プロローグ (今となっては過去の出来事・・・)
タイトルとは裏腹に暗い内容になっていますが、今話だけです。
人が死んだ。頭では理解出来ている。
それなのに思考が停止している。ここから離れようとしても体が動かない。手が震えている。うまく呼吸が出来ない。めまいがする。吐き気がする。動悸が激しくなる。嗚咽が止まらない。
人が死ぬことは理解していた。人が脆いことも分かっていた。けれども僕は信じたかったんだ。人の底力というものを。・・・いや、違う、本当は気づいていた、なのに、僕は怖かったんだ。僕が助けても状況は変化しないんじゃないか、それどころか僕までやられるんじゃないかって。
だから息を潜めて隠れていた―見て見ぬふりをした。人の命より自分の安全性を優先した。苦痛な面持ちをして自分の感情に正当性を見出そうとした。その人が運良く助かる、あわよくば自分は気づかれずにすむことを願って。
でも駄目だった。結局その人は殺されてしまった。
あのとき、僕が後ろから忍び寄り、襲っている人に殴りかかればその人は助かったかもしれない。その人と協力すれば撃退出来たかもしれない。
そんなことを言ってももう遅い。僕は何もしなかったのだから。ただ見ていただけなのだから。見殺しにしたのだから。
つまり——妹を殺したのは僕だ。