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温泉でのごたごた その3

『さて、後は鉱山の処遇だが・・・』

「それに関しましてはご心配いりませんよ」


バーダック公爵は手ぬぐいを頭に載せて言った。流石に歴戦の兵らしく体中に古傷があるようだ。これだけの傷でよく生きてこれたものだ。


『なぜだ?』

「それはリットリオに財源が無い事とザンナルとの国境の接する地域が小さくなったからです」


復興が順調とは言え国内がガタガタである事に変わりはなく、漸く引継ぎが終わって出張ってきた隠居組が一息ついている頃合だろうとのこと。先達がいないところに至っては未だにぴいぴい言って居る所もあり、軍需産業には目を向けていられないのだという。国王達中央の人間もザンナルが弱体化したことでこれ幸いと兵力へのリソースを産業の復興に割り振っているとの事。

それ故に鉄資源はリットリオではだぶ付いており、鍛冶師も剣より鋸や金槌などの工具に力を入れており鎧や剣よりも質を考慮しなくてもいい道具ばかりなので困っていないらしい。


『扶桑などがここらを治めるかもしれんがそれでも構わんのか?』

「扶桑はサマルから分離した国と聞き及んでおりますので中央もさして気にはしておりませんよ。むしろザンナルとの緩衝地帯を友好国が買って出てくれるなら願ったり適ったりですな」


国境警備というのは存外面倒なもので特にザンナルとリットリオのように幾らでも開戦の理由がある国は

できるだけ険悪な仲の国とは国境を接していたくはないだろう。リットリオは難民などにも寛容な国だがそれに混じってマフィアのファミリーのような反社会勢力の流入なども意図したり意図しなかったりと差はあれど起こる。そうでなくても気風も生活様式も違う人々が庭先に住み始めたら原住民は穏やかではないだろう。それが敵国ならばなおさらである。


『要は手が回らんから好きにしてくれということか・・・』

「ありていに言えばそうですな・・・しかしこの湯は本当に良いものですなぁ」

「本当ですね!父上!」


バカ親子二人と共に俺は温泉に浸かりながらこの地域の鉱山について話し合っていた。彼らはこう見えて国境を任されている辺境伯としての権威をもっているらしくよちよち歩きの孫に継がせるだけ継がせて英才教育の真っ只中だという。中央から離れている事と中央で悪事を働いていた連中の顔を知っていた事からターゲットにされる事はなく、孫の教育と領地経営にと細々と忙しく国境の警備を続けていた為品行方正で前回の大粛清からは最初からリスト外だったようだ。


「しかし愚直に生きてきましたが・・・彼らは何を思ってあんな奴らと手を組んだのでしょうな」

『解らぬ、だが人は過ちを犯す生き物でもある。それも不幸な事に割りとまともな者ほど得てして間違いを犯す』

「・・・深いお言葉ですね」


彼らの中で本当に悪事と知りながら嬉々として荷担した者は少ないだろう。しかしそんな人だからこそ悪人にとっては引っ掛け易い。引っ掛けて、宥めすかし、騙して深みへと誘い込む。気がついたときには既に悪事に荷担した咎人となる。そうすれば後は罪悪感をくすぐれば常人は雁字搦めになり言いなりになるしかなくなる。悪人の悪人たる所以はそんな善意や倫理観を食い物にする者達だからである。


「人生はどう転ぶか解りませんからな・・・」

『我がおらずとも皆が平穏に暮らせるならそれに越したことは無いのだがな・・・』

「大いなる力に頼る事は頼もしくもあり、また大いなる危険を孕むことでもあると?」

『そのとおりだ、しかしこの地域の安定に寄与できるなら力を貸す事も吝かではない』

「おお、それは有難い。扶桑国を含む周辺国との友好を目指す事は国王陛下も望む事、我等も存分に働きますぞ」


よし、言質とった。ならこの地域も俺がもらおう。鉄鉱石とワーダイン族と温泉と温泉と温泉の為に。


『ならば扶桑国の代表に此処に来るよう言っておこう。この地を彼奴等の管轄と決定するに如何程の時間が要るのだ?』

「そうですな、中央に確認を取る事が必要ですから一ヶ月もあれば色よい返事が用意できるかと」

『ならばよかろう、扶桑国の代表にはダメ押しの土産を持たせる。楽しみにするといい』

「それは心強い・・・しかし心配事が無くなったお陰かすこぶる体の調子がいい、この調子なら怪我もあっという間に治りそうですな」


はっはっは、と笑うバーダック公爵。しばし談笑した後に俺はこっそり大きさを調節しつつアウロラ達と少しばかりのんびりしてから三人を連れて扶桑国へと帰国した。いつの世も温泉はいいものだ、また皆を連れてくることにしよう。


後に解った事だが揉め事があったころから温泉の効能が跳ね上がったとの噂を聞くことになる。どうやら俺が長く浸かってたのが良くなかった・・・いや、今回は良かったのか?ともあれ、ワーダイン族の経営する温泉宿は『命の湯』としてこれからも末永く繁盛していく事となる。


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