研修 2-3
前回までのあらすじ
バーチャルリアルワールドにダイブした主人公は
過酷な設定?の蜥蜴人に感化され、悲しみと怒りをソノダさんにぶつける……?
ボクは大きく深呼吸した、何を言いたいのか言葉にするまでボクも分からない、下手をすると怒鳴り散らす結果になるかもしれない。
そしてボクは研修に不合格になるかもしれない。
ただ、どうしてもこのような不遇な子がバーチャルで出来るのに耐えられなかった。
「あの、確かに獣人や蜥蜴人がメイドというのは、最高です、ノーベル賞貰えるぐらい最高です、でも……」
目から涙が溢れていた。少なくとも今隣りにいる蜥蜴人をオレは全力で救いたい。
「……ソノダさん……オレ、不味いことしたか……? 謝ればいいか……? そんなんじゃすまないか……? オレで憂さ晴らしするか?……む……」
場の空気を読めないというのはあながち嘘ではないようだ、でも、申し訳無さそうに言う姿がズシズシとボクの心に矢がささるような痛みを生じさせた。
てか『憂さ晴らし』って何……? そんな口実で暴行を素直に受けてたのか……?そういう設定なのか?……。
「嗚呼ー、大丈夫、君は関係ないからね、少し離れて待機していてもらえるかな?」
「……御意……では、手を上げていただければ、すぐ来ますので」
「ありがとう本当によく出来た子だ……」
その上から目線の言い方も辞めて欲しい……。
バーチャルだから人じゃなくて物なのかもしれないけど、ひとつひとつのことをプログラミングされて動いてるのかもしれないけど……。
「……駄目……何も喋らなくていいから隣にいて……ボクは、君のために戦うから……」
ボクは立ち去ろうとする蜥蜴人の手をとった、蜥蜴人の手をがっしりと掴んでから、自分の手が震えていることに初
めて気づいた。
優しさじゃないかもしれない、自己満足かもしれない、でもこの空間が……現実の世界のように感じていた。
本当にこんな世界を作り上げたのは凄い……だが……。
流石にこれは余りにも酷すぎる。
「……オレどうしよう……? わかんない……、 ソノダさん……?」
……必死に空気を読もうとしている蜥蜴人、物凄く不安になっているに違いない。
不安にさせてごめんね……。
「奴隷設定なんて駄目です、そりゃ、そういうの好きな人いると思いますけど、かくいう自分も、何度か……『奴隷』や『グロ』ネタをおかずにしたことありますけど……でも、抜いた後すっごい自己嫌悪になって、自分のこと嫌いになりました。 多少の主従関係は良いと思いますけど、これは余りにも例えバーチャルで心がないにしても酷いなって思います、ここまで言ったら、ボクはもう研修不合格かもしれませんけど、ボクの見える所で、こんな身分の差認めない、認めません!! 余りにも、余りにも可哀想です……社員じゃないボクが無駄口叩いて申し訳ないですけど……。 お願いします、 こんな子達を作らないであげて下さい、 お願いします、 お願いしますっ!!」
ボクは蜥蜴人の手を離して、土下座をして、喉が潰れるぐらい懇願した。泣き叫ぶぐらいに。
「……」
「……」
辺りに沈黙が流れた、その時、ぷにっと蜥蜴人の手がボクの手を優しく包んだ。
「うぅ、うぅぅ、うわぁぁぁぁあああん……うわぁぁぁあああん……」
大声で泣いた、研修で何やってるんだろう、もう不合格も合格もないよね……。
「ナカナイデ……ナカナイデ……オレ頑張るから」
蜥蜴人の優しい言葉が心を包む、そして、優しく背中まで慰めてくれた。
この暖かさをこの蜥蜴人は多分知らないのだろう、或いは何年も味わってないのだろう。
ボクなんかこの子に比べれば温室育ちで、社会的に理不尽なことはあったけど、そんなの、蜥蜴人の設定に比べたら天と地の差があるだろう……。
「……言わんとせんことは分かったよ、辛い思いさせてごめんね」
「それじゃぁ……」
ボクを労う言葉、少しだけ安堵したが、もしやと全身から血の気が引くのを感じた。
「…すぅーー……はぁぁ……」
ソノダさんが怖かった、不合格を言われそうで怖かった。
でも、蜥蜴人の背中をなでてくれる手があったかかった。
だから、ボクは顔を上げて、ソノダさんの目を見た。
人と目を合わせるのが少し苦手なボクだけど、目は口程にモノを言うみたいな言葉を信じて。
目を合わせて、恐る恐る尋ねた
「……ソノダさん……?」
「もう君を全部信用して言おう、良いよね…… ハルカさん」
「はい、どーぞ、私も彼なら良いと思いますし」
「ん……?」
何故かハルカさんと連帯感のあるソノダさん、どういうことなのだろう?
