プロローグ
人は誰しも覚悟を決めねばなら無い時がある。だが、人はその覚悟を決めあぐねる。故に間違い過ちを繰り返す……
「う〜さすがになんか着てくるべきやったな」
ざわざわと揺らめく黄金色の稲穂が黄金の絨毯の様になるこの季節。少々肌寒くなり導は上着を羽織ることなく家を出た事を後悔していた。
「取りに帰るのも面倒やし、サクッと買うもん買って帰るかな」
お気に入りの音楽をミュージックプレイヤーで聞き流しながら近くのコンビニに向かう。
コンッ
道中何かを蹴る。軽い音が響く。
いつもならなんとも思わず歩きすぎる導ではあるが、なにかを感じ取り足を止め今蹴っ飛ばした物を摘み上げる。
「なんやろこれ?なんかガラス玉っぽいけど触った感じ違うけど……っと、電話か?」
半透明のそれを少しの間見ていると左ポケットが震え色ガラスもどきをポケットに突っ込みスマホの液晶を見る。
〜ようこそ選ばれしものよ〜
その言葉を認識するかどうかのタイミングでぷっつりと意識は途切れた。
「う……うぅん」
目が醒め辺りを見渡す。大理石かなにかで作られた建造物の中らしく、両脇にはセンスの良い飾りの施された柱によく分からない石像が左右対称に並べられており、後ろにはそこそこ大きい両開きの扉。その反対側にはこの場には似つかわしく無い派手な椅子……所謂玉座の様なものがあった。そして導はその広間に倒れていたらしい。
「ここは……どこだ?」
混乱しそうな状況ではあるが導は努めて冷静に落ち着く様左手首を握る。
立ち上がり、ひとまずぐるりと一周回ろうと立ち上がろうとした時に足元に転がっているスマホを見つける。
「……そういえばこれ見てから記憶が無いな。っ!」
電源を入れると浮かび上がるのはいつもの待ち受けでは無く、気を失う直前に見たあの文字。
〜ようこそ選ばれしものよ〜
〜ようこそこの世界に〜
〜ようこそ異邦人よ〜
〜この世界で生きたいのならば覚悟を決めよ〜
〜覚悟を決めたならば歓迎しよう〜
言葉の意味を理解するたびに文字が霞の様に消え新たな文が浮かび上がる。
頭では理解でき無いが人の根本的、原始的な、本能でこの言葉の意味を理解する。
「はっはーん……なるほど?こりゃ腹括るしかないかな?」
首元をぽりぽり掻きながら高い大理石の天井を見上げた。