交渉ごとのあれこれ
双方がなにやら決意を決めたようななにやら深刻な様子で俺を見ている。コボルトの逃げてきた経緯などから察するにこの二種族はなにやらきな臭い。そしてしび予測から考えて敵を増やししたくないのだろう。
家を建てたり木材を加工したりと言った専門技術を複数持ち合わせるし、フィゼラー大森林を挟むが故に外界と隔絶されている彼らにとってコボルトが持つ人間とのコミュニケーション能力などもは無視できないだろうしな。
「さて、単刀直入に言うが・・・コボルト達の身柄は渡せないぞ」
まずは先制攻撃を加えておく。
「彼らの能力は敢えて聞くまでも無いだろうがこの集落に不可欠だし、なにより集落の人工の大半を占めるコボルトを引き渡す事はこの集落の存続に関わる」
「そうですか・・・しかし我らも子供の使いではない、そこを曲げて何かしらの協力を仰ぎたい」
狼人族の男性はそう言うが俺としても彼らに従う義理もメリットもない。だがここでどちらかに傾いた意見を出してはいらぬ恨みを買いかねないので此処は日本流に曖昧かつ可能性を残した言い方をするしかあるまい。
「そうは言っても無い袖は触れん、とりあえず今回はその事をお上に伝え正式に交渉を行うというのはどうだろうか?そこの御仁もそうなさるといい、両方の上司と交渉を十分に行った後に答えを出させていただこう」
「そうですな・・・ここで只管頼み込んでも貴殿を困らせるだけ・・・ですか」
狐人族の男性がそう言うと狼人族の男性はかなり不機嫌な顔をしていたが同意見らしく遅めの簡単な自己紹介を済ませることにした。
「まず此方から自己紹介させていただこう、ヴォルカン・アダムスターという。故あってこの集落の長をしている」
「私はチェステ・ニーミツ、狼人族の指揮官をしている」
「ふん、最後になったが我の名はアルベ・シルミナという、どうかよしなに願いますぞ」
二人はそう短く挨拶すると睨みあいながら帰って行った。道すがら殺し合いを始めなきゃいいがな。
さてさて、これからどうなることか・・・すくなくとも中立を保ってコボルト達を守らなきゃならないが、悪く運べば片方を最悪なら両方調伏させることになるか。
「どうしますか?」
自室に戻り頭を働かせているとアウロラが俺にそう尋ねてくる。毎度何処からとも無く入ってくるのは暗殺者の性なのか?敵意が無い分進入を察知しずらいんだよな・・・。
「どうするもこうするも、獣人の諍いに首を突っ込むのは勘弁だ。和平交渉の証人程度ならまだ考えるがそれだって面倒ばかりで此方に得がない」
「それでは中立を保ってコボルト達を守ると言う事でいいのですか?」
「ああ、此方は軍が無い関係で集団で来られると辛いがアウロラ達のお陰で狼の侵入自体は察知できるし・・・狐の連中は呪詛の類を使うんだろうがそれも対応は可能だろう?」
そう言うとアウロラは驚いた様子で此方を見つめている。
「確かに旦那様は博識ではありますが狐人族の呪術に知識があるのですか?」
「ん?ああ・・・まあ、なんとなくそう思っただけだ」
格好が平安貴族っぽいというか陰陽師っぽかったから当て推量で言って見たが当たりのようだ。星型に丸印の模様を描いていたからまさしく呪術師!って感じだったんだが・・・。
「そうでしたか、確かに彼らは呪術を使いますが彼らの呪術は術者本人の力に依存しますので此方の実力次第で簡単に解除できますし加護や結界の類には弱いので我らやドワーフ、それにコボルト達の様な精霊に好かれる者たちに攻撃を仕掛けるのは難しいでしょう、ただ・・・」
「ただ・・・何だ?」
「彼らの術の恐るべき所は掛かり難い代わりに種類が豊富で様々な効力を持つ事が有名で、掛かり難さを克服する為に呪術の補助的な道具や薬物を用いると言います」
一点突破型で対処の難しいダークエルフやエルフ達の精霊の力を借りた呪術とは違い、自力で発動するが故に知識さえあれば強弱を調節し、多様な効力を持った呪術を発動させられるのが彼らの強みなのだと言う。さらに彼らは自らの呪術の弱さをカバーするために薬学や楽器などによる音などの催眠術などで相手の抵抗力を殺いでから術に掛ける戦法を取る事もあると言うのだ。
「そして執念深さと術を掛ける為に編み出した手練手管は無視できないものでしょう」
「なるほどな、まさしく狐というわけか」
「対する狼人族ですが彼らは非常にプライドが高く、弱者には決して靡かない種族で戦闘による勝利を重んじ集団行動を旨とする狩猟民族です」
「こちらも狼である・・・か、」
「感覚が鋭く体術に優れ、徒手空拳でも人間なら装備と騎士クラスの訓練を受けた者か熟練冒険者でもなければ相手にならないでしょう、ポテンシャルが違いすぎますから」
互いに面倒な相手であることはわかったが事前にある程度の情報が集ったのはよかった、相手の得意な手段が解れば対策も立てやすい。あとは彼らが交渉に当たってどれだけ此方に譲歩を見せるかだ。




