ダークエルフと仲良くなろう!9
次に俺が用意するアイテム、これはあんまりやりたくないが必要になってくるので済ませておく。
「ちょっと汚いが我慢してくれよ。」
「えっ?」
そういうと俺は喉の奥に引っかかっているものを吐き出すべくまるで痰を吐くように咳やあの独特な声を上げ続ける。テルミットが露骨に嫌そうな顔をしているが俺にとってはそれどころではない。これは定期的に吐き出さないと辛いのだ。
「カッ・・・ゴァッ!」
ふぐぅおおおおおお!・・・ぺっ! ゴロン。
「きゃあっ!汚い!・・・ってこれは!」
勢い余ってテルミットの机に吐き出してしまったがこれこそマフィア撲滅&マフィアからダークエルフ達の暗殺者稼業を廃業に追い込むためのナイスアイテムになるわけだ。
思いっきり唾でべとべとだが吐き出したものは透き通ったオレンジ色の石。俺の中での通称はタン石だが『龍の宝玉』として王様に献上しても恥ずかしくないシロモノなのだそうだ。純粋に宝石としても価値があるが魔道具の材料にもなるとあって需要は天井知らずに高く、値段もかなり高い。
実のところ言うとこれは魔力の塊で極稀だが魔物や人間にもほんの一欠けら作られることがあるらしい。最近は火の魔法ばかり使っていたのでオレンジ色、つまりは火の属性になった。
「ここここここれは、伝説のアイテムクラス・・・!」
よく吐き出せたものだと思うほどでかいタン石はソフトポールクラスの大きさになっている。もはや人外のなせる業といえるだろう。
ドラゴンマニアのテルミットは吐き出した瞬間の渋い顔も何処へ行ったのやらベトベトのタン石を眺めてうっとりしている。それはまるで宝石に目を輝かせる女性のそれであったがハアハアと息が荒いのは頂けない。どん引きである。
造作も無く造れる側である自分にありがたみが無いのは仕方ないのだろうが自分のまさしく痰のように定期的に湧き出るそれを有り難がっている姿は見ていて気分の宜しいモノではない。
「これはこれ一個で一生遊んで暮らせる額が・・・。」
にやにやしているテルミットを俺は知らず知らず遠めに見ていた。なにやら俺が吐いたタン石についていろいろと語ってくれる。
しかし自分が人間の頃は宝石にはとんと興味が無く、茶道や華道も同様で建築には少しばかり造詣があったものの健康や食事程度にしか興味がわかなかったのだから宝石をどうこうと価値を説かれても知らないんだがな。
「とりあえず言っとくがこれはマフィア共を粛清するためのものだからな?」
「えっ?」
えっ、じゃないよ。誰もあげるなんていってないだろ。どうしてこうセコいところがあるんだコイツは。いやだねー、苦労しすぎるってのは。
金やモノに執着しすぎるといいことは無い。無さ過ぎると俺のように老いてから破滅する羽目になるがな。
俺は名残惜しそうに見つめるテルミットを尻目に金属製の箱に納められた龍の癇癪玉を拾い上げると二つをくっつけた。するとそれはまるで粘土のようにくっつき、やがて鈍い輝きを放つメタリックカラーの宝玉が出来上がる。
「これに龍の癇癪玉を混ぜるとだな・・・ほれ。」
「これはどういうことですか・・・?」
「貴重かつ試してもいいこと無いから試さなかったかもしれないが宝玉と癇癪玉はどちらも魔力の塊だから容易く混ざるんだ。簡単に言うとこれは衝撃で爆発しにくくなったが爆発する力が強くなった状態だ。」
剥き出しのニトログリセリンから爆薬に変わった感じだろうか。衝撃に強くなった代わりに同系統の魔法を浴びると爆発するようになってしまったモノだ。
しかし見た目には龍の宝玉と大して変わらないので業突く張りを騙すに絶好のアイテムなのだ。
「そうですか・・・しかしこれをどうやってマフィアに?」
「そこでお前さんの出番だろう、マフィアと癒着してる連中を割り出せ。」
「えっ、でも、その・・・私達にも仕事っていうか経費は?」
「俺からガメた参加費と爪があるだろ。」
そういうとテルミットはあっ、という感じの顔をした。残念だったな。
相手に後ろめたいことをするってのは相手に借りを作るのと同義だぜ。しかも義理と違ってこういった借りは返すのが義務だ。
もちろん恥も外聞も無いような奴ならこれに当てはまらないが仮にも立場ある彼女には断れないだろうが。
「売れば数ヶ月は従業員養えるだけの収入になるだろう。足りないとは言わせん」
しょんぼりしているテルミット、マニアの彼女がそれを売ることは出来ないのだろうが・・・そうなるとポケットマネーから出すのだろうか。
「まあ、そう落ち込むな。次に出来たらタン・・・龍の宝玉はお前にやるから」
「ホントですか?!」
一変して元気になるテルミットに若干引きつつも仕事の内容を告げる。彼女達が異変を察知して取って返すまでにもう一つ準備を済ませておこう。




