王族の運輸その3
とりあえず浴衣の着付けは夕食が済んでからと言うことでアレクシアと共に厨房を覗く事に。
「ここだな」
「いい匂いがします!」
付近に来ると既に準備が始まっているのかいい匂いが立ち込めている。魔獣の肉が大量にあり、それでいて野菜や麦もたくさんある・・・そうなると何が料理の候補にあがるだろうか。
「すき焼き・・・いや、鍋ってことも・・・」
「?」
漂う香りは懐かしき醤油の香り、それが香ばしく薫るのだから思わず想像してしまっても仕方ない。
ほのかに出汁の香りもするぞ、うーん・・・悩ましい。
「俺も辛抱ならなくなってきた、早いとこ確認しちまおう」
「はい!」
二人でそそくさと厨房を覗く。すると全員の視線がこちらに向いた。こっそりのつもりでも獣人達の嗅覚を誤魔化すことはできないようだ。
「大将、どうかなさったんで?」
厨房に詰める料理人の一人が手を止める。それを制して俺は用件を手短に言う。
「いや、少し腹が減っただけだ。そのついでにお姫様に厨房を見せようと思ってな」
「なるほど、それでしたらまずこちらの賄いをどうぞ」
そう言うと彼が出してくれたのはスジ肉を煮込んだ佃煮と、懐かしの握り飯だった。二個ほどを取り、それに佃煮を添えて出してくれる。
「これは・・・?」
「佃煮だな、旨そうだ」
試しにひときれ摘まんで見ると、やはりと言うかとても懐かしい味がした。砂糖と醤油、そして手間を掛けて煮込んだものが贅沢にも賄いとして提供される。口の中に甘辛さの残る内に握り飯にかぶりつくと思わず涙が出そうになる。
「・・・」
「た、大将?」
「ん?ああ、大丈夫だ、旨いぞ」
郷愁の念を感じている俺をどうみたのか心配そうな彼に俺は笑顔で返事をすると彼らもようやくホッとした表情になる。
「それはよかった・・・んですが」
「?」
「あのお姫様をどうにかしてくださると嬉しいです」
そう言う彼の指差す方向を見るとお皿を空にしたアレクシアが従業員用の大皿に手を伸ばしている所だった。よくみると何個か減ってるな。
「コラっ!そこにあるのは全員ぶんだぞ!」
「ひゃいっ!」
ひとの分まで握り飯を食っちまったのか、呆れた奴だ。
「まったく、王族の自覚があるのか!」
「ふいまへん・・・ごくん」
結局何個食ったんだ・・・。ひーふー・・・、五個か。大の男が二個食う間に全部で七個も食っちまったなんて・・・もっと少食だったとおもったが。
「すまんな・・・」
「美味しそうに食べてくれましたし、これくらいなら全然大丈夫です。ただ・・・」
「ただ?」
「大皿全部食べちゃいそうだったんでね」
そう言うとアレクシアは流石に恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にして俯いた。
「夕食が入らなくなっても知らんぞ」
「今日はすき焼きですんでそうなるとちょっと残念ですね」
二人してそう言うとアレクシアは今日がごちそうらしき事を悟って涙目になっていた。
翌朝。俺たちは朝食を終えてトラックの見聞に訪れていた。
「これが・・・トラックという乗り物なんですね」
鎧姿に着替えて参上したアレクシアに整備班の皆は緊張気味だが、旅館の従業員はそんな彼女を見て逆に微笑ましく見守っている。
「はい、倒木を五本から最大十本は運べます」
「首都まではどれくらいかかりますか?」
「道が良ければ馬車の半分以下のスピードで向かえます」
説明を受けつつもアレクシアはトラックの周囲を歩き回っては念入りに足回りを確認する。こう言うところは流石に軍関係者らしい着眼点だ。
「部品の交換ペースはどれほどで?」
「早くて三ヶ月でしょうか」
「そうなると重量物の運搬が重なると一ヶ月ペースと考えても良いわけですね」
隣で聞いていたが楽観していたらしい整備班はアレクシアの指摘に目を白黒させている。どうやらアレクシアを見くびっていたようだな。
「トラックが四十・・・そうなると常時動かせるのは半分ほどで、他は修理や修繕の為に待機させて交代で稼働する・・・中継基地の建設もするべきでしょう、それについての予算ですが・・・」
「予算についてはこちらで負担する、人員はできるだけ現地徴発だな」
補給線を徐々に伸ばしていき、最後にザンナルの旧首都に連結させる。そうすればトラックが不調を起こしても中継基地から修繕や業務の引き継ぎを行える。
「使い潰すつもりでつかってくれて構わない、数は時間があれば逐次補填できるからな」
「わかりました、ですが刻印があるものはどうするのですか?」
「外側を乗せ代えすれば問題ない、もしくはちゃんと刻印部分だけでも細かく管理してくれれば順番に始末すればいい」
外装は撤去して再利用できるように加工しやすくし、規格を設けてある。特にトラック等の業務に携わるものにはそれを徹底してあるのだ。
「運用も大事だが、まずは乗って見ようか」
「はい、それではお願いします」
説明もそこそこに試乗してもらうことにした。乗り心地はそこまで良くないが気に入ってもらえるだろうか。




