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商談

ヴォルカンにはイマイチ理解できていなかったが魔導金属の価値は総じて高い物でそれを定期的に手に入るルートを得られる事だけで十分におつりの来る内容だった。魔導金属は作れる者も量すらも少なく、いうなれば最先端技術を駆使して作られた金属なのだ。たとえ食料品や布の高級品を半額に近いレベルで売り渡しても鉄を卸す代わりに支払われる魔導金属さえあれば値崩れを起こさないように流通に気を配る必要こそあるものの十分におつりがでる。


「製法までは聞かないつもりだけど、これ以上は譲歩できないわ」


アランはあえてそう言った。これはヒューイとキャサリンから仕入れたヴォルカンの性格をおおよそ掴んでいた彼には下手な交渉が却って事態を悪くすることを知っていた為である。


「値切るつもりなんか無い、そんなことをするような男に見えるのか?」


ヴォルカンは商談というものにとんと興味の無い男であった。それどころか言い値で買う事が当たり前とすら考えていた。もちろんボッたとバレた時点でいかなる人物も悲惨な目に遭って来たので自然と適性価格で買い物が出来るようになっていたのだが・・・。


「いえ、ごめんなさい、ちょっと考えが足りなかったわ・・・」


商談には乗ってこないのにボるのには敏感という非常にめんどくさい奴だった。


「とりあえず原料を買い付けて加工して出荷する感じでそっちと商売をしていけたらと思っている」

「ええ、スムーズに事が運んで嬉しい限りよ」


現在ヴォルカンの管理する集落には職人は多いが原料が無い状態である。なのでまずは原料の輸入先と職人の燃料となる食料が不可欠である。


「それじゃあさっそく用意できるだけくれ」

「え?」

「え?じゃない、鉄と食い物と布と・・・他はなんかあったかな」


頭をガシガシ掻いて悩むヴォルカンにアランは信じられないと言った風で、ヒューイはその光景に苦笑するしかなかった。


「あ、そうだ、馬車もそっちで用意してくれよ」

「ちょっと待って、今からなの?」

「今だよ、ああそうだよ」


冗談と思いたかったが本人は至って真面目な顔をしている。そしてこれからはじまるゲイズバー商会の激動の時代の幕開けだった。


「・・・どれくらい要るの?」

「とりあえず食料は100人分、布と・・・綿も要るな、それはベッドが100台作れるだけと農業用の作物とクルム麦だな、鉄はそっちが欲しい魔導金属の量だけでいいぞ。先払い分はヒューイが経営してる孤児院にあるだろうしな」

「ホントに?」

「出来ないなら魔導金属の話はナシだ、他所を当たる」


アランは目頭を押さえてしばらく唸っていたがやがて自分の頬を叩くと立ち上がって従業員を呼ぶベルを鳴らした。


「会長どうしましたか?」

「動ける全職員に通達よ、100人分の保存食とベッド100台作れるだけの布と綿、農業用作物とクルム麦の種を集められるだけ用意して、後知り合いの鉱山に連絡を飛ばして鉄をあるだけ買占めて頂戴」


大至急よ!と激を飛ばすとメモを取った店員達はあたふたと出て行った。その後店内はひっくり返したような騒ぎになり、喧騒が室内に響く有様だ。


「魔導金属の件忘れないでね、ありったけのがそっちに行くから」

「任せろ、モノが用意できたらアンタは魔導金属を売りさばくことだけ考えてりゃいいさ」


あくまで自信満々の様子にもしもダメだったらどうしてやろうかとすら考えるが今は商売を完遂することと継続することを主眼に置かなければならない。


「そりゃ助かるわ・・・商品はなんとか今日中にそろえるけど、どこに届けるの?」

「フィゼラー大森林まで・・・と言いたいが可能か?」

「無理ね、せいぜい途中の村までよ」

「じゃあそれで頼む、本格的な道路が出来たら支店を建設して流通経路を確保することにするよ」


それじゃあまた夕方にでもお邪魔すると言い残してゲイズバー商会を二人は後にした。ヒューイは用件を言いそびれたが商会の混雑振りは凄まじくさすがに言い出せるような雰囲気ではなかった。


「ゲイズバー商会もこれで安泰だな」

「ええ、なんてったって羽振りの良い客がついたからね」

「ま、俺だからな」

「皮肉よ、おバカさんね!」


ハッハッハ!と大声で笑うヴォルカンを冷ややかな目で見ながらヒューイはため息をつくのだった。



時間はそれから順調に進んで夕闇の迫る刻限。

大急ぎでかき集められた物資は依頼主であるヴォルカンを乗せて一路フィゼラー大森林付近の村コロンを目指していた。


「さすがに100人分ともなると多いなあ」


馬四頭に引かれた大型の幌馬車が六台に護衛が三十人が付く商隊が進んでいく。


「フィゼラー大森林の中に集落なんてホントにあるのかなぁ」


商隊の一人がそう呟く。今までフィゼラー大森林は長く未開の地とされ、モンスターや一部の亜人などの襲撃から開拓はもちろん定住することなど不可能といっても過言ではなかった。

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