御使い様の使命
「さて……最低限の生活環境はできたが食べるモノが無いからな」
ひとまずトイレと寝床を用意してようやくひと段落したとこで、初めからある扉の前に立つ。
「おそらくここから外に出られるんだろうけど、うーん……不安だ」
扉に手をつけながらも、この扉がどこに繋がるのか、どの様な場所なのか……。元は平和な国で平和に暮らしてきたのだ。争い事は無い様にと意を決して力を込め押し開ける。
ゴォォウと部屋の中に一気に空気が入り込んできて目の前を圧倒的な光が包み込む。
「目がぁ……目がぁぁああ!!」
「……この反応はあなた方の世界ではごく一般的なものなのでしょうか?」
某有名な映画のワンシーンを再現する導に呆れた様な声が掛けられる。
「お決まりというか、ネタと言うか……まぁ、やってみたいよね?って事だな。と言うかだれ?」
「ネタ……ですか。まぁ、良いでしょう。私は神子と呼ばれる存在で名はありません」
自称神子は紅と白の服……所謂巫女服……に身を包んでおり、腰元まで伸びた流れる様な黒い髪と吸い込まれそうな深い青色の瞳が印象的な美しい女性であった。
「ふーん?で、その神子さんはここで何を?ただ、俺とお喋りしに来ただけじゃ無いんだろ?」
「はい。私はここで御使い様にこちらでの使命を説明させて頂いています」
「お?じゃあこっちに呼ばれた理由を教えて貰えるのな?」
「はい。早速説明させて頂きます。あなた方御使い様はそれぞれ『火』『水』『雷』『地』『緑』『光』『闇』『全』『無』の御使い様がおられます。貴方は雷の御使い様ですね、此方に来る前にガラス玉を拾いませんでしたか?」
そう言われポケットをパッパッと見てみると確かに気を失う直前に拾った色ガラスの様なモノがあった。
「……これだな?けど、拾った時はこんなに黄色くなかったし光ってもなかったぞ?」
導が拾った時は無色透明でもちろん光ってもいなかった。しかし、今見てみると「俺を見ろ!」と言わんばかりに黄色く光り輝いていた。
「それは此方に来てからそれぞれ適正に応じて色が変わるもので、火の御使い様なら紅、水の御使い様なら蒼といった様になります。……それで御使い様の使命なのですが、あなた方御使い様には此方の世界ーーーチャンスラージの守護神として緊急時に力を貸す事です」
「ようは正義のヒーローみたいな事をすればいいのか?ちなみにその緊急時は何を持って判断すればいい?」
神子ごコクリと頷き話を続ける。
「緊急時の判断はそちらに一任しますが、世界規模の危機の際は此方からお知らせいたします。それ以外は自由にして頂いて構いません」
「そっちから連絡が無ければ最悪事件も無視して遊んでてもいいか?と言ってもそもそも俺に力なんて無いぞ?」
「そうですね、連絡をした場合は働いて頂きますが、それ以外は無視しても構いません。力に関しましては……此方に来る際に拾ったガラス玉に魔力を通して頂くと力の使い方が分かるかと」
「魔力……ねぇ?うーん何と無く感じてるこの違和感の事なんだろうな」
ごく小さな違和感を絵の具を絞り出す様な感覚でガラス玉に込めてみる。
おそらく成功したのだろう、一瞬一際強く光るとそこには先程まであったガラス玉を取り入れた腕輪が出来上がっており、同時に自分の力の使い方も理解していた。
「どうやらできた様ですね。どうでしょうか?違和感などはありませんか?」
「いや……違和感は無いな。よく馴染む」
先程までは違和感のあった魔力すらも、今は生まれた時から側にあったかの如くよく馴染んでいた。
「それでは、私の役目はこれまでです。これは此方の貨幣ですのでご利用ください。因みに本来この神殿はブリッツと呼ばれる岩山に建っておりますが、念じる事で様々な所へ繋がる門となります。今はまだレビンと呼ばれる小さな街にしか繋がりませんが、自ら訪れた場所をマーキングすれば行き来が出来るようになります。詳しくは神殿のコアでご確認下さい。帰る際はその腕輪に魔力を込めながら扉を想像して頂ければ大丈夫です」
「ん、そうか。まぁ、大体の使い方は何と無く理解している。あとは実際使ってみながら確かめるさ。んじゃ説明ありがとさん」
新たな力を確かめる様に手を握ったり開いたりしながら神子に礼を言う
「それが私の役目ですから。それではチャンスラージをよろしくお願いします」
手を軽く上げ返事をすると、意識が遠のいていく。耐えようと思えば耐えられそうだが意味もなさそうなので、そのまま意識を手放した。