訓練場で汗をながそう!
計画が実行に移されていく。それはこの街からマフィアを一掃し、裏組織に関わらない娼館やクラブを経営すること。
経営したことこそないが客として行ったことはいくらでもある。接客のスキルを磨けば一発逆転も夢じゃない世界に本当の意味で皆が夢を見れる場所にしたい。
体が売れなくなっても大丈夫なようにしておけばそれだけで安心して働ける女性も増えるだろう。
多方面で利益と稼ぎ口を持っておけばそれだけ夢と福利厚生の充実に寄与できるわけだ。
そのためにはまずは従業員を俺がしばらく養うことになるが質の良い女性を囲うことができればサービスの質も上がるし、稼げるとなれば腕利きも自然と集まるだろう。
「さて、そのためには先立つものを手に入れねばだがまあ、それよりも先にコネだな。」
次に俺が訪れたのは騎士の訓練場。ここでは日夜訓練を重ねる騎士や騎士見習いが鍛錬する場所で、一般人も利用が可能な場所だ。
鍛錬する騎士たちには爵位を持つ貴族も多く関係を持っても悪いようにはならないだろう。
ぶっちゃけここで俺は騎士達とコネを作っておこうと思うワケだ。
そう思い、訓練場を訪れたのだが・・・。
「どうして皆俺を見るんだ?」
訓練場の門を潜った瞬間から注目が俺に集まっている。何人かは信じられないといった様子で此方を見ている。
「おい、なんかようか?」
「え、あ、いや・・・。」
一人の騎士に話しかけてみるもつれない返事ばかりでどうして俺が注目を浴びているのかわからん。仕方ないので久方ぶりに剣の素振りでもするか。
「ふっ・・・なかなか良い物を使ってるな。」
大剣を抜いて軽く振るってみせる。 柄の革は小まめに張り替えられているのか手に馴染む。大剣は筋力が要求されるがその分威力は大きい。次に手に取ったのは槍。
こちらは技術を要求されるが三倍段といわれるほど刀とやりあったとき有利といわれる。
またこの世界では馬上槍もあるので歩兵用の槍では鍛錬にも限界があるだろうが・・・。
ブン、と槍を振るい、突き、払い、打ち下ろしを交互にこなしていくと視線がさらに集まってくる。
「あの、少しよろしいか?」
「ああ、かまわないが。」
居心地の悪さに辟易しながらも体を動かしていると見かねて一人の男性が話しかけてくる。年齢は20歳前後の若い男性で身長は高くないが鍛えこまれた体格をしている。
「名のある武芸者とお見受けするが相違ないか?」
「どうだろうな、腕っ節には自信はあるがね。」
「よろしければ鍛錬にお付き合い願いたいのだが。」
「いいとも、何でやるね?」
そう言うと男性は剣を取った。俺もそれに倣って剣を取る。
「少しばかり下品な戦い方かもしれないがご容赦願いたい。」
「大丈夫です、こちらから誘ったのですから。」
それなりに場数を踏んでいるのだろう自信の程が伺える。さていっちょ揉んでやるか。
「それでは制限時間をこの砂時計で計りますのでそれまでに参ったといわせるか」
「殴り倒せば勝ちということにしましょうか。」
俺と男性は互いに頷いて簡単にルールを決めると互いに距離をとった。
「さて、こっちはいつでもいいぞ。」
「・・・構えないのですか?」
「よーい、ドンで闘うことに慣れたら兵士としては失格だろうが。」
常在戦場の心構えが出来ずして武士といえようか。こればかりはどの世界の戦士にも言えることだろうが・・・。
「さあ、かかってこい青二才。」
「それでは・・・せえりゃっ!」
「遅い。」
「ぐっ」
馬鹿正直に正面から掛かってくるので素手で剣を受け流し、がら空きの腹部に蹴りを入れる。風を感じるくらいは剣圧もあるが馬鹿正直すぎる。
しかも筋力が足りてないな、体格に比べて使う剣がでかすぎる。
「剣は振るうものであって振られるものではないぞ。」
「!・・・まだまだぁ!」
思うところがあるのか彼は大剣を握り締めて再び打ち込んできた。先ほどよりも鋭いがまだまだ正直すぎる。真っ向からの打ち込みは受けても避けても気分が良い、情熱的な感じだ。
「お前さんは大剣よりも細身の長剣のほうがいいと思うが?」
「心配は無用です、それにいつも得意分野で闘えるとは限りませんので!」
鋭い突きが言葉の終わりに放たれる。ほうほう、これは素手じゃちょいと厳しいか俺は逆手にもった剣を差し込んで突きを流すとゼロ距離に近い超接近状態に持ち込む。
「こうなったらどうするね?」
「っ!」
完全に虚を突かれたって顔してるな。これじゃあ駄目だ、ちょいと痛い目に遭ってもらおう。まず腹部に膝、次にのどの手刀の順で叩き込む。
「ぐうっ・・・ゲホゴホッ!」
息を吐き出させたところで呼吸を阻害する攻撃をすると大抵はそれだけで抵抗できなくなる必勝パターンといって良い。
「おうい、まだやれるか?」
そう尋ねると未だに鋭い視線を向けてくれる。闘志十分だな、そうなりゃ続行するのが礼儀だ。
「攻撃しまくるから、どうにかして凌いでみなよ。」
地面についた手を払って転ばせ、横腹を蹴り上げる。咳き込みながら転がると彼は転がった勢いを利用して立ち上がった。
「ゴホ・・・確かに、上品では、ゴホッ!有りませんね!」
「実戦主義でな、お陰で皆に嫌がられる。」
