
『これを見ればわかるだろうが私も異世界から召還された者だ』
そう、少女の手に握られている者は俺も持っている。金属やガラスを使用し、現代社会ではなくてはならない物、携帯電話だった。
『まあ安心してくれ、私の子供たちはそのまま君たちに忠誠を誓うように言い含めてある。それに私の力をさらに向上させて君たちに移しているはずだ。使い方も今はわからぬかもしれんがそのうち理解できよう』
何他人事のように言ってんだこの魔王。ふつふつと怒りがこみあげてくるがまだ話は終わっていない。
『魔王の仕事、といっても何もない。やりたいことはすべて新しい魔王、君たちに任せるとしよう。その際にすでに君の配下だが子供たちを使ってやってほしい。それが彼らの生きがいなんだ。では頑張ってこの世界で生きてみろよ魔王』
そう言うと直後に少女の姿が消えた。
「以上が魔王リサ様からのメッセージのすべてとなります」
魔王の名前はリサというそうだ。・・・・・・ん?ちょっとまてよ、リサ?
そして俺の心に引っかかった先ほどの少女。
答えはすぐにつながった。
「あのクソババっ!」
その叫び声はミゲルも驚くほどの声量だった。
落ち着きを取り戻したあと二人が起きていないのを確認し、安堵すると俺は椅子に深々と座り込んだ。
5年前に突然姿を消した両親。すでに父親はミウがお腹にいるときに事故で死んでいたので行方不明になったのは母親一人だった。警察の捜索も1年で打ち切られ、小学5年生のサキと高校2年生の俺、そしてまだ歩けないほど小さな末っ子のミウの三人に残されたのは家と貯金。親戚はおらず、高校を卒業して母親の知り合いの元で働き始めるまで残してくれた貯金や生活保護で何とか生活してきた。母親の性格は豪快であり、そしてその愛は大きかった。写真で父親との昔の姿を見たこともある。息子よりも夫が大好きだった母。いつもラブラブで家族としては恥ずかしいくらい。近所でもおしどり夫婦と有名だったほどだ。
失踪して5年と少し、やっと見つけた。しかし
「何やってんだよ」
何と言うか、ため息である。多少というより、20年以上は若返っていたためすぐに気づけなかったのだ。そりゃサキとあんまり変わらん年齢の容姿なら気づくわけないじゃん。
「そうか、帰らないと思ったら異世界で魔王やってたのか」
再びため息。そしてふとした疑問をミゲルに問いてみる。
「なあ母さん、魔王リサはどんな人だった?」
この質問ははたから見たらおかしなものだろう。だがミゲルは何の躊躇もなく。
「素晴らしいお方であり、我々の創造主であらせられます」
まあこれで納得したのだ。途中で子育てを放り出したと思っていたが異世界で魔王になっていたらしい。まあ
「あの人らしい、と言えばらしいな」
ため息をつく俺の後ろから両親二人の笑い声が聞こえたような気がした。
その後、寝ているサキとミウを用意させたベッドに移すと、俺はミゲルの案内の元広場を後にした。その際複数出てきたメイドさんがとてつもなく美人だったことで驚きながら、ね。
どうやら俺たちがいるのは人呼んで魔王城そのものだった。元魔王リサの居城であり、活動拠点でもあるこの城はとてつもなくでかい。聞いた直後は中世とかに出てくるお城をイメージしていたのだが、その実城というよりも都市一つを城に詰め込んだ、というのが正しいだろう。それにしても一代でこれを築く手腕はさすがというところだ。そして、先ほど俺たちがいたのが謁見の間の後ろにある中央広間で、元魔王はそこで部下たちとよく遊んでいたそうだ。てか魔王が遊ぶってどうなの?なんでも遊戯であって戦うというのとは違ったらしいが。
そして案内されるままに謁見の間に着いた。するとそこには驚きの光景が広がっていた先ほどの中央広間はしいていうなればリビングという感じだ。広すぎるけど。
そして今いる謁見の間は広さがゆうに10倍以上であり、装飾関係も見劣り無く、調度品も誂えてある。また王座として巨大な椅子が用意されており、もちろんそこに案内される。そして何よりも目を引いたのがその広間に数人の人物が膝をついていたのだ。いや、人物ではないだろう。容姿も人間に似ている者もいるがそのほとんどが異形種であり、悪魔、龍、骸骨などファンタジーものに出てくる魔物たちその者だった。
最初に迎えたのが人の姿をしているミゲルだったし、メイドも驚くほどの美人ぞろえだったから少し油断していた。まあ魔王の配下って言ったらこういうのが当たり前だよね?
