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軍団!

ゴブリン達が軍団を作っているらしい場所へ俺は一足先に踏み込むと翼を広げて空に飛び上がる。

すると森の広い部分が切り開かれており、それを埋め尽くす勢いでゴブリン達が密集し軍団を形作っていた。

通常ゴブリンでも一般人で立ち向かうのは難しい。更にそれが統率能力を持ったゴブリンエリートになると集団で対処する必要が出てくる。

ゴブリン達は道具や武器を扱う術を心得ておりエリート、ジェネラルとランクが上がるにつれて個体の能力も跳ね上がり対処が難しくなる。


だが、それはあくまでも人間が相手をする場合の話。


当然ながらゴブリンやオークなどのモンスターには天敵が少なからず存在する。

それは獣型のモンスターである。人型で道具を使うとは言え能力は人間に毛が生えた程度であるが故に獣型モンスターには大抵手も足もでない。例外があるとすればゴブリン達の装備が良い場合かゴブリンの中に魔法を使う者が居た場合。

今回は恐らく前者で前回の遠征の失敗で投棄された物資や冒険者の遺品を一定数得た為に生存率が上がりランクの高い個体が増えた為だろう。

奇しくも獣型モンスターを容易く狩る人間とゴブリンで三角図に似た物が出来上がっている。


(ま、生物界の頂点たるドラゴンになった俺には関係ない話だがな)


しかし前回の遠征では背中に矢を受け、人間として反撃もままならぬ状態で戦う羽目になったあの時とは状況も戦力も何もかもが違う。親父達が率いるのは偵察が主な軽騎兵と歩兵ではなく重装歩兵と全身鎧に身を包んだ正規兵を束ねる百戦錬磨の騎士達なのだ。

開拓にはできるだけ民間に関わる口実を与えたくて半農の傭兵や騎士も若手を敢えて混ぜていたからゴブリンの奇襲におたつくという失態を見せてしまった。

あの時犠牲になった人々の弔い合戦もかねて奴らに目に物みせてくれよう。

しかし出来ることなら彼等とも和解する事も頭に入れておきたい。なぜなら中には知能が高く人間と共生している個体種もあるからだ。彼等とて人間と同じ文化を学び、言葉を学べば普通に意思の疎通が可能だ。余裕があれば彼等自身も好んで共生関係を結んでくれる。

十年前の奴らは盗賊同然だったがランクが高くなり、知能が高まれば個人の感情も現れ、交渉の余地もでてくる。


『グォオオオオオオオオオ!』


変身して久々のフルサイズになる。小山の様なサイズになると空が随分と近くなったように感じる。しかし奴らは俺の姿を見たところで怯むこともなくまるで幽鬼のように列を成して歩いてくる。軍団というからてっきり人間の兵隊のようにやって来るのかと思えば彼等には普段に見られるようなわずかばかりの知性すら見当たらない。


『我はこの地に齎された災いよ!貴様等に逃れ得ぬ死をくれてやるわ!』


私事で戦うからには此処は一つ悪役になってやろう。そう思い思いつく限りの脅し文句を叫んで見るも誰一人として歩みを止める者は居ない。

完全に狂気のそれだがこれが軍団になるということなのだろうか?災害と同列に語られるそれは生きる為だとかそんな生易しい物ではない。しかし中央に鎮座し、骨で出来た玉座に座って移動するゴブリンキングだけがまるでこの世界を支配したかの様に勝ち誇っているのが見える。


(キングになったゴブリンは他のゴブリンを洗脳に近い力で統率する。こうなってしまった以上この列に加わったゴブリンは元には戻れない。)


ドラゴンの記憶がゴブリン達の悲劇を教えてくれた。突如として現れたキングによって彼等は『個人の意思』を失いキングの手足となることを強制された哀れな奴隷と化した。おそらく彼等の中にあったであろう感情もなにもかも奪われて・・・。

弱肉強食の世界とはいえこの仕打ちは余りにむごい。こうなれば最早敵討ちなど彼岸の彼方、俺に矢を撃った奴も恐らく、そして仲間を斬った奴も既にキングの人形になってしまったのだろうか。

ゴブリン共、神に祈るがいい。俺が今終わらせてやる。


『グラァァァァァァァ!!!』


体内の魔力を練り、鉄をも溶かす灼熱の濁流をイメージしながら渾身の力で口から魔法を放つ。すると俺のイメージ通りに炎は光の濁流となり地面を走ると巨大な地響きと共に・・・爆発した。

千に届くかと思われたゴブリン達はキングもジェネラルもエリートも、そしてヒラのゴブリン達も跡形もなく消し飛びただただ赤化した地面がもうもうと煙を上げるのみであった。


『・・・』


おそらくこれでアダムスター領の発展を妨げるゴブリン達の数も激減するし、キングの発生は個体数と年数が必要なのだという。魔素と呼ばれる彼等の体内にある魔力を定期的に発散していれば凶暴化もしないらしいが・・・。

足音が絶えた空間に風が吹き抜ける。けれども俺の心にはどこか苦い物がこみ上げてくるのだった。


『・・・これでよかったのか?』


思わずそう呟いた俺の言葉に返ってくる言葉もないかとそう思っていた。


「おおドラゴン様じゃ・・・」


か細く聞こえてきた言葉に俺は思わず声の方を向く。すると杖を突いた老人のようなゴブリンと子供達が俺を見上げている。列には加わっては居なかったのだろうが彼等は何処にいたのだろう?


『お前達は?』

「ははぁ・・・私めは三十年以上前からこの森で暮らしてまいりました・・・名前はカロッゾと申しますじゃ」


子供達を十人ばかり連れて歩く老人のカロッゾからはそれなりに強い魔力が感じられる。恐らく彼がキング達の魔の手から子供達を守ったのだろう。


『その子供達は?』

「桎梏の王によって両親を奪われた子達です・・・ワシがもう少し若ければもっと助けられたのですが・・・」

『そう自分を責めるな、俺とてそれは同じことよ・・・』


10年前にもっと上手くやっていればそもそもキング自体発生しなかったかもしれない。そう考えるといたたまれなくなる。


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