男だったら!
疲労困憊の騎士達に朗報が届いたのはそれからさらに数日が経ったころだった。
「も、もう駄目だ・・・次の夜襲は凌ぎきれない」
何度目の襲撃を撃退したのだろうか。彼らは皆疲労困憊で、立ち上がることすらままならない。
しかし無情にも日は傾きかけており、もう少しで夜襲をかけてくる時間帯が迫っていた。
「次に壁を登ってきたら奴等に俺のゲロでもお見舞いしてやる・・・」
「そ、そりゃいい・・・もうゴミもなにもないぞ」
獣人が嫌がる悪臭を放つ生活ゴミから生ゴミに至るまで全て投げつくし、最低限の物資も使い果たしつつあった。
「ああ・・・せめて酒でも飲みてえ」
そう思いながら天を仰いだ騎士の一人が夕焼けに染まる空を駆ける存在を見つける。
「鳥だったら俺たちも逃げられるのになぁ」
「ははは、そうだな・・・」
「悩みも無さそうだしな・・・」
執念で塀の下を監視しながら騎士は呟く。そんな彼に空を仰ぐ騎士が目を擦った。
「幻覚が見えてきたぜ・・・」
「何が見えるんだ?」
「鳥が食い物を下げた籠を担いで飛んできた」
「そりゃいいな、酒をリクエストしてくれ」
「申し訳ありませんが軍規ですので、酒精はちょっと・・・」
返事が帰ってきたので監視役の騎士も思わず振り返った。そんな馬鹿なと、思いつつ。
「扶桑国より救援に参りました、救援といっても我々が持ち寄ったのは物資ばかりですが」
「救援・・・救援だ!」
編隊を組んで飛来する鳥の群れと思っていたのは扶桑国から派遣された鳥人族の一団だった。彼らは少数の民族ではあったが長距離移動が可能という強みを活かして戦地を飛び越え、フィゼラー戦役の終盤から扶桑国に帰順し始めたメンバーだった。
彼らは体格に左右されるもののそれなりの量を長距離、かつ安全に運搬できるということでヴォルカンに緊急時に物資や情報伝達を行う役割を任されていた。
「助かった・・・もうダメかと」
「楽観ばかりもしていられません、少なくとも今夜は乗りきって頂かなければ」
「何故?」
「一部を除き我らは夜目が全く利きません、ですので夜間は戦闘はおろか移動すら難しい」
切り開いた土地で盛大に火でも焚いていれば話は別だが彼らにとって夜の帳は非常に危険なものなのだ。例え明るい月夜であっても彼らにはそれはまっ暗闇に等しく、一部の鳥人族、フクロウやミミズク型の獣人でなければ上下の感覚すら怪しいとのこと。
「一応、夜目の利く者を何名か残しますが・・・彼らは狩人であって戦士に非ず、集団戦は不得手です」
何名かがミミズク型の獣人らしく夕日を眩しそうににらんでいたが人数が少なく、何より飛ぶという性質上防衛は苦手そうだった。
「しかし途上で友軍とすれ違いました、到着はもうすぐですから悪いことばかりではありませんよ」
食料を得て人心地ついた彼らにとって本格的な援軍の到着が近い事はなによりの朗報だった。
「そうか、ならもうひと踏ん張りするか」
騎士達は軋む体に鞭打って立ち上がると槍を手にやって来るであろう夜襲に向けて備える。
すると驚いたことに夜の更けきらない内から獣人達が攻撃準備を開始したのだ。
「いつもより早いぞ!」
「こちらの休息が完了する前に攻撃するつもりか・・・だが、明るい内に攻撃を仕掛けようとしたのは浅はかだったな!」
鳥人族の内、鷹、鷲からなる編隊はすぐさま飛び立つと砦を十字方向から出撃し上空から彼らが得意とする風の魔法を浴びせていく。
「陸の戦士なにするものぞ!我らの武威を見るがよい!」
暗くなり始めていたとは言え、浮かび上がる化粧の光や騎士達の援護を受けて彼らは思う様攻撃を加えていく。
完全に奇襲を受けた彼らは全員が散り散りになり、結局その日の夜襲は失敗に終わった。騎士達は拍手喝采で彼らを見送るとフクロウ型獣人達の援護を受けて数日ぶりの仮眠を取ることができた。
「・・・何の音だ?」
翌朝、仮眠から目を覚ました騎士が遠くから響く音に耳をすました。どうやら太鼓かなにかのようだった。直ぐ様監視役の騎士が高台にある塔に上って周囲を見渡し始める。
「これは・・・!ザンナルの軍楽隊の音楽だ!今度こそホントに救援が来たぞ!」
物見から監視していた騎士がもたらした情報、今度こそ到来した好機に沸き立つ。その内に守備隊にも音ではなく肉眼での確認が出来たため興奮は最高潮に達していた。
「助かった・・・俺たち助かったんだ!」
「やったな!」
互いに肩を叩きあい、目前の勝利に期待を膨らませる。見る限りでも数百人は居そうだ、それだけの数がいればどうにかなるだろうと彼らも考えていた。




