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職人達のあれこれ

遅くなって申し訳ありませんでした・・・。

一同は近々訪れるであろう自らの危機に立ち向かうべくぞろぞろとゴンゾの店の跡地へと向かう。商売道具を扱う店が無くなっては最悪業務が行えなくなってしまう。

弘法は筆を選ばずと人は言う、しかしそれは誤りである。例え達人が超絶技巧で仕事を行おうとも結局道具は良い物を使いたい。

トップランナーが幾ら凡人より速く走れても穴の空いたボロ靴は履かないし、剣豪がいくら強くとも剣を振るならやっぱり業物を選ぶ。

仕事に誇りを持つ彼らは仕事に対して百パーセントの力を出し切れる道具を欲しがるのは当然の欲求なのだ。さらに付け加えるなら後に残った店が最悪だったことも彼らの行動を後押しした。


「・・・確かここら辺だったな」


誰とも無く呟くとやがて喧騒の中で唯一ひっそりとしている一軒の家を発見した。


「あれだ、あそこがゴンゾのだ」


看板が力なく軋み、窓は雨戸が下りたままになっている。煙突は火が入っていないのか煙を吐き出すことなく天を仰いでいる。


「ホントに辞めちまったのか・・・」


こうなると彼らは新しい鍛冶屋を探さなくてはならなくなる。本来ならゴンゾの弟子達が居たので安泰の筈だったが・・・。結果は庶民向けの安物ばかりを打つ三流鍛冶屋ばかりだった。

皆が事実の再確認を前にあれこれと考えていると店の中からガサゴソと物音が聞こえてくる。もしかすると荷物を取りに戻ってきたのかもしれない。

そうならばこれだけの顧客が頼めば考え直してくれるかもしれないと皆は勇んで店の中へと足を踏み入れる。


「誰かいるのか?もしかしてゴンゾなのか?!」


期待混じりに精肉店の店長が叫ぶと店の奥から聞こえる物音がぴたりと止んだ。

しかしそこから続きの音も声も聞こえない。試しに他のメンバーも呼びかけてみたがやはり反応がなかった。


「?」


不審である。すくなくともゴンゾなら今居るギルドのメンバーには面識があるので解らないはずはないし、中には声で識別できる程度にはわかる面子もいる。

しかしなんだとかうるせぇなとか好意的でない返事にしろゴンゾがこれまで彼らに返事をしない事とというものそのものが珍しかったので皆の思考が別のベクトルに働き始める。


(まさか悪い物でもくったのか?)


体調の急変を考える者


(まさか泥棒か?!)


店の奥に居るのが招かれざる者なのかと考える者


(そういやドワーフやエルフが長く住んだ家には妖精さんが出るんだっけ)


などと見当違いの事を考える者など様々だ。しかしながらこの建物に持ち主以外の人間が居ると言うことは少なからず皆を緊張させた。


「誰だ!」


大工の棟梁が大声で叫ぶ。建築現場の端から端まで届く音声を屋内でやられるとうるさくて敵わないが侵入者を威嚇するにはもってこいである。


「・・・!」


声に驚いたのかさらにばたばたと音がすると裏口が開く音が聞こえ、走る音が聞こえた。慌てて皆が追いかけたが音の主は裏口から出て行ってしまった後だった。精肉店の店長とコックが素早く飛び出したが裏口から伸びる道には人影すら映っていなかった。


「ちくしょう、逃げやがったか・・・」


おそらく空き巣の類だろうかと皆は逃げ去った犯人の方向を睨んでいたがやがて諦めてゴンゾの店に戻ることにする。すると大工の棟梁が荒らされた部屋で顎に手を当ててなにやら考え込んでいた。


「どうしたんだ?」

「いや、これみてみろ」


そう言う大工の棟梁の足元には彼が今まで手がけてきた作品の一覧が記されてあった。デザインやくみ上げる順番などが記載されており、刃物などの単純な構造の物から鉋や鎧の拵えなど複雑な構造の物まであった。


「これって・・・」

「ざっと見てみたがゴンゾが廃業に追い込まれたのはコイツのせいかも知れんな」


大工の棟梁が指差した先には空っぽになった金庫があり、中身は空っぽになっている。しかしながら内部にはなにかしらの物が入っていた形跡があり、乱暴に取り出したような跡があった。


「金庫が荒らされてる・・・!」

「アイツがわざわざ金品を後生大事に入れてるとは思えないから・・・おそらくはドワーフの秘術に関する物じゃないかと俺は思ってる」

「なるほど・・・じゃあさっきの奴は金庫の中身を狙って?」

「おそらくはな・・・そうなると犯人は同業者じゃねえかな」


皆はそう言われて考える。鍛冶の技術が詰まったドワーフの秘伝書の類、そんなものを鍛冶師以外が手に入れて何になるというのか。

転売目的か、もしくは他国の間者か。しかしながら今の厳戒態勢のリットリオで間者が侵入できるとも思えないし、ドワーフの技術は他流の鍛冶師が真似をしたところでおいそれと真似できる物ではない。何故ならドワーフの秘伝書に記されている物はいうなれば一族の積み上げてきた歴史、ローカルルールのようなやり取りが書かれていて一族の流れを汲む者かもしくはドワーフの下で修練を積んだ者にしか意味が解らないのだ。


「半ば答えが出たようなもんだな」


大工の棟梁はそう言うと太い腕に血管を浮かびあがらせる。


「半端な仕事と師匠を裏切るような奴は許せねえ」


職人達は一様にうなずくと鋭い眼光を宿した。


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