実際、ヴァルターとマルレーンにも同様の訓練を施そうとしたがマリエルにこっぴどく叱られたのを良く憶えている。手加減してるっていっても聞いてくれないんだもんな。
私の名前はベルダー・ノボトニー。
ノボトニー家の次男であり、武勇の誉れ高い騎士の家系である。兄は当主としての務めを果たし、私も次男として兄を支えるべく鍛錬に励んでいた。
しかしそんな私が唯一納得がいかないのはノボトニー家の訓示。
『男子は大剣を使いこなしてこそ』
この一言が私をいらだたせた。家中でも鍛錬をこなしては見るものの大剣が使えないという理由だけで私は何時までも半人前扱いされる。これが長剣や槍であれば、と考えたのは一度や二度ではない。私は父や兄のように大剣を振り回すだけの筋力がつかないのだ。鍛錬を重ねても重ねてもそれは変わらない。
やがて私は親族から逃げるように解放された訓練場で一人素振りをするのが日課になっていた。
そんな私の前に現われたのが一人の男。歴戦の勇士を思わせるような余裕と無駄なく鍛えこまれた肉体は鍛錬の必要性を疑う身のこなしを伴って注目を集めている。剣をとってはまるで教科書を開いたかのような一振りをみせ、槍を取っては同様にかくあるべしという振りを見せる。
皆一様に機会をうかがっている様子がありありとわかる。彼らとて士官先かあるいはその近道となる武芸者を探しているのだ。名のある武芸者ならば斡旋できる士官先の一つや二つあるだろうし、それがなくとも強者との鍛錬は得難い経験になる。しかし皆は互いに牽制し声を掛けられずに居るようだ。 チャンスは少ない、少なくとも皆が尻ごみしている今しかないと思い私は彼に声を掛けた。
「あの、少しよろしいか?」
「ああ、かまわないが。」
素っ気無い返事に掛ける言葉を間違えたかと少し不安になるが剣舞を続ける彼に私は勇気を振り絞って言葉を続ける。
「名のある武芸者とお見受けするが相違ないか?」
「どうだろうな、腕っ節には自信はあるがね。」
彼はそう嘯いて見せたが私は彼の瞳が好戦的な輝きを帯びたのを見逃さない。
「よろしければ鍛錬にお付き合い願いたいのだが。」
「いいとも、何でやるね?」
率直に尋ねると彼は二つ返事で答え、籠に乱雑に立てられた武器に目をやる。
挑発とも取れる発言だが怒る気もおきない。
あれだけの剣舞、槍舞を見せられてはどれをとっても一流なのであろうことは容易に想像できる。
私はできるだけ心を冷静にしつつ大剣を取る。使えないのに手には馴染む不思議な感覚。剣を構えて彼と対峙すると一層彼の雰囲気に呑まれそうになる。
リラックスした様子で剣を持っている姿に闘志もなにもないがそれでもそれが偽装に近いものであることはすぐにわかった。堂にいった構えともいうべき姿勢をとりながら彼は上品な戦いは出来ないとそう言った。上品とは一体何なのか、それを理解したのは彼の蹴りが横腹を捉えたときだった。
「うげっ・・・ごほっ!」
「剣は振るうものであって振られるものではないぞ。」
彼が心配そうとも取れるほど余裕の口ぶりで言う。まったく耳が痛い。しかし言われてハイそうですかと辞めるわけには行かないのだ。
「お前さんは大剣よりも細身の長剣のほうがいいと思うが?」
「心配は無用です、それにいつも得意分野で闘えるとは限りませんので!」
きっちりと自分に何が向いているかまで観察されてしまっている、鍛錬といったがこれでは鍛錬しているのは私だけで彼は背伸びするひな鳥を見る気持ちなのだろう。最後の切り札とも言うべき必殺の突き。大剣のリーチを生かした一撃。
しかしその一撃は彼に容易く流される。いくら刃引きされているとはいえ迫り来る大剣を逆手に持ち替えた大剣で受け流すなど並の技量では到底出来ない芸当だ。
「こうなったらどうするね?」
芸当に目を奪われた瞬間、私の腹部と喉に強い衝撃が走った。
「ウゲッ・・・ゲホゴホ!」
まるで首を絞められたような感覚に意識が飛びそうになる。まるで息を吐ききってから水の中に潜ったような感覚に吐き気すら催す。しかし、まだ辞めたくない!
「おうい、まだやれるか?」
出ない声の変わりに睨み返すと容赦のないけりが横腹を捕らえる。
ホントに容赦ないな。しかし酸欠で眩んでいた頭が先ほどの一撃ですっきりした。
「ゴホ・・・確かに、上品では、ゴホッ!有りませんね!」
「実戦主義でな、お陰で皆に嫌がられる。」
再び大剣を持ち直したところで彼は名残惜しそうに答える。
「悪いが時間切れだな。」
私が彼と同じところに視線を向けたときちょうど砂時計が制限時間を告げるところだった。訓練場は連続しての模擬戦を禁じている。公共の施設として運営されているからだがそれがひどく歯がゆく感じた。
「久々に骨のあるヤツと闘えて満足だよ次は槍か長剣でやろう。」
大剣を籠に戻して彼は友人にでもするように笑顔でそう言ってくれた。
「ありがとうございます。私はベルダー。ベルダー・ノボトニーといいます。」
「ああ、俺はヴォルカン・アダムスタだ。街で見かけたら気軽に声を掛けてくれよ。」
彼、ヴォルカンはそう言うと此方に気負うことなくそれでいて威圧することもなく気さくに話かけてくれる。あれだけの実力を持ちながら驕った様子が全くない好感の持てる青年だった。




