舞い降りたのは?!
互いの意地も限界に達し、最後の一撃をと渾身の力を込めて拳を振りかぶった。
「なんか聞こえないか?」
そんな時、輪からあぶれたメンバーがどこからか聞こえる音に耳を澄ませた。風を切るような音。そして羽ばたく音。
「鳥獣人の部隊か?」
「バカな、彼らの羽音はそこまで大きくない」
あれこれと話をしている彼らの目に映ったものとは・・・。
「あれは!国王様だ!」
「なにっ!」
フィゼラーを突っ切って飛来するヴォルカンの姿であった。
「国王様バンザーイ!!」
「バンザーイ!」
警察隊の中で輪の中に居ない者は例外なく万歳コール。遠巻きに見守っていた獣人達も気づいた者から順番にお祈りを始めた。
『うぉぉぉ・・・やっぱりこうなったか・・・』
俺はドラゴンの姿で上空を飛行しながら内心で頭を抱えた。間に合わせるために無理をした結果だが・・・くそ、身内はともかくザンナルの騎士達までガン見じゃねえか・・・。
「す、すみません・・・」
『いいさ、それより首尾よく済ませてくれ』
「はい・・・」
『後な』
「はい?」
俺は今回の騒動の原因たる『彼女』にできるだけ優しく話しかける。
『お前の帰る場所はお前が決めればいい、それに・・・』
「それに?」
『故郷がいくつかあるっていうのは、別におかしなことじゃない。楽に考えろ』
彼女は俺の言葉に少し驚いた様子だったが、やがて決心を固めたように笑みを浮かべ、俺の手から飛び降りた。
丁度、彼らの間に降り立つ感じだろうか。
「誰だ!・・・ひ、姫様!??」
「誰・・・ラエティティ!?」
それから少しして上空を旋回する俺の耳に狼狽する彼らの声が聞こえる。木札の音が此処まで拾えるのはすごいな、セボの改良の結果か。しかし・・・彼女がねえ・・・。話は二日前に遡る。
「獣人とのハーフってどれくらいいるんだ?」
「具体的に言うと・・・数え切れません」
「なんですと?」
扶桑国で情報収集に勤しむ中で先んじて調べていたアウロラからとんでもない事実が。
「百人かそこらかと考えていたのが浅はかでした・・・」
「そんなにいるのか・・・ちゃんと対象は絞って探したよな?」
「ええ、そのはずなんですが・・・」
彼女はそう言うと束になった書類の山を俺に渡してくれた。そういえばダークエルフって純血がほとんどいないんだっけか。混血しまくって子孫を残してきたんだもんな。
「獣人の血が混じってる、その中で貴人の血が混じってるのは?」
「それだとこれくらいになります」
そう言うとアウロラは書類の束の三分の二ほどを取り除いた。それでも多いぞこれ。しかし貴族レベルというか、集落の族長とかそんな感じだが・・・獣人はシャーマンも多いから一概に貴賤を語れないんだよなぁ・・・。
「手当たり次第に呼んで調べるしかないか・・・」
「これだけでも三桁は居ますが・・・」
「知るか!ザンナルではもう揉め事が現在進行形なんだ、やらなきゃならん」
獣人にはシャーマンの家系が権力者だったりするし、一番の戦士がーなんてのもある。独特な権力体制が敷かれている場合が多いが彼らの宗教に関しては統一されている、当然ながらドラゴンに関する宗教だ。教義に関しては実物を崇めるという点で一致していれば他所は他所、ウチはウチというけっこう寛容な考えだ。なので彼らには異なる獣人同士でも交流が普通にあったりする。
(ドラペディアにはそう記されているのだが・・・そうなると調べると色々分かりそうだな)
そう思い書類の束を捲りつつドラペディアを紐解いていく。
(ふむ・・・へえ・・・)
エルフ・ダークエルフの血の濃さはまさしく神の作りたもうた神秘と言って差し支えない濃さであり時折髪色に現れたりといった程度でしか他種族の血を受け付けない強靭なものだ。しかも女人が殆どであり、男子はほとんど生まれない。しかし、そんな中でも例外に近い存在もいる。
(狼の血筋、白狼の獣人はその中で例外であり・・・月夜に血を覚醒させる事がある)
白狼、狼とは数多の神話や歴史でも特別な存在とされることが多いが・・・この世界でも狼、というか白狼は特別な存在のようだ。月夜に覚醒するって・・・どういうことだろうか。
(狼男みたいに狼になるとかか?ダークエルフの血を上回るってのもすさまじいが・・・)
お決まりだが満月に変化することが多いらしく、その際にだけ獣人の血が覚醒し、見た目も獣人のそれになるのだとか。
(ふーむ、しかしそうなると満月まで調べようが・・・いやまてよ)
俺やアウロラは当然だがそんな事情知るわけない。しかし生まれた当人はそれを知ってるはずだよな・・・。




