マフィア撲滅計画!
新年明けましておめでとうございます。更新が遅れましたがこれからも皆様に楽しんでいただけるよう精進してまいります。
「さてさて、ここでお前さんにとっておきのニュースだ。心して聞いておくれよ」
青年が呆れ顔を消し、笑顔を浮かべて言う。笑顔だけは年若く無邪気だが内面はどうだかわからない。むしろこの無邪気な笑顔が怖くすらある。
「にゅーす?」
「ああ、お前さんの頭痛の種を取り除いてやるからそれに協力しろ。もちろんその対価も些細なモンさ」
「つまり・・・?」
「アンタの弱みを握ってるマフィアを潰すのさ。その時にダークエルフをマフィア駆逐に貢献した正義の集団として扱うんだ、知ってるだろ?あの組織を」
話を聞いて私は思わず息を呑んだ。闇の組織として御用主を裏切るという事は死に等しい。これからこの青年は私を利用してダークエルフ達の生活の糧を奪いに掛かるのだ。命が惜しくないのだろうか?私にはとてもできることではない。
「正気か?もしもそのようなことが起これば君はとても無事ではいられんぞ!」
「俺の無事なんか気にすんなよ、彼女達の事は当てがあるんだからな」
彼はそう言うがとても心配だ。この屋敷に当然のように侵入できていること、最近は鉄火場に立って居らず鈍り気味だったとはいえ私が気配を察知できないことなどから相当な手練であることは容易に想像できるが・・・。
もし彼が言っているダークエルフが私の知る暗殺ギルドならばこれは無謀といって良いだろう。彼はそれをわかっているのだろうか?
「その・・・君は平気なのか?マフィアを敵に回し、そしてその・・・ダークエルフ達の暗殺ギルドを敵に回して・・・」
「ああ、むしろこれは俺にとって譲れないものだ。マフィア達が若い子を食い物にしてるのも許せないし、ダークエルフ達も・・・まあ、他人事じゃないんだなこれが」
だから仕方ないんだ、と彼は事も無げに言う。どうしてこんなに軽く済ませることができるのだろう?彼女達の暗殺ギルドは全容こそ明らかになっていないが間違いなく軍隊クラスの実力を持っているはずだ。それにマフィアの連中だって戦力の質こそ違えどそれなりに影響力のある勢力のはず。その恨みと敵意を一身に受けようとしている彼は本当に何者なのだ?
「さて、こちらの事情は粗方話したぞ。どうするね、騎士団長・・・家族の危険に怯えつつ小悪党のお先棒を担ぎ続けるのか、今一度正義の使徒となって肩書きと家族に恥じない人物となるか選びなよ」
「・・・信用していいのか?」
「ああ、マフィアを潰すのは俺の生活の安全にも繋がるからな。逆にお前さんまで敵に回しちゃ俺の肩身が狭くなるだろ」
それもそうだ。彼はマフィアに命を狙われている。互いに共通の敵を抱えている状況である。違法な奴隷売買などが事実とするならどちらに味方すべきかは火を見るより明らかである。
「わかった、君を信用して協力するよ。具体的に私はどうすればいい?」
「俺が近い内に奴等の屋敷でデカイ花火を上げるからそれに乗じて屋敷に突入しろ。その後で協力者としてダークエルフを大々的に宣伝する、以上だ」
後はなるだけ関係者を拘束することかな。と彼は言う。もはや躊躇うまい。私が大きく頷くと彼は笑顔を見せ、肩を叩いて喜んでみせると傍に控えていたダークエルフらしい尖った耳の女性と共に窓から飛び出していった。
「もう腹を括るしかないな・・・元を質せば身から出た錆、此処で決着をつけるとしよう」
月明かりに照らされた彼の顔は精悍で若さが溢れる顔立ちだったが対照的に内面はひどく成熟したような印象。けっして悪い印象を感じては居なかったが見た目とのギャップにどこか不気味な感覚さえした。言葉遣いさえ若者のそれだったが中身はまるで老人だ。
しかし彼はこの状況を打開するために必要な変化をもたらしてくれる。不確定かつ、下手をするとかなり危険な賭けだがそれでも久しぶりの良い報せに私は少しだけ安堵するのだった。
