王族の運輸その2
なんてことあれこれ考えつつ旅館へと向かう。しかし鎖国というか、陸の孤島状態だった彼ら獣人達にも旅館だとか旅籠といった施設がある事に俺は驚いた。やっぱりあそこの国には結構な頻度で日本人が来ていたのではなかろうか。もしくは彼らに文化を伝えた人間が日本人だったとか・・・。考え過ぎだろうか。しかしながら食料や安全面の危機が解消された今、彼らはまさしく和のテイストが色濃く漂う素敵な国になりつつある。
「さて、ここだな」
あれこれ考えつつ歩を進めると問題の旅館へと到着した。
「王女殿下は御滞在か?」
「はい、いらっしゃいますよ」
女将に尋ねると淀みなく答え、俺を案内してくれる。うーむ、この懐かしさは・・・なんともいえないな。
「アレクシア、早かったな」
「ヴォル兄!この小さい扉はなんなのでしょうか?」
和式の建築に全く知識のないアレクシアは子供のように興味津々だ。だがそこは頭を突っ込む場所ではないぞ。
「ちょっとした物入れだよ、少なくとも頭を突っ込む場所じゃない」
そう言うと我に返ったのか恥ずかしそうに俺に向かい合った。
「こほん、とりあえず・・・とらっく?でしたか、それを見せてもらいに来ました」
「見るだけじゃなく乗ってくれても構わんよ」
そう言うとアレクシアは期待に満ちた様子で笑みを浮かべた。おーおー、こういうとこはまだまだ子供だな。
「ま、とりあえず今日はゆっくりしていけ」
「そうですね、彼らも疲れているでしょう」
彼女が近衛隊の面々に会ったのか、どうかはわからないが俺が見る限り彼らも旅館を満喫しているらしいので急いては可哀想だろう。
「風呂もあるし、ここなら食事もそれなりに豪華な物が食べられるだろうから期待していいぞ」
クルム麦に魔獣の肉、それに木の実など、フィゼラーがもたらす恵みは計り知れない。それを料理する彼らの腕前も素晴らしい。出汁の文化が無いのが残念だが川魚の薫製などもあるのでそこらへんから出汁を取ることを考えてもいいかもしれない。
「食事ですか、そう言えば少しお腹が減りましたね」
アレクシアはそう言うとお腹をさする。体が資本の騎士達は基本的に良く食べる。彼らに比べると些か少ないが彼女も例に漏れずたくさん食べるのだ。
体をいくら酷使しても一定の食事の量をとれるというのは体を鍛える上でかなり有益だろう。
「今日はなんだったかな、ちょっと確認してみるか?」
「え、いいんですか?」
「構わんよ、邪魔にならないようにすればいい」
普通なら嫌がられるかもしれないが俺がオーナーだからこっそり見るぶんには問題ない。
「さて、ここらへんだ」
アレクシアが泊まっているのは二階の一番いい部屋、ホテルで言うとスイートルームってやつだ。防犯の関係上見張らしは良くないがそのぶん施設には気を配っている。そこから一階の調理室に向かう途中何人かの近衛隊にすれ違ったが彼らの中には既に浴衣姿の奴までいた。彼らはアレクシアを見るとひどく恐縮していたが彼女が公に許可を出すと黒狼隊とそれぞれ交代で休憩することになった。
「近衛隊の面々にも好評なようで一安心だな」
「ええ、それにあの服・・・とてもお洒落でしたね」
染料の輸入や加工方法をリットリオやサマルから仕入れたので浴衣の色にもバリエーションがたくさんできた。獣人は皆毛皮を纏っているので必然的に厚着しない。だからこそ浴衣や半纏などの薄い着物は着やすいのだ。そこに最近ではデザイン性が出てきたので爆発的に人気を博している。
「あの騎士が着ていたのは唐草模様だな」
「からくさ・・・?」
「蔦が絡まったような模様だったろ?あれが唐草模様だ」
フィゼラーで取れる木材、その処理の工程で出る葉っぱを魔力を込めた水に晒すと色が抜けて染料になることが判明し、輸入に頼らず深緑色が自主生産できるようになった。それによって扶桑国では深緑色が広まっており、深緑色の着物や布は日用品の代名詞になりつつある。
「なぜ蔦のような模様なのでしょうか?」
「蔦は頑丈で生命力が強い、それにあやかってだろうさ」
蔦植物は総じて生命力が強く、日本でも吉祥紋様・・・つまりは縁起物として扱われてきた。この世界ではドラゴンついての紋様も多く、全部描くのは畏れ多いとのことで翼や爪、横顔なんかを旗やマントに染め抜いたりする。
「それにしても着るものに染め物で紋様を描くなんて珍しいですね」
「確かに、日用品までにはな」
マントなんかではあくまで儀典用での場合だが・・・厚手の布や革なんかには染めるのは難しいからな。また、染料は高いのでそのせいもある。加工にはもちろん技術もいるし、水や干す場所などたくさんの施設が必要だ。
「私にも似合うかな」
間違いなく似合う。鍛えてあっても女性らしいプロポーションは完璧だしな。なによりはだけたらえr・・・げふん。