「えっと、彼らは?」
念のためミゲルに尋ねてみる。
「この城の主であり魔王様の配下でございます」
そう言うと一番前に跪く5人の魔物が一人づつ自己紹介を始めた。
最初に立ち上がったのは透き通るほどの白い肌、燃えるような赤い髪の美女。モデル以上のグラマラスな体からは妖艶な香りが漏れ出ている。一見すると人なのだが一点だけ人と違う部分があるそれが頭から飛び出ている二本の角。
「お初にお目にかかります。私はこの城の守護者を統括しておりますアウロラと申します」
アウロラ。古代ローマ神話に登場し、太陽神アポロンの妹の女神の名前だ。そう言えば母さんは神話が大好きだったな。彼女の能力もそれに関係するものだろう。それと額の角、もしかすると鬼にも関係があるのかもしれない。まあ全体を把握するためにも後で考えておくべきだろう。
次に立ち上がったのは男だった。スーツに似た服を身に纏い、高そうなモノクルをつけている。
「お初にお目にかかります。私はこの城の守護者の副統括をしておりますウラノスと申します。ご用件があれば何なりとお申し付けください」
ウラノス。ギリシャ神話に登場する天空神の名前だ。肉付きからしても戦闘タイプには見えない。モノクルをつけていることからも知性が高く、諜報などが向いているように感じる。あと先ほど一礼した時に見えたが小さめだが背中に羽があり、どうやら飛べそうだ。
続いて立ち上がったのが筋肉隆々の大男だった。まさに狂戦士とも呼べるの異常な雰囲気が空気を殺伐と変えている。
「お初にお目にかかる。我はアレス。魔王様からお預かりした軍を掌握、運用しております」
戦をつかさどる神で、荒ぶる神として恐れられた一人でもある神の名前だ。
まあ見た目通り脳筋ではなさそうだ。話は通じそうだし、しかも今軍って聞こえたけど、まあいいや後で確認だ。とりあえずあと二人の紹介を聞こうか。
「お初にお目にかかりますカオル様。私の名はタナトス、配下にアンデットの軍勢を従える第二守護者でございます」
タナトス、ギリシャ神話では死をつかさどる神だ。性別については知らんが、死に関係のあるアンデットを掌握しているようだ。見た目はとてつもなく美人で20代前半であろうか?瞳が赤く、肌が白い。確認しないとわからないがバンパイアかなんかって言われると納得しそうだ。そしてなんだか俺への熱い視線を感じる。まあ気のせいだろうが。
そして最後になったのが最も小さい容姿の少女だった。まずは話を聞こう、ひとは見かけによらないともいうし。(人か?)
「我が名はヘパイストス。建物建造から武具作成に至るまですべての製造を担当しておる。一応第3守護者じゃ、以後よろしく頼む」
ヘパイストスって炎・鍛冶の神であるから生産部門か、納得。
おっと、この言葉遣いのせいで統括と副統括のアウロラとウラノスが殺気みたいのを放ち始めたぞ。だが言葉づかいからはなじみやすさを感じるし、それは二人も気づいているからか、特に何も言わない。まあ彼女のとびっきり可愛い部類だ。
てかどうなってんだ、悪魔だろ?異形種だろ?もっとグロテスクなのを予想していたんだが。そこは母さんの趣味なのか、てか男性陣も美形多すぎだろ。まさに異世界だからってやし過ぎだろう。俺も容姿には少しは自信あったけど、自身無くすぜ。
「よろしく。お前たちが実質的な統括者、と考えていいんだな?」
「はい。そのお考えで大丈夫でございます」
すぐに答えるのは傍にいるアウロラが反応する。
「とりあえず俺も自己紹介と行くか。異世界から召還された坂口カオル。それでもう気づいているだろうが元魔王でお前たちの産みの親でありる魔王リサの息子だ」
そこで何名かに動揺が多少だが広がる。だが目の前の守護者たちは表情が少し変わった程度だ。
それにアウロラとウラノスは気づいていた様子だ。
「あと二人、俺の妹が二人いるが一つ約束してほしい。あいつ等には母さんの事を話さないでくれ。そして元魔王であることも。それだけは何が有ってもお前たちの口からは話すことがないように約束してくれ」
小さいころに置いて行かれた二人にとって、そして特にサキにとっては重大な問題なのだ。それにミウにとっても母親の存在は大きい、失踪した事実すらも知らないのだ。それが突然魔王だなんだとは混乱するだろう。それにたたでさえ異世界に召還され今後が不安定なのだ。なるべく彼女たちに負担をかけたくない。
「お望みとあらば、我ら一同深く心に刻み込みます」
異論はないようで素早くその場に跪く一同。そして代表者としてアウロラが言葉を刻んだ。