「さてさて、俺は夜が明ける前にフィゼラー大森林に戻るか。それじゃアウロラ、準備は怠るなよ?報告は夜に戻ってきたときにまた聞くから」
「了解しました」
騎士団長の家を抜け出し、屋根を伝って再び街外れまで移動すると俺はアウロラに準備の続きを任せ再びフィゼラー大森林へと取って返す。
流石に夜が白みかけていたので小型化して飛行し、途中から木々を人間に戻ってから飛び移って移動することでどうにか現場まで移動できた。
「ふぁ・・・意外とハードだなこりゃ」
当然といえば当然だが一睡もしていないのはヤバイのでアンブッシュの後、一時間だけ仮眠を取ると手ごろな獣を仕留めて捕まえた彼女達の元へと戻ることにした。俺の目を盗んで連絡を取る事も考慮に入れて俺が森を出ていることは悟られないようにしなければならないからだ。まさに若さに任せた体力勝負の戦いと言えよう。頭の切れる奴はこういう時楽な手段を頭を働かせる代わりに手に入れる。俺にはそんな器用なことはできないが・・・さて、どうなるか。
「おうい、朝飯だぞ」
「はーい・・・」
そう声を掛けると中から少しばかり疲れたような返事が返ってくる。縛られたままで眠るというのはやっぱり堪えるようだ。戦闘の疲れもこの様子では抜けきってはいないだろうしな。
「肉しかないが我慢してくれ、かくれんぼが下手でな」
「かくれんぼですか?」
剣の使い手が縛られたままで焼いただけの肉を器用に食べる。剣を折られたときの狼狽ぶりからちょっと不安になっていたがコイツが一番の使い手かつこの組のリーダーで間違いない。一番元気で、一番器用で、一番肝が据わっている。
他の二人はモタモタしているのでだめだな。同じ生活を続けたらものの数日でへばるだろう。
「お前の名前は?」
「アルカって言います」
「ほう、素直に話すんだな?」
面白い奴だ。肉を咀嚼しながら彼女はギラリとした視線を向けると笑顔で話を続ける。
「死人は喋りませんから、負けても仕留めれば問題なしです」
「ほほう、縛られたままでそういう口が利けるのか」
「きっとチャンスがありますよ、だって貴方は私にチャンスを与えたくって仕方ないって顔してますから」
これには俺も思わず破顔してしまう。爆笑といって差し支えないくらい大笑いしてしまった。この小娘はなんということをいうのだろうか。
「なるほどなるほど・・・!俺がまたお前さんと戦いたいと思うと!」
「むー、馬鹿にしてますね?こう見えて私は正攻法の暗殺しかしてこなかったんですから!武芸者の始末もたくさんやってきたんです!その中で貴方みたいな人はみーんな私と正々堂々と決着をつけようとしました!」
正攻法の暗殺ってなんだ?あれか、人気の無いところで正面から襲撃するのか?
「面白いこというな、暗殺に正攻法もクソもあるのか?」
「毒なし、人質なし、不意打ちなし、真昼間からとくれば正攻法でしょう!」
「そうなると暗殺なのか?襲撃じゃないのか」
わはははは!こいつ!面白い奴だ。これはいいぞ、なんとなくだが俺と同じ感じがする。これは先に言っといたほうがいいな。
「なあ、アルカ。お前は俺の弟子になる気はないか?」
「は?」
何言ってんだこいつみたいな目でこっちを見るんじゃない。俺は真面目に聞いてるってのに。
「だから、もしもこの戦いに区切りがついたら暗殺なんて小さい事に拘らず武芸者として大成するつもりはないか?」
「なに言って・・・貴方は暗殺ギルドから狙われてるんですよ!?」
「だからどうした!そんなことよりどうだ?返事が聞きたいぞ」
ポカーンとした様子のアルカは少し考える素振りをした後に彼女は頭を振って意識を取り戻すと先ほどよりも良い笑顔で答えた。
「賭けですか、いいですよ!乗ります!」
よっしゃ、弟子一号ゲットだぜ。




