手違いの凶行
「元に戻ったようですな」
不意に後ろから声が届いた。振り返ると仮面の男が立っている。一体何者か、知っていてこんな事をしたのか。しかしながら彼に悪意は無いようで安心した。しかし万事めでたしとは行かないようだ。
「うむ、全てがとはいかんかったがな」
私はそう言うと自らの格好を見て苦笑した。
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少し離れて追いかけていくとつんつるてんの格好になった公爵が立ち尽くしていた。どうやら彼は夢から覚めた様子だ。声を掛けてもはっきりとした振る舞いと返答がかえってくる。
見た所60手前の男性が子供服を着ているといういただけない状態だが一応簡単な服装を調達してきたので彼の行き着けという菓子店で場所を借りて着替えてもらう事にした。
「旦那様、このお菓子美味しいです!」
「あらあら可愛い子だねぇ、これも食べるかい?」
「ホントですか!」
「食べ過ぎるなよ・・・?」
マフィンをほおばりながら目を輝かせるのを焼き菓子を提供する老婆が笑顔で見ている。小さな女の子と二人でニコニコしながら食べているのはまるで姉妹みたいで可愛いが先ほどの威厳というか俺の代行だという目的は既に忘れているのではなかろうか。
「これを故郷でも流行らせましょう!」
目的がどんどんとズレているアウロラ。コイツどんどんポンコツになっていく気がする。だが俺は甘やかしたい。鍛錬生活が多かった為か体質か彼女は幾ら食べても太らず、やや筋肉質の体で痩せの大食いといった感じだ。もう少しふっくらしてもいいのよ?
「とりあえず着替えは済ませた、警邏の騎士の世話になる事もあるまい」
渡したのはやや上質な市民服であったが本人に威厳があるのかさして気にもならない。何より本人が堂々としているので必要以上に注意を引かないのだろうか。
「こんな事が出来る『技術』の持ち主には心当たりがあるがそいつ等には動機がない、依頼されて道具だけ貸したと見るのが道理だが・・・」
「うむ、それで双方に動きがあったのだろうがどちらも動けない所を見るとどうやら手違いがあったようだな」
「手違いというと?」
「奴らは皇太子に余の開けた箱を贈るつもりだったらしい。そして皇太子を子供にしてしまえばアージェを代理にして実権を握らせる腹積もりだったのだろうな」
バレストラ公爵によるとその小包は突然公爵の前に現れ、そしていぶかしむ彼が近づいた瞬間に開いたという。それからは皆が知るように子供になってしまい、ずっと屋敷にこもっていたのだ。
今回は俺達が無理矢理公爵を外に連れ出したから問題は無かったが皇太子ともなれば外出するのも一苦労だ。ましてや子供になってしまったなどとなればなおさら外には出せないだろう。そして皇太子は地方に政務などで赴いた事はあれどそういった思い出話には年齢からして少なく、ティアージョーカーズが開発した呪いを解呪する条件を満たすのは難しい。
第二王子派からすればこれこそ好機であり、いくらでもイチャモンをつける口実が出来るはずであったがなぜかそれがバレストラ公爵に渡ってしまいバレストラ公爵が逆に政務に顔を出せない状況になってしまった。盛大なオウンゴールを決めた第二王子派は真っ青だろう。
「しかし、皇太子殿下のところにも小包が送られてしまったと」
「恐らくはな・・・本来第二王子派に送られるものが皇太子殿下に送られてしまい向こうの連中も慌てふためいているだろうよ」
「どうして向こうにも届いたと解った?」
「ふ、余は占いが得意なのだ」
占い?と俺達が頭に疑問符を浮かべているとバレストラ公爵は得意げに話を始める。
「余は占いを趣味にしていたのだが・・・どうにも凶兆を読む事ができるようでな。親族の凶兆を見逃さぬよう毎朝弟とその娘達、それに皇太子とアージェの運勢を占っておったのだ」
「的中率は?」
「嬉しくないが悪い事ほど外れた事は無い。今回は命に関わらぬと油断してこのザマよ」
どんな占いをしているのだろうか、コイントスとかだったら笑うが。しかしそんな占いの結果で皇太子と自分に凶兆を読み取ったが命に関わらぬと軽めに見積もっていた為バレストラ公爵は油断したようだ。
「余の占いにはサイコロや文字盤などを使うが・・・その日に奇妙にも余と皇太子の二人に同じ凶兆がでたのだ。そしてあの忌々しい箱には『皇太子殿下へ思い出への回帰を!』とかかれておったわ」
「それで皇太子殿下の元にも同様の箱が手違いで届いているだろうと?」
「うむ、占いには『手違いの恨みに注意』と出ておったのでな」
ピンポイントすぎて怖いな。っていうかそれだけ解ってたなら・・・いや、なにも言うまい。仮にもダークエルフやエルフ達の呪いだ、早々対策できるものでもない。何せ彼女達の技術を持ってすれば箱を置いて立ち去るなど簡単なのだから。あの手この手で作戦を遂行するのは目に見えている。
間違えたのは不思議だが・・・一体どういうことだろうか?




