下準備のあれこれ
そんなこんなで道草しつつ。俺がデッカー青年と話し込んでいる最中。
「はう・・・とうとうヴォル兄と・・・」
着替えながらアレクシアは先程の余韻に浸っていた。
(男の人の肌も見慣れているはずなのに・・・どうしてあれほど違うのだろう)
女性ながら騎士というほぼ男所帯の世界に入り浸っていた彼女は一応貴族の子女としては扱われつつも彼らの世界にいる存在として次第に当たり前の存在になっていた。それには王族としてはフランクな彼女の存在と、彼女が普段から鍛練など様々なものを共にしていく内に家族同然の扱いになっていたからだがそれ故に彼女は度々男衆の着替えや水浴びの場面に出くわしていた。
小さな頃こそ赤面したり声を上げていたアレクシアだったが次第に慣れ、堂々と他の騎士達の前で薄着になったりと貴族の子女としてはあるまじき大胆さを示すまでになっていた。
その例外というべきか、ヴォルカンの姿だけが彼女にとって眩しく映るのはまさしく彼女が彼に好意を抱いているに他ならないのだが・・・。
「不思議・・・です」
好意を抱いているとは思いつつ、しかも肌まで重ねたというのに彼女はイマイチ良くわかっていなかった。これは色恋沙汰に疎い性格もあったが、同じ年頃の女性との交流がほとんどなかったことも災いした。
「とりあえず視察の書類をつくらないと・・・」
意識を切り替えて羊皮紙を一枚手に取る。名目は木材流通の目処をつける為、現状を把握するための視察となる。自分が許可を出し、自分が動くので滞りはそれほどないはずだ。しかしながら同行するのがあのヴォルカンなので早くできるに越したことはないのだ。
「えっと、他に同行するメンバーはどうしましょうか・・・」
ヴォルを同行させる以上、だれか他のメンバーをつれていかないといけない。今でも既に公然の秘密となりつつあるがそれでもまだ婚約もしていない、伯爵位についているとはいえ年若い貴族一人に任せるとあればいらぬ誤解や不興を買いかねない。
「そうなると近衛隊を連れていくのが妥当でしょうか・・・」
ヴォルカンがどれだけつれてくるかわからないがあくまで近衛隊が主体の視察団とならないといけない。
「まさかそれほどのメンバーをつれてくるとは思いませんけど・・・」
ザンナルの首都だけでも常に数百名を超える獣人が治安に関して目を光らせている。それ故に他の騎士たちも復興に奔走する文官達の護衛や手助けを行えるのだ。アレクシアが調べただけでも治安のいいところほどヴォルカンの息のかかった獣人達がたくさん駐留しているという事実を掴んでいる。
アレクシアも数回彼らと会合する機会を持っていたが全員が身なりが良く、読み書きを淀みなく行い、治安についての知識はもちろん武芸の雰囲気までまとっているのだ。
一体何人の獣人達を従えているのか、それさえ正確には把握できていない。
「とりあえず百名ほど・・・大丈夫かな」
そう思いつつアレクシアは部下に命令をだして文書を発布する。それに伴い百名の近衛隊を編成し、ヴォルカンの到着を待つことにする。
「殿下、黒狼隊所属第一歩兵小隊以下五十名!国境付近までの護衛補佐と道案内をさせていただきます」
三日後、隊の編成が済んだところで頃合いを見計らったように獣人の部隊がアレクシアを迎えにきた。
「ご苦労、迅速な行動に感謝する。伯爵の精鋭、その手並みを拝見させていただこう」
「はっ!」
統一された装備に一糸乱れぬ隊形、近衛隊にも劣らない品格に近衛隊からも感嘆の声がもれる。
そして全員が前回の戦役に出征したのであろう、時折痛々しい傷跡などを覗かせており、それだけでも近衛隊を気持ちの上では圧倒していた。
(戦役を経験するとやはり雰囲気が違うな)
(鍛練の度合いも違うのではなかろうか・・・)
王族直轄の近衛隊には彼らが扶桑国から派遣されている存在であると周知されており、王族に次ぐ情報を得ている。そのために彼らがフィゼラー戦役に参加したメンバーであると知っていた。
「さて、ヴォル兄の見せてくれるものが楽しみだ」
独り言を呟いたアレクシア。それも近衛達と黒狼隊の足音に掻き消されていた。
「さて、トラックの準備は済んだか?」
「はい、万事滞りなく」
一足先に国境へと戻った俺は付近に集められたトラックの最終確認に立ち会っていた。
「占めて四十台を用意しました、扶桑ではやや旧式ですが数を揃えるとなるとこれくらいがちょうどいいでしょう」
「王族が所有する品なんだが・・・ま、木材運搬程度ならこれくらいでいいだろうか」
風防と屋根、幌着きのトラックは乗り心地はそれほど良くないが積載量に優れ、馬車を繋げて運用することでトレーラーのようにして大きく長い木材も運搬できる。この時代からすれば十分オーパーツだろう。




