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商売しよう!

決意したからには行動あるのみ。俺はコボルト達から大八車を借り受けると木材にドーピング(龍の加護)を掛けて積み込み、一度アダムスター領まで移動する。

ドラゴンに変身して近場まで移動した後に途中の町でコネと金を使い、大八車を引く馬を借りて一路故郷を目指した。


「お、見えてきたな」


懐かしの我が故郷。今回どれくらいの利益が見込めるか・・・。

そう思いながらロバを操っていると村落の一人が驚いた様子で駆け寄ってきた。

ここはアダムスター領の北端にある村、クロカンス村。木材の確保の為に開拓された村の一つで樵や材木商などが集まり、日夜木材の開拓や加工に従事している。


「若様!」

「よう、景気はどうだい?」

「へえ、領主様のお陰で随分と楽させてもらってますよ」


適当な世間話を交えつつ俺は本題を切り出すことにする。


「最近の木材の値段はどうだ?」

「木材ですか?そうですね、前回の遠征の結果で木材に適した木がある事は解ってるんですがモンスターが多いこともわかってしまったので二の足を踏んでる状態ですね。供給が追いつかないので木材の値段は相変わらず高いです」


俺が行方不明になって10年と帰ってきてから数ヶ月だが崩れた橋の復旧やらで時間と経費が掛かってしまいなかなか次発の調査隊も成果を挙げられずにいるようだ。


「それに何より若様が居ないと皆尻込みしちゃってて・・・」

「俺がか?」


そういや当時も俺が旗振り役になって先頭切ってたんだっけか。開拓なんてもんにはそれなりに利益かロマンが無ければならない。

現在では農地に適した土地か木材を手に入れた者が高給取りになれる開拓地の前線基地な訳だからな。アメリカのゴールドラッシュみたいなもんだ。

そして国境では兵士が少なからず集まり、日夜国境を護っているので国境と開拓地でそれぞれ男達が集まっているのだ。俺はそんな男達に夢と金をそれぞれ与え、付近の村民が荒くれ者の被害を被らないように各地を歩いていたのだ。


「10年一昔・・・ってか、懐かしいな」

「ええ、領主様も若様の事は評価してらっしゃったですからね」

「そうさな・・・ところでこの木材を卸したいんだがいい商人はここら辺にいるか?」


そういうと俺の荷台の商品の話となって待ってましたとばかりに何人かやってくる。


「その木材は我が商会が!」

「いや!このルント商会が買います!」

「いえいえいえ!こちらに!」


よっぽど品薄なのかそれともドーピングが効いてるのを見抜いてるヤツがいるのかはわからないが食いつき方がヤバイ。皆の目が若干血走ってるんだもんな。


「よし、じゃあこの場で競りに掛けようじゃないか。早い者勝ちだ!この木材にいくらつける!」


大声で叫ぶと目ざとい商人に続いて木工や大工などがぞろぞろと集まってきた。


「フィゼラー大森林から伐採してきた木材だ!すぐにでも加工できるように処理もすんでるぞ!さぁさぁ!金貨一枚からスタートだ!」


そう言いながら木材一つをサンプルとして集まった群集に渡す。


「こ、これ魔力が付与されてる!か、買うぞ!金貨一枚と銀貨十枚!」


ちなみにサマル王国では100で貨幣の種類を変えていく。

賎貨<鉄貨幣<銅貨<銀貨<金貨の順番である。そして十枚分の単位として大貨幣があり、一部では紙幣に寄る取引もあるとかなんとか。


「魔力付与だって?!くれ!金貨二枚だ!」


魔力が木材に付与されてると解った瞬間買い手の目の色が変わった。悔しげな商人達がいるから解ってたヤツがいるようだ。


「金貨三枚!」

「金貨三枚と銀貨五十!」

「金貨四枚!」


値段が面白いくらいに釣りあがっていく。ちなみに一般的な木材の相場はとっくに越えている。大八車いっぱいの木材でも金貨二枚もあればお釣りが出るだろう。しかし此処で魔力を付与したという事実が生きてくる。

魔力を付与した木材ならば通常の木材よりも頑丈であり、魔術との親和性が高まりミスリルなどの元より伝導性の高いものには及ばない物の道具の素材に使えばそれだけで品質を高めることが出来、魔力を使用する魔道具の電池的な役割も果たしてくれる。そしてなにより一度魔力を取り込んだ道具は再び同程度の魔力を壊れるまで蓄えることが出来るようになるのだ。


「金貨八枚だす!」

「金貨八枚でたぞ!他はないか?」


流石にこれ以上やると利益が見込めなくなるだろう。よほど高値で売れる自信があるか、付加価値を幾らでもつけられる職人を抱える商店以外無理だろう。

予想通り皆が黙り込んで発言者を探している。


「なら金貨八枚の御仁は此処に来てくれ!」


落札者が出たので呼びかけると出てきたのは可愛らしいお嬢さんだった。


「お嬢さんが落札者だね?金貨を改めさせてもらうがいいか?」


俺がそう尋ねると彼女は黙って此方に麻袋を手渡してきた。中を覗いて掌に出して見るとひーふー・・・ん?九枚あるぞ?


「おつりがあるな、一枚多いぞ」

「多くありませんわ、ロバと荷車の代金ですの」

「あー、なるほど・・・だが俺のは借り物でな、こっちは売れないんだ」


話しつつ素性を探って見ると結構裕福な育ちだろうということはわかる。喋り方もそうだが着ている服は王都で売られている高級品らしい。汚れも見当たらない新品の服を着て外を歩いているなんて馬鹿か金持ちくらいだ。


「悪いが金貨一枚はお返しする。馬車は一緒に探してやるから勘弁な」

「むー・・・」


不満そうだが納得して貰うしかない。子供からボッタくったなんて思われたらまさしく『コボルトから巻き上げる』だ。まかり間違ってもそんなことできねえ。そもそも金貨一枚あれば御者付きで荷車と輓獣が買えるだろうしな。


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