リットリオでのあれこれ!
リットリオの問題はどれもこれも面倒なものばかりだ。だがリットリオの周辺貴族は既に俺の息が少なからず掛かっている。中には皇太子派と王子派もいるだろうからその中で穏健派を担いで争いを終結させるべきだろう。願わくば両派閥の統合か解体も視野に入れるべきか。
『細かい事情は解った。リットリオの安定はこの周辺地域の安定にも不可欠だ。できるだけ協力しようではないか』
「おお、本当ですか!」
『うむ、扶桑国の代表ても浅からぬ仲である。リットリオとの友誼を結ぶ良い機会といえよう』
「そのとおりですね、だん・・・ドラゴン様」
乗りかかった船だ、彼らに恩を売る事は損にはならないだろうし扶桑国にとってもリットリオが安定する事は望ましい。ついでにこの周辺地域の安定化と開発も滞りなく済ませたいので今回の約束を履行させる意味でも彼らに協力するのは不可欠だろう。
「それでは付近一帯の統治権についてと紛争の正式な調停を兼ねて首都で兄と話をすることに決定・・・というわけでよろしいですか?」
「構わない、我が国の利益にも適う」
「それでは我々は一足先に首都に帰還します、くれぐれもよろしくお願いしますよ」
紛争の調停もねじ込んでくるとは存外やり手だな。これは益々恩の売りがいがあるというもの。とりあえず条約の締結は本人の希望もあって皇太子と交わすことに。下準備を兼ねて一旦別れて俺達は一路リットリオへと飛ぶ準備を始める事にした。
『装いを変える必要があるな』
「どうしてですか?」
『俺にこの姿で街中へ入れというのか』
「それもそうですね」
『人間の時の顔も余り知られたくはないしな』
到着する日時に差があるので王子達は何事もなかったかのようにして王都へと帰還するのを見送りながら俺は考える。兄の為、国の為とはいいながら才能ある若者が汚名を被り続けるというのは耐え難いものとは思うがこれも生き方なのだろう。将来長い問題が解決し自由の身になった彼に幸運が訪れる事を切に願う。
『さて、ここら辺でちょっと考えるか』
人目につかない場所に降り立った俺とアウロラは変装して王子一行に合流することにした。顔がバレるとなにかと面倒だからな。それにリットリオの高官の中には俺の顔を知っている者ももしかするといるかもしれないし。
『変身・・・してもやっぱり目立つか』
「なら頭巾か兜でも被りますか?」
『仕方ないか・・・一応調整できるかやってみよう』
顔をドラゴン形態にしたまま体を人型に近づける。人型にさえなれれば獣人の種族と言い張れるだろう、鱗肌でもワーダイン族のような例があるから大丈夫だろうか。しかしドラゴン寄りにするとドラゴンの特徴が現れてしまうので人型とは言えないのが難点である。
『背筋を伸ばすのが・・・うぐぐ・・・キツイ、やっぱり頭巾で誤魔化そう』
ドラゴンだとどうしても前傾姿勢になっているので背筋を伸ばすのが体の構造上難しい。首だけ持ち上がってしまう。しかもどれだけ小型になっても二メートル以内にはなれないので限界がある。元が190センチだからしょうがないのか・・・?
「なんだか狼人族のところで見た隠密とそっくりな格好になりましたね」
「布が何故か黄色なのがいただけないな、これじゃあタダの変質者じゃないか」
結局普段の服装に布覆面という怪しさ満点の格好になるしかなかった。途中でヘルムでも買うか。
「リットリオで王子達と合流するまでは変装しなくてもいいんじゃないですか?」
「そういわれればそうか」
っていうか顔隠してたら入国できないだろうし。俺が門番だったらこんな顔だけ忍者スタイルの変人は絶対に通さないな。不審者としてマークされたくないから入国は普通に済ませた方が無難か。
というわけで覆面を外し、俺達は久しぶりにリットリオの首都へと足を踏み入れた。
「おー、にぎわってんなー」
前回訪れた時と変わらずリットリオの首都は賑わいを見せていた。最初の頃は悪代官の圧政に苦しむ民衆よろしく活気もなく、やさぐれた人間や無法者に怯える者達ばかりであった。しかし今はリットリオには本来の活気がよみがえり、闘技場や職人達の店を中心にかなりの賑わいを見せている。
異世界の新宿・・・といったところか。いや、なんか違うな。そもそも新宿なんて遊びに行った事ないし。
「とりあえずこの貢物をさっさと渡してしまいたいです・・・」
「そういえば・・・今くらい代わりに持つぞ」
「うぅ・・・すみません」
なんか口数が少ないと思ったらアウロラの腕がプルプルしていた。俺の渾身の力作(純金+石の土台)を箱に入れて抱えて歩いていたのだ。今までは俺が変身していて持てなかったので失念していた。交代してからも少し辛そうにしていたので近場の食堂で休憩する事に。
「悪かったな、大丈夫か?」
「はい・・・まだちょっと腕が震えますけど」
ちょっとといいつつスイーツを突いているフォークが尋常じゃない震え方をしている気がする。申し訳ないな。