そして、ボクに話すことを許す権限がハルカさんにあるって一体……?
事態を冷静に判断させてくれ、そう願っても時は等しく流れる。
「ここは、バーチャルリアルワールドではないんだ、地球とは異なる星なんだ」
「……はっ……えっ……ええっっ!!??」
「いやいやいやいやいや、ここバーチャル世界でしょ? 今ボクの体はソファー型装置の上でしょ?」
「眠っている間に、この世界に続くワープホールへ搬送しました」
「えっ……ちょっとまって下さい、洋服はどう説明するんですか?」
「ソノダさんもハルカさんもボクも 恐らく現世で着ていたものと違いますよね?」
「えっと、私は自分で着替えたけど、そっちは、ソノダさんとシオン君とべいろー君3人係で着替えさせた感じかな?」
「……パンツまで着替えてるよね……?」
「念には念を入れました」
ニカッと笑うソノダさん。
「ボクの息子見ました……?」
「まぁ……私バイセクシャルですからね、因みにシオン君達も……」
「きゃっ////」
思わず女の子らしい声をあげて両手で顔を隠した。
「あぁーでも触れていないですよ、一応仕事ですからね」
「……」
ハルカさんの視線が痛い気がする。
「あ、あの因みに、シオン君達は獣化したままボクのお着替えを……?」
「お嫌いでしたか?」
「いえ、滅相もない! 着ぐるみさん達による介護プレイ……はぁはぁ……」
「もし、録画してますっていったら欲しいですか?」
「初任給と交換して下さい!」
「ははっ……駄目だ、笑ける、変態すぎるけど、逆に清々しいわ、あーもー無理、でも私好きかも」
そこにはケラケラと笑うハルカさんがいた、明らかに最初の様子と違う気がする。
「あの部屋に監視カメラはありますが、監視カメラの映らない部分でお着替えしました、期待させてすいません」
「……オ、……オ、オワタ……orz」
脳内では、ソノダさんがああは言っても、バイセクシャルなら着ぐるみのどちらかがセクハラしたんじゃないかというのを淡く期待していたのだが。
「……本当に欲しいです?」
「……それなりに映っていれば……」
「はぁ……まっすぐっていうか、なんていうかなぁ……」
ハルカさんの大きい溜息でボクは我に返った。
「ではご要望に合わせて、私ソノダも獣化して3人によるお着替えプレイということで」
「うぉー……あなたは神か……」
「いえいえ滅相もございません」
悪乗りに付きあてくれるソノダさん、とはいえあわよくばそれは給料が少し減ってもいいから欲しい。
嗚呼、本気で言ってる自分って本当変態なんだろうな……。でもそれが幸せ。
そして、異世界で働くことに決まった。……ん……異世界……?
