経過報告 その2
俺は足を押さえてのたうち回る傭兵崩れを他所に残った連中に目を向ける。
「さて、お前さんたちの雇い主について知ってることを話せ。でないと、こいつみたく苦しむ羽目にあう」
「ぎ・・・ぎゃあっ!」
「こんな風にな」
ナイフの刺さった足を踏んでやると傭兵崩れはいい声で叫んでくれる。仲間内の信頼感や責任感がなければ次の行動がおおよそ予測できるが・・・。
「ひ、ひぃぃぃぃ!俺は知らねえぞ!なにも知らねえ!」
「か、金をもらっただけだ!道案内しろって・・・あ、アンタを殺そうなんて思ってねえよ!」
「金をもらった、か。誰だ?答えによっちゃお前さんたちの仕出かした事の重大さを噛み締めることになるぞ」
あっさりとゲロったな。しかしまあ、ここまでお粗末な奴等とは。
「とりあえず俺が誰かもわかってなかったのか?」
「へ、へい・・・」
「おい、そこの!お前もか?」
傭兵崩れにも確認すると涙目で頷いてくれた。
「なるほど、それじゃ成功しなくてよかったな、成功してたらリットリオにはいられなかっただろうからな」
「そ、それは一体・・・?」
「アダムスター伯爵って言えばわかるか?それとも、『マフィア狩り』の方がお前さんには解りやすいか?」
「!!」
そういうとチンピラだけでなく傭兵くずれも顔を真っ青にして冷や汗をかき始めた。
あーあー、体よく利用されちゃってからに。
「次からは喧嘩を売る相手は選べよ」
「うぐっ・・・そうしやす」
ナイフを抜いて傷口を治療してやると全員から敵意が消えた。わかってくれたようでなによりだ。
「口封じに気をつけてしばらくは大人しくしてろ。ほれ、これで雇い主の選び方でも勉強しな」
「あ、ありがてえ・・・」
「兄貴ぃ・・・」
「か、帰りましょうぜ・・・」
財布から何枚か取り出して投げ渡してやる。すると連中は俺を拝むようにしながら立ち上がるとなにやら布切れと羊皮紙の切れはしを俺に手渡した。
「これは?」
「雇い主との契約書でさ、割り符のもう片方は向こうが持ってるが念のためってやつです」
なるほど、腕前はお粗末だが、経験はそれなりに積んでいるらしい。こういう抜け目のなさが戦場からこいつを生き残らせたんだろうか。
「なるほど、お前さんもなかなかのワルだな?」
「へへへ、こいつらのためでさ」
そういうと傭兵くずれは後ろのチンピラたちを指差した。なるほどな、守るものがヤツを成長させたってか。
「そうかい、食いぶちに困ったら声をかけな。真面目にするならどこかしら紹介してやるぜ」
「!・・・アンタみたいな御仁に会えて幸運でさぁ、こっちこそ困ったことがあれば何時でも呼んでくだせえ、使いっ走りでもやりますぜ」
そういうと傭兵くずれーーーデニスというらしいーーーはチンピラたちを引き連れて帰っていった。
「ふぅむ、さて、俺をどうにかしたくて堪らないバカはどこおどちらさんだー・・・って
なんだこりゃ」
「カントン・キナーゼ?それって・・・」
「ああ、サマルの童謡に出てくるおとぎ話の登場人物だな」
割り符の切れはしと照らし合わせてみると・・・聞いたことのない名前だった。だがサマルの文体でサマルのおとぎ話を引っ掻けた名前が書かれているから・・・おそらくは同郷の人物なんだろう。
「しかし『ひょうきんなカントン』を偽名に選ぶってのは本当に人をコケにしたヤツだ」
ひょうきんなカントン、何をやっても失敗続きの間抜けな少年の名前で、親のいいつけを守らなかったばっかりに頭に花のたねを植えられてしまい、頭に咲いた花は見事なものだがカントンはそのために見世物にされてしまうという親御が子供にしつけをする際に子供に言い含めてきたおとぎ話の一種である。
「コケにしてくれたお礼はたっぷりとさせてもらおう、仕事を片付けるのが先決だが・・・そうなるとお前さんたちに頼むことになるが構わないか?」
「お任せください、伯爵様に逆らう愚か者は如何様にでもしてみせましょう」
「いい返事だ、任せるぞ」
そういうと彼女たちも背景に溶け込むように消えて行き、辺りには誰もいなくなった。
「さて、彼女たちがしくじるとも思えんし・・・俺は俺の仕事に戻るとしよう」
バカ達の末路にはあまり興味もない。それよりアレクシアが首を長くして待っている。
急いで戻ろう。人が居ないのを確認して俺はドラゴンに変身し、夜空へと飛び立った。
『夜風が気持ちいいな、しかし・・・そろそろ肌寒くなってきたか』
夜明けまで飛べば国境付近までいけるだろう、それからフィゼラー大森林に入って黒狼隊と合流してトラックにでも乗ることにしよう。