その後は各統括者を交えての現状の把握を開始した。まあ何事も情報は大事だし。
まず最初に気になったのがこの世界での敵対勢力と、我々の戦力だ。魔王になったはいいがすぐに攻められて死ぬなんてのはごめんだぜ。俺は平和主義者なんだから。
「まずは敵対勢力とのことですが。申し訳ありません、現在把握できる範囲には敵対勢力は存在しておりません。なおこの情報は魔王城から出ることを禁止されていたためであり、その外は把握しかねております」
なんと、我が子可愛さから家から出るな、という事か?なんたることやら。まあ最強たる魔王がいたのだ、喧嘩を売る方がバカだろう。
「そうか」
とりあえず、人間を基準に考えてまずは強さの判定を作らないと敵も味方も強さを判定しかねるな。
「ミゲル、人の大きさの石を用意してくれるか?」
気軽に話しかけれるようにはなったな。慣れとは恐ろしいものだ。
「直ちに」
そう言うと消えた。え、消えたよあの爺さん。マジで?忍者みたいに音もなく消えた。まあいいや。
「とりあえず、なんとなくお前たちの強さを確認したいんだけど、この中で一番強いのはだれ?」
率直に尋ねる。まあ魔王軍の最高幹部となるとでたらめな強さが相場なんだけど。彼らはどのくらいの部類に入るのだろう。ワクワクしているのは、内緒だ。
「肉体的に、であれば近接戦闘を得意とするアレスと私が強いと判断します。しかし、魔法戦闘や武具等によりその順位は変動致します。もし万全の状態での戦闘であれば先ほどのご紹介の順になります」
おう丁寧な説明ありがとうアウロラ。ってことはやはり統括のアウロラが一番強いのか。まあ肉体的にもってのが驚いた。なんせ肉だるまのアレスに勝てるって顔してるぞ、素手での対決なら。
そうこうする間にミゲルが戻ってきた。
「こちらでよろしいでしょうか?」
そう尋ねて傍に置いたのは重さが一トンくらいあるであろう石。いや岩と言ってもいいだろう。それほどの巨大な石だ。しかもそれ、素手で持ってたよ。床に置いたときドンって言ったもん。まあ気にしたら負け、だろうな。じゃあ始めるか。あ、その前に。
「うん。大丈夫そう。でアウロラ」
「はいなんでしょうか?」
反応速度が怖いよ。
「軍の中で一番弱い兵を呼んでくれるか?」
「はい、かしこまりました」
うんよろしい、じゃもうすこしかか・・え?
俺が次の瞬間に目にしたのはアウロラが手を翳し、その下である地面からもこもこって出現したのだ。肌の色は緑色、武装は粗末な盾とさび付いた片手剣のみ。防具もなく、粗末な布を巻いているだけの服装だ。身長も低く、1メートルはないだろう。
「ゴブリンでございます。我々が所有する魔族のうちで最も弱いと思われます」
やっぱりゴブリンか。ファンタジーでは定番のゴブリンさん。まあいつも最低の地位は可哀想だけど、しょうがないか。てか、アウロラさん、一瞬で召還?してたよな、見た目的にはいたものではなくて新たに作り出したみたいだし。そんな手軽に魔物召還できるのか。
「うん、ありがとう。じゃゴブリンくん、その岩割ってみて?」
まあ何とも俺悪魔。まあ魔王なんだけど。どう見ても貧弱そうなゴブリンにこれが割れるわけがない。よくても人間と同等の力に見えるのでせいぜいできて削ることだろう。まあお礼を言ったことで少しくねくねしているアウロラはこの際無視する。
キンっと芯に響くような音が何度か続き、パラパラと小さな破片が床に落ちる。
あ、掃除しないといけないな。そのこと考えてなかった。まあいいや。
「うん、わかったゴブリン君ありがとうね。もういいよ」
まるで神のように崇めるかのように下がったゴブリンは他の守護者から殺意のある目で見られている。あれじゃ生きた心地がしないだろうに。
「じゃ次アウロラ」
「は、はいっ」
うん、ゴブリン君を視線だけで殺さないでね。もう泡吹く寸前みたいだから。可哀想に。
「アウロラ、この岩、割って・・・いや殴ってみてくれる?」
一番弱いのであれなのだ、一番強いアウロラが割るなど造作もないだろう。まあ拳で殴るのは少し気が引けるがまあ大丈夫だろう。
「かしこまりました。ではお言葉に甘えて」
ん?なんで甘えるのか理解できんが気にしない。俺は岩のすぐそばに立つアウロラに意識を集中させる。
「はっ」
少し気が抜けるような掛け声と同時に放たれる拳。だがそれには俺の目には見えなかった。その直後何が起こったのか、アウロラを中心に爆発が起きた。
すぐさま俺の前に立つ残りの守護者たち。爆発?なんで殴って爆発する?あれ、爆弾になる石だったとか?