何かが引っかかる気がした。
その時だった。
「そろそろ良いか? 本題に入る前に、さっき自分が言ったこと覚えてるか?」
キリッとした表情のハルカさんがそこにはいた。
肉付きが良いわけではないが、今までにはない威圧感がそこにはあった。
「……色々言いましたよね……、えっと何についてでしょう」
本件と関係ないのはわかっているが、奴隷ネタやグロネタをおかずにしたと言った記憶もある。
はぁ……忘れたい、穴があったら入りたい、タイムマシーンがあったら戻りたい……。
「その、なんだ、自分の見渡せる圏内で酷い身分差は認めないと」
「…ぁ……言いました、……嗚呼、現実なんですね……」
現実というのは何よりも嬉しい結論ではあるがそれと同時に、この蜥蜴人が過酷な差別を受けてきたのも事実となる。
ボクはたまらず手を伸ばして蜥蜴人の腕を掴んだ。
「……オレも話に入って良いのか……? でもオレ空気が読めてないって奴だから、分からない」
「……大丈夫だよ、側にいるだけで……」
「アリガトウ……お前、あったかいな……懐かしい感じがする」
誰かをこんなにも守りたいと思えたのは始めてだろうか?
それから、ソノダさんのスマホが音を鳴らした。
10分ぐらい、20メートルほど離れた場所で何やら話をしていた。
暫くして、ハルカさんも手招きされソノダさんから何やら話を聞いていた。
それから、何の電話だったのか、いまでもボクは信じれない。
ありえない一言を聞くことになった。
「あ、福助王子、その子、一応奴隷ですが、いまの主人から買いつけます?」
「ぇ……ん?……」
最初の「ぇ……」は『奴隷を買います?』でその後の「ん?……」は、空耳だろうか『王子』と聞こえた気がした。
「…お、王子?……」
「そうです、貴方は先ほど国王陛下という身分になりました。 僭越ながら、私、王子の補佐のハルです。 宜しくお願いします」
よくわからないが、ソノダさんが跪き、ハルカさんことハルさんも跪く、つられて蜥蜴人も跪こうとするが
手を上に引いてそれだけは阻止した。
そして、必然的……いや、事故的に、蜥蜴人を抱きしめる形になった。
事故的だろうが必然だろうが、そんなの関係なくハグはする。
そこに蜥蜴人がいるからだ!
はぁ……幸せである。
「って、王子? ボクが? さっきの電話何?現在の国王みたいな権力者からの電話?」
「はい、私も凄く驚いておりますが、御方は、王子の主張に大変感銘を受けたご様子で」
「えっとね、ここアルドン帝国は、結構小さい国だけど、ゆくゆくは、大国を任せたいって」
「え、んー、さっきの電話って大きい国の王族か何か?」
「そうそう、想像力豊ね、 流石あの小説を書けただけはある」
「あの小説……?」
「嗚呼、言ってなかったけ? あの挿絵私が書いたの」
「ままままっ、マジ……ですか」
「そんな嘘ついても何のメリットにもならないわよ、喜んでくれたみたいでありがとう」
「いえいえいえいえいえいえ!! ありがとうございます、励みになりました、筆が止まっても、あの絵を見たら頑張ろうって気持ちになれて……おかげさまで至極順調です!」
気がつけば、ハルさんの両手をひしひしと握っていた。
「ねぇ、一つ聞きたいんだけど良い?」
「な、なんでしょうか?」
「あの小説の続きまた書いてくれる? んで 出来ればあの小説をこの世界で実現させて?」
「……」
少し答えるのに間が言ったが、あの小説の真の終わりは、本当にあらゆる身分差が緩和され、種族問わず平和に暮らす世界。
無責任なことなのかもしれないが、ボクは
「あなた(絵)のために頑張ります!」
「……」
「ん?……どうかしました?」
予期せぬ沈黙に耐えかねてボクは尋ねた。
「ぇ…… 福助王子は、男色家ではなかったので? 女性もいけますか?」
「へっ?…… 自分も(ソノダさんと一緒で)バイセクシャルですが……」
「そ、そうなんだ…… うん、 平和にして、だってさ、すっごい良い子じゃん、あの子」
「そうですね…… やれる限り頑張ります」
気のせいか、ハルさんの顔が赤くなったのにボクは余り気がつけていなかった。
次回も明日19時に更新予定、ご意見ご感想お待ちしております。
描写不足箇所があれば ご指摘いただければ、加筆させていただきます。