条約の合間に
そして当日。公務をサボって作っていたツケがあってエライ目にあったがそれでも重要な外交の問題なので平謝りして俺は再び温泉宿へと向かう。
「さて、これで相手がドラゴンを前にしてた事と同様の反応をしてくれるか・・・」
「代表者を代わりに立てるのはどうでしょうか?相手が王であるという保障もありません。格を合わせる意味でも扶桑国の王たる旦那様が最初からお出ましになるのはよろしくないでしょう」
「そうなると自動的にアウロラに頼むことになるが?」
「お任せください!」
ふんす!と自信ありげに言うので彼女にはそのまま代表者としてバーダック公爵と面会してもらうことになった。相手の出方が気になるがはてさてどうなることやら。
『さて、とりあえず変身しておくか・・・』
ドラゴンに変身し、片手にアウロラを乗せて温泉宿まで一ッ飛び。道中で広がる自然を高所から堪能しつつ進んでいくとあっという間に温泉宿が見えてくる。もうじきこの鉱山が手に入るのだ、輸入に頼りきりの鉄鉱石も国内に安定供給できるようになる。そしてワーダイン族を行く行くは扶桑国に編入してゴタゴタから切り離してしまえばいい。
『見えた・・・相手はお待ちかねのようだな』
上空から見下ろすと温泉宿の隣に騎士団がキャンプを張っている。馬の数や馬車の装飾が豪華なのでそれなりの立場の人間が来ているようだ。
「扶桑国、代表のアウロラです。お待たせしましたか?」
上空から颯爽と飛び降りたアウロラに皆は驚きつつも扶桑国の代表と言う事で皆は居住まいを正して出迎えてくれた。後ろの俺の存在がデカイのかもしれないが。
『扶桑国の幹部を連れてきた。契約を始めよう』
「本当にドラゴンが来た・・・」
「公爵が仰っていたのは本当だったのか」
俺が口を開くと騎士達がぼそぼそとざわめく。まさかドラゴンが契約の見届け人になるとはおもっていなかったのだろう。彼らの動揺が手に取るようにわかる。護衛としてはちょっとアレだが俺の護衛じゃないので気にしない事にする。
「そちらの代表は?」
仕事モードのアウロラの言葉に我に返った騎士の一人が慌てて天幕に引っ込んでいく。すると騎士に連れられてバーダック公爵となんか不真面目そうな青年が出てきた。互いに礼装の鎧姿ではあるが公爵と青年では互いに温度差があるような気がしてならない。
「これはこれは、お待ちしておりました」
「お、綺麗なお姉さんじゃん」
言い切る前に公爵に頭を押さえつけられて青年は公爵と共に頭を下げる。息子といいリットリオの若い衆は大丈夫なのか?
「そちらのこぞ・・・お方は?」
「は、リットリオ公国王位継承権第二位のアージェ・ブルネッロ・ベッティーノ・リットリオ王子です。殿下、ご挨拶を」
アウロラが不快感を早速示しているが青年は全く動じた風もなくアウロラに目を向けている。このガキ、胸元ばかり見るんじゃない。
「どうも、アージェって言います。ところでお姉さんこの後ヒマ?」
「殿下!」
「生憎と子供と遊ぶほどヒマじゃありません」
なんだこれは・・・。さっそく交渉とかそういった内容を話す雰囲気ではなくなってきた。っていうか第二王子がこれで大丈夫なのか・・・。アウロラのタブーを即効で踏みぬくコイツもコイツだし。
「既婚者ですぞ!慎みをもってくだされ!」
「へーへー、ってか俺必要なの?正直兄貴が居るから大丈夫っしょ」
「兄上をお支えするのは当然でしょう!自分だけ責務を放り出そうなどと考えてはなりませんぞ!」
「暗君・・・」
アウロラ、ボソッと言うのやめなさい。周りの騎士ががっかりしているから。
『条約は直接リットリオ王に頼むべきだったか?』
「俺もそう思う」
「殿下!」
俺の呟きにもあっさり同意してしまう。なんでコイツを連れてきたんだ。かわいそうなくらい必死なバーダック公爵を他所にこの王子は退屈そうにしているばかりだ。小麦色の肌に色素の薄い金髪と整ったルックスの健康的な青年だが態度が全て台無しにしてしまっている。
「このままでは陛下に廃嫡されてしまうのですぞ!」
「あーもう、それでいいんだよ。折角兄貴が頑張って国がまとまりかけてんだから第二位は要らないんだって」
「殿下・・・」
どうやらこの青年は王位の責務が嫌で暗君を演じている節がある。リットリオの事情は知らないがどうしたもんやら。
『アージェとやら、お前は何故それほどに王位を嫌う?』
「真面目な話?それとも単純な興味?」
『好きに取れ、しかし誰でも煙に撒けるとは思わぬことだ』
そう言うと少し考える素振りをしていたアージェ王子も頭をガシガシと掻いてちらりと公爵を見やった。
「此処だけの話にして欲しいけど・・・いいかい?」
「殿下・・・」
「この際だ、バーダックにも教えとこうかな」
王子はそう言うと俺に自信を取り巻く環境を教えてくれた。最初はスルーしようかとも思ったが考えて見るとリットリオの政情には既にかなり干渉しまくってるので俺は仕方なく最後まで面倒を見る決心をするのだった。




