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ゲイズバー商会

翌朝、年長の子供に留守番を任せて一路ゲイズバー商会のあるリットリオの闘技場へと向かう。でかい建物なので待ち合わせには最適である。


「ゲイズバー商会か・・・」

「どうしたのよ?」

「いや、コネがあるのはいいんだがお前が紹介してくれた人って大抵オカマだからさー・・・襲われたりしないよな?」

「そうねー・・・まあ・・・大丈夫よ」


なぜそこで言いよどむ?ホント勘弁してくれ。俺はノーマルなんだよ。

一抹の不安を残しつつ俺は待ち合わせに早く着いたことも手伝ってどこか落ち着かなかった。


「すみませーん!お待たせしました!」


どんなゴリラが来るのか戦々恐々としていたところ聞こえてきたのは軽やかな女性の声だった。


「やっと来たわね、商売人が時間に余裕を持って行動できないのは如何なものかと思うわ」

「すみません・・・」


顔を上げてみるとヒューイに怒られてシュンとしている彼女に見覚えがあった。


「ん?確かリットリオ国境で見た顔だな」

「えっ?知り合いなの?」


服装こそ上品な青を基調としたエプロンに筆記具を挟み、動きやすい服装の如何にも店員といった服装だが好奇心の強そうなちょっと童顔の明るい表情と癖っ毛を後ろで束ねた髪型には覚えがある。


「リタ・・・って言ったかな、久しぶりじゃないか?」

「ああ!あの時のお兄さん!」


初めて出会った時はてっきり情報屋か何かかと思ったが商会の店員らしい。


「世の中って狭いモンねえ、まさか二人が知り合いだったとはねぇ」

「知り合いと言っても国境で会ったきりでちゃんとした機会を持てたのは今回が初めてだよ」


確かにヒューイの言う通り世間は狭いもんだな。そう思いつつも俺たちはこれからの商談のためゲイズバー商会の本店へとリタの案内で向かうことになった。

ゲイズバー商会は色町からほど近い場所にあり、ちょうど孤児院から闘技場を挟んで同じ距離だけ歩いたところにあった。建物は木造と石造りを混ぜたような造りでリタが聞いたところによるとコストと頑丈さを兼ね備えた造りらしく見た目からはわからない職人技が光っているとかなんとか。


「ところでゲイズバー商会の会長はどんな人なんだ?」

「そうですねえ、厳しいけど思いやりがあっていい人ですよ」


そう語るリタの表情は明るい。おそらく本当のことなんだろう。


「今まではマフィアたちが事あるごとに突っかかってきて大変でしたけどこれからは自由に商売できますからきっと忙しくなります!」


そういうと鼻息を荒くしてリタはやる気を漲らせている。おーおー、若いってええのう。


「実は今度集落の面倒を見ることになったからその為の物資を買える拠点が欲しいんだよ、ゲイズバー商会がその役割を担ってくれると嬉しいんだよな」

「そういうことなら会長も喜んで引き受けてくれるとおもいますよ!」


伊達に国を跨いで商売してきたわけじゃありませんから!と頼もしい言葉がかえってくる。

それからも彼女と他愛無い会話を続けながら店内を案内してもらう運びとなった。


「これはすごいなこれだけの規模なら大丈夫だろう」


店内に足を踏み入れて最初に気づいたのが店内を動き回る店員の数と店の広さだった。見た目からも大きな建物であることはわかっていたが建物の大きさを余すことなく使ったであろう業務量は圧巻の一言である。


「リタ!アンタお客さんを待たせて何やってるの!早く会長のところにお通ししなさいな!」

「あ、はぁい!すいません、すぐ連れて行きますので」


職場の先輩だろうか、まるで秘伝書かなにかのような分厚い書類を抱えて算盤らしきものを弾いている。あんな体勢でよくもまああれほど大きな声を出せるもんだ。

しかしながらリタはこの店で可愛がられているのか声をかける人々に叱咤の声はあれどもどこか優しい声が多い。


「皆優しそうな人だな」

「はい!いつもお世話になってます」


それから商品と書類らしき紙束と店員を掻き分けて奥へと進んでいくとやがて会長室と書かれた部屋に行き当たった。


「ここが会長のお部屋ですよ」


リタに促されるまま俺たちはドアを潜り、部屋へと入る。


「あら、いらっしゃい、貴方が噂のマフィア殺しのお兄さんね?私はアラン・ゲイズバーよ」


艶のある声と流行を取り入れた最先端のファッション、そしてルージュとチークをあしらい化粧を施した・・・ゴリラがいた。


(やっぱしゴリラかよ・・・!)


骨格筋率やべえよ!類は友を呼び過ぎだよ!これで貞操の危機をそこはかとなく臭わせているのだから俺としては危険しか感じない。


「あら、そんなにお尻を気にしなくたって大丈夫よ〜、私既婚者と危ない橋を渡る趣味はないから」


ゴリラがウィンクしながら俺にそういう。マジで助かった・・・アウロラに感謝したい。ありがとうアウロラ、お前は俺の女神だ。


「そ、そうか・・・ところで今回の件だが、俺の方では食料品と衣料品及びその原料を仕入れたいと思っている」

「あら、それってフィゼラー大森林の開拓にも関わってる?」

「察しが良くて助かる、アダムスター領の開拓とは別に個人で動いてる場所があってなクルム麦の種や農業に必要な道具なんかも必要になってくるんだ」


そういうとゴリラことアランは少し考えてから幾つかの提案をしてきた。


「商品を定期的に用意することに問題はあまりないけどそうなるとサマルでやってるような行商スタイルじゃ限界があるのよね・・・そこでなんだけどいっそのこと私の店をそこに建てちゃうってのはどーお?」

「悪くない提案だ、現地人を雇用してくれるなら尚良い」


俺がそう返事をするとアランは足を組んで興味ありげな表情を浮かべた。


「大分と持ち出しが多くなるけど貴方から出せる条件は?」

「店舗の建設はこちらでやらせてもらおう、それと魔導金属を割安で提供させてもらうが・・・それでどうだ?」

「どれだけあるのかしら?」

「原材料さえあればいくらでも作れる」

「乗った!魔導金属の輸入と食料品・衣料品とその原料、おまけにクルム麦その他の苗ね!クルム麦の種はちょっと時間がかかるけどそれ以外はすぐにでも用意できるわ」


手を叩いて立ち上がるとアランはすぐさま店員を呼び出し、書類一式を取り出し機械のような精密な文章を書き上げる。


「契約書を認めたわ、確認してちょうだい」

「随分と思い切りがいいな」

「新規のお客様はいつだって大歓迎よ、ヒューイのコネだけならお茶濁すつもりだったけどね」


契約内容は先程の売買の契約で一覧の商品を現金または魔導金属による物納を視野に入れた支払い方法を提示していた。

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