静まると同時に前の守護者が退く。それと同時にウラノスが短くため息を吐く。
「アウロラ、加減をするのはいいですが破片がカオル様に飛びましたよ?カオル様であればあのような破片の処理は造作もないでしょうが、お手を煩わせるのには賛成できませんよ?」
ため息の中に多少の怒りも込めているのか、殺気がにじみ出ている。
「も、申し訳ございません。お怪我はございませんでしたか?」
すぐ飛びつくように俺の元にやってくるアウロラ。まあ、なんだ怪我はないが、なんだそのでたらめな力。
「大丈夫だから」
そう言いつつ視線を石があった場所に向ける。その場には何も残っていなかった。割れたのではない、消し飛んだのだ。まあ何という事でしょう、あれだけごつごつとした岩がきれいさっぱりなくなっています。ではないわボケ。まああれで手加減しているんだかまあ強さがでたらめなのは理解できた。
「まあ強さはわかった。とりあえず、ランク分けとかある?」
最初から聞いていれば少し楽だったかもしれないが、俺は自分の見たものしか信じないたちなもんで。
「はい。一応リサ様が呼ぶ時に面倒くさいからと言われて分けております」
はい、なんともう存在していました。俺って無駄なことしちゃった?まあ、この目で確認できたからいいや。
とりあえず、その基準というのがこれだ。
Fランク:ゴブリン、スケルトン、ゾンビ、オーク等
Eランク:ホブゴブリン、スケルトンナイト、ゾンビナイト等
Dランク:オーガ、スケルトンライダー等
Cランク:地竜、スケルトンドラゴン等
Bランク:飛竜、ドラゴンナイト等
Aランク:各守護者の近衛兵、ワルキューレ(ミゲル直属の戦闘メイド)
Sランク:アレス、タナトス、ヘパイストス、ミゲル
SSランク:アウロラ、ウラノス
まあ、そして魔王がSSSランクなんだそうだ。俺ってアウロラよりも強いのか?まあいずれ分かるか。
先ほど聞いた中にもいくつか聞いたことのある種族が混じっていたし、見た目はともかくランク分けんに関しては簡単だ。戦力的に一ランク上がるごとに100倍の戦力となる。ようはホブゴブリンを倒すのにゴブリン100匹を必要とするということだ。その上のオーガにはさらに100倍であるゴブリン1万匹。地竜で100万匹、飛龍で1000万匹、その上の近衛とかになるともう雲の上の存在なのだろう。で各守護者、まあバケモノだな。まあ魔物だし、人じゃないから化け物なのは確かだけど。まあ大雑把にまとめるとこんな感じだろう。
「まあ大体は理解したよ。で、今後の方針なんだけど、とりあえずは家族と話して決めたい。だから保留にするけど、ミゲル」
「はっ」
素早く傍に侍るミゲル。
「周辺の調査をしてくれ、俺たちに敵対する勢力の有無、それらの強さと数を大まかでいいから」
そう、守りは大切なのだ。世の中には攻撃は最大の防御などというが、命あってのものだねであり、相討ちなどしたら意味がないのだ。これは俺の自論であり、まずは防御。
「かしこまりました」
「あと、その時に遭遇した勢力とは極力戦闘は控えること。必ず生きて帰ること、これは絶対命令だから忘れないでね」
「はっ、かしこまりました」
そう言うとミゲルは少し離れた場所で消えた。まあもう2度目だから慣れたし。
じゃ、あとの守護者たちだけど
「とりあえず、この魔王城内の全勢力、強さとその数を把握したいから紙に書いて俺のとこまで持ってきてくれるか?」
「かしこまりました」
そう答えるのはアウロラだ。まあ秘書みたいな位置づけだろう。社長じゃなかったけどね俺。
そうして話し合いも一段落して、次は自分の能力の把握をしようと考えていた時だった。
「失礼いたします」
少し前、サキとミウを運んだ際に手伝ってくれたメイドさんが近くの扉から入って来た。そう言えば名前聞いてないな。そう考えているうちに目の前までやってきたメイドさんは膝まずき、
「サキ様とミウ様が目を覚まされました」
その言葉で俺はとりあえず予定を変更することにした。
第一話、最後まで読んでいただきありがとうございます。この作品はふとした思い付きから書き始めた作品です。目標としては100話以上としていますが、それまで飽き性の私が続けられるかどうか・・・・なるべく頑張るので応援、よろしくお願いします。またこの作品は常に登場人物たちと共に歩んでいきます。通常であればプロットなど予定表にそって書いていくものなのですが、とにかく自由に、と思いその場の思い付きやノリで書いています。なので皆様のご感想やご意見などで今後の物語が決まるかも?
というところで最初の挨拶を締めくくりたいと思います。次の更新まで今しばらく、お待ちください。