鍛冶屋の若手のあれこれ
職人達が鋭い眼光を目に宿して物騒なことを考えているころ、ホットショットの店員である一人の男が路地裏を走っていた。
男の名はバラム。この世界で珍しい技術窃盗を専門に行うプロの泥棒で実は数年前はサマル王国で技術窃盗を繰り返し、対立する商店などから現金を受け取っていた。しかしながら秘伝の技術を盗んだ際にしくじり、追われる身となったため全てを捨ててリットリオに逃げてきたのだ。
「しかしまさかゴンゾの奴が秘伝書まで持っていなくなるとはな・・・」
彼は今年で30後半に差し掛かっており、新しく技能を修得するのも体力的に辛くなってくる頃だった。それ故に身元を詳しく調べないゴンゾに近寄り技術を学ぶ傍ら店を乗っ取る算段を建てた。ゴンゾの店を狙ったのは彼が持つ秘伝書と店の信用であり、商売そのものには成功しかかっていた。
あとは精錬など技術の下地となるドワーフの秘伝書を手に入れれば商品の品質も安定させることが出来る。しかし秘伝書を手放させるには彼を引退に追い込み秘伝書を譲り受ける必要があった、その為に頑迷なドワーフの気質にうんざりしていた若手を扇動して内部分裂を起こさせたのだ。
しかしながら若手を味方につけたとしても彼らは未熟者である為商品の品質はバラバラで質が悪い。秘伝書を手に入れるにしても悠長に構えて居ては店が潰れてしまう。そこで最終手段として彼の店に盗みに入ったのである。
ドワーフの金庫は小難しいギミックが凝らされている物と腕力のみであける物などがあるがゴンゾの場合はダイヤル式でなおかつかなりの腕力を要求するという傍からみれば嫌がらせかと思うような金庫の鍵であり、過去に行った窃盗は腕力の差に阻まれて失敗している。
今回の試みには柄のながいレンチを用いることでようやく開錠に成功したものの肝心の精錬や鍛造に関わる秘伝書は全て持ち出されていた。それでも鎧や兜など構造の理解が必要な物の設計図は持ち出しに成功し、微々たる物ではあるが成果は上がっている。
(後は面倒だが俺が弟子の面倒を見るか・・・?)
鍛冶の経験はゴンゾ以外の鍛冶場でも経験している為若手では一番の実力を持つ彼である。飲み込みの速さも手伝って結果は出せるがイマイチ彼には一所に腰を据えて働いたことがなかったため彼にはどこか居心地の悪さが付き纏っていた。
若手達は才能は無いが情熱があり、今は口先ばかりだがもう何年も働けば蹄鉄や釘など小物を作る事も一人で出来るだろうし剣についても若手の中には熱心で時折バラムがおっ!と唸りたくなるようなアイデアや技術を見せる事もあった。
(これじゃあゴンゾのジジイが俺に置き換わっただけじゃないか・・・)
頑固で徹底的な教育主義のゴンゾと奔放で放任主義のバラムは対照的で新しい試みに寛容なバラムは若手に良くウケた。
基礎を大事にするゴンゾとアイデアや閃きを大事にするバラム。思想や信条も対照的で一筋何十年のゴンゾと技術を盗んで各地を転々としていたバラムとでは生き様も対照的であった。
しかし今になって自分はゴンゾと同じように若手を指導する立場になり、彼らに指示を飛ばしている。しかも皮肉なことにないがしろにしてきた基礎の基礎であり核心技術である精錬や鍛造の技術を追い出したゴンゾから盗もうとしているのだ。
苦笑しつつも店に戻り、従業員から報告をうける。今まではマーケティングなど放浪時代のノウハウが生きたため店は品質は低いながらも安かろう悪かろうで定着し、徐々に精度を上げていくのを待てば良いだけの状態だった。
しかしここで大きな問題が起きた。
「なに?!包丁の砥ぎを勝手に受けたのか!」
凄まじい剣幕で怒鳴るバラムに仕事を請けた従業員は顔面蒼白だった。無理も無い事である、彼は無断で仕事を受けただけでなくしくじってしまっていたのだ。
無理も無い、若手が一朝一夕で習得できるほど職人の技は甘くない。
しかしバラムが自信をつけさせようと煽てていたのが裏目にでてしまい、慢心し失敗したのだ。
(職人連中がゴンゾの店に来ていたのはそれが原因か!)
弟子の不始末は師匠にということで彼らはゴンゾの居場所を探しているのだろう、そして運悪くバラムは彼らに出くわし、危うく顔を見られるところだった。
しかし彼を責めた所でどうしようもない、今回ばかりは謝り倒して現状をやり過ごすしかない。
「どうしたらいいんでしょうか・・・」
「どうもこうもとりあえず料金返してその料理店に頭下げるしかないだろう」
ため息しか出ないが仕方ない、店を潰してしまってはゴンゾを追い出してまで店を乗っ取った意味がないし自分を慕う若手達を路頭に迷わせることはしたくなかった。
(ったく、俺も年をとったってことかな・・・)
まったく皮肉なものである。いままで幾つもの店を潰してきた彼だったが、今は店を潰すまいと奔走しているのだ。
身なりを整え、返却する料金を手にバラムは職人ギルドのメンバーであるコックのランドル老の元へと向かうことにした。




