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金庫の中身を売りにいこう。

口を窄めて大きく息を吸い込むとそのまま水鉄砲をイメージしながら噴出す。

するとバーナーの出来上がりである。

俺はそのまま金庫の扉を焼ききるとヒューイに部屋の外に出るように忠告してから扉を引っぺがした。


ゴゴゴ・・・ガラァン。


「ふぅ~。」


俺はヒューイが入ってくる前に口の中に残った火を吐き出しておく。ドラゴンは人間のように毎度毎度魔法陣を開く必要はないが逆に普通の息に戻すほうがむずかしい。

一気に吐き出せばすぐ元に戻るが逆に出力を調節すれば息が続くだけ吐けるだけでなく篭めた力が解けるまで自動的に息が炎に変化してしまうのだ。


ちなみに炎だけでなく全ての属性を使うことができる。


炎の方がなにかと使い勝手がいいので自然と使うのは火ばかりになってしまう。


「これは・・・。」


綺麗に金と銀と銅が三層に分かれている。普通ではありえないことだが・・・。


「アンタこれどうやったの?全部魔導金属になっちゃてるじゃないの。」


「なんだそれ?」


「えっ? 知らないのアンタ?」


魔導金属とは精練や鋳造に魔法を使った金属のこと。

この加工をすることで魔法が金属に伝わりやすくなり剣に使えば属性剣なる魔法剣の威力が跳ね上がり防具に使えば防御魔法の効果が医療具に使えば回復魔法の効力が跳ね上がる。


注射器は王族レベルの高級品だが医療具に魔導金属を使用していると膏薬を匙で塗りつけるなどするだけで効果が倍以上違うのだとか。


「デタラメな魔力が篭ってるからコレとんでもない価値が着くわよ。」


「というといくらになる?」


「そうねえ、小さな村なら50年は遊んで暮らせるわ。」


村単位かよ!と心の中で突っ込みつつ、納得もした。

俺が知らなかったのは単純に数が少なく親父達ですら見たことがないレベルの希少な品だからだろう。


ヒューイの話によると魔導金属は精錬も鋳造も難しく、人間には莫大な量の魔力が必要になるのだ。ランクの低い魔導金属すらわざわざ火の魔法が得意な魔物を

テイムして精練する品。魔導金属はそれだけ難しい品なのだ。


しかも人間の魔力は外に逃げやすく金属に溜まりにくいそれゆえ状態が安定するまで魔力を注ぎ続ける必要があるらしいのだが・・・俺は人間じゃないしな。


「とりあえずコレをチビチビ売って行けば資金には困らんか?」


「買えるヤツが居るかはわからないけどね。」


一般の、それでも金持ちの連中が買うものですらランク3、ちなみに最下級はランク10である。


そのなかでこの金庫に固まっている金属の塊は俺のブレスで雑物が取り除かれ、魔力を帯びている。

一番上に溜まっている不純物ですら彫り物にして売り出せば魔物避けになるという。

ちなみに不純物ですらランク4、金や銀は伝導率がいいのでランク1の極上品になっている。


「それじゃあ次の目標は商人を探すことだな。」


「そうねえ、とりあえずワタシの仲間を頼ってみましょ。」


ヒューイは知識だけでなく人脈もあるらしい。

納屋に放り込んであった大工道具を使って適当に幾つかを削りだすとどうにかこうにか拳大の屑鉄を削りだすことに成功したのでそれを抱えてヒューイの仲間の下へ向かうことに。訪れた先は金属の加工販売をしている装飾品店。

魔導金属を卸すにはもってこいの場所だ。店構えは立派でやんごとない人の利用もチラホラ。オカマラス・ヒューイの紹介だからまさかな、とは思ったけれども・・・。


「やーん!お姉さまがいらしたわ!」


ヒューイが尋ねた途端一人の筋肉ダルマが飛び出してきた。周りはというと大なり小なりヒューイと同類のようだ。


「あら! そっちのイケメンはだれ!まさかお姉さまの?!」


小指を唇に当てて頬を染める筋肉ダルマ。よしてくれ!寒気がするぞおい!


「違うわ、ビジネスの相手よ。それにね、こういうのは妻に苦労かけるタイプよ。」


見かけだけで決めちゃ駄目よ、とヒューイがたしなめる。


「ンフッ、でもでもぉそういうオトコと燃える恋をするのもいいじゃないですかぁ!」


「危ないロマンスは書き物だけにしときなさいな。」


さすがのヒューイも呆れ顔だが、コイツさっきからチラチラ俺の下半身に視線を送ってないか?貞操の危機を感じるぜ。 


「えっと、すまないが仕事の話いいか?」


「あら、いけない。ごめんなさいね、お姉さまとイケメン両方が同時に尋ねてきたらテンションあがっちゃった。」


普段はこんなことしないのよ!と言われたが何処まで本当なのか怪しいところだ。


「それでビジネスって何が欲しいのかしら?午後の予定はいっぱいだからデートは明日にして欲しいんだけど?」


「悪いがおれは背の小さい子がタイプなんだ。本題はこの金属を買って欲しい。」


そういうと布に包んで持ってきた魔導金属のくず鉄部分を差し出す。


「テメェどっからこれを?!」


その瞬間筋肉ダルマは柔和な表情を一変させて俺に掴みかかってくる。


「やめなさい、キャサリン・・・ラルゴの部分が出ちゃってるわよ。」


「はっ!嫌だわ私ったら・・・ごめんなさい。でも何処からこれを? 盗んだものじゃないわよね?」


「ああ、これは俺の私物さ。正確にいうと俺が作ったってのが正しいか?」


そう言うと筋肉ダルマもといキャサリンは疑わしげに俺を見やる。


「本当かしら? これほどの金属精錬ができるならあっという間に一財産築けるのに・・・それに私達金属を加工して生きてる職人に名前が出ない筈ないわ。」


「ああ、だが俺は無名だしつい最近まで魔導金属の存在すら知らなかった田舎モンでな。」


身元の証明代わりにヒューイに相談に乗ってもらったというと渋々納得してくれた。


「なるほどね、まあ私としてもこれほどの素材が定期的に手に入るなら願ったり叶ったりよ。でも、もしお姉さまや私の身内に被害が及ぶようなら・・・。」


「ああ、切り捨ててくれ。」


「オッケー、じゃあ値段の話だけど・・・鉄が多分に含まれてるから装飾品には難しいわドワーフのお兄さんに売りつけて置くからしばらく経ったら来て頂戴。」


値段が高いことは間違いないが鋼鉄やくず鉄となるとキャサリンには値段査定は厳しいらしい。そうなると目先の現金収入は厳しいか・・・。


「そうか、モノは相談だが金属を切り出したりするための刃物とか、金属を流し込む鋳型ってあるか?」


「インゴット用の型があるけど?」


「じゃあそれを貸してくれ。」


首をかしげながらキャサリンは余った鋳型と小型の取鍋金属を切り出すための魔導鋸を貸してくれた。魔導鋸は魔力を篭めると振動するのこぎりで硬い金属を切るのに使えるらしい。


「よっしゃ、これだけ有れば金とか銀も持ってこれるぞ。」


「そうなの? とりあえず期待させてもらうわ。」


型と道具を借りて俺とヒューイは意気揚々と再び根城へ向かう。


「あ、そういえば女の子達の食事を用意しなきゃな。」


「そういえばそうね・・・。早く帰りましょ。」


朝食は屋台で買ったが、昼飯はどうしたものか・・・。

そう思いつつ足先を飲食店へと向けた。

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