サマルとザンナルと扶桑
「国土が残る?」
「ああ、俺はフィゼラー大森林近くの農地を、王女殿下の直轄地として首都近辺の市街地。その後国土の三分の一がそっちの手元に残る計算だ」
なんか彼女が俺を見る視線が胡乱なものを見る目に変わり始めたので俺は内心慌てて一言を付け足す。
「とは言っても独立国に戻れるのは何年先かわからんがな」
「いえ、国が残るだけでも十分です、最低限ご先祖様にも申し訳が立ちますし・・・ご恩情に感謝します」
「実際は此方も余裕が無くてサマルに近い都市部の管理をするのが精一杯というのが内情だ。貴殿の実力の見せ所だぞ。感謝の言葉は独立記念日まで取っておくんだな」
実際街道が整備されている都市部なら輸送もできなくはない。アレクシアも政治的な事は全くしたことがないので手探りになるだろう。それなら直に俺と本国の支援を受けられる首都近辺の管理が一番だろう。
なにより咄嗟に彼女の指示で動ける人間が少ないので首都に防衛拠点を築いてそこで政務に励んでもらおう。
そしてこれからの目処が凡そついた頃合で俺達は正式な降伏文書への調印式を行った。
「それでは此度の戦争・・・『扶桑国』と『ザンナル帝国』における二国間戦争の調印式を執り行います」
当事者と王族のみによって執り行われる調印式。当事者である俺もこの場に限ってサマル王国に依頼する立場の人間だ。
「それでは・・・ザンナル帝国代表、アルトリア王子。こちらの条文に目を通してください」
アレクシアの言葉を受けてアルトリアが条文に目を通す。
「我が国はフィゼラー大森林付近の領土ならびに首都近辺の土地を割譲し、その支配権を譲渡するものとする・・・その際に扶桑国の権利はサマルが保障することと領地経営にはサマル王国式の平等な税の徴収を行い、不当な行為に関してはサマルの法に基づいて管理処罰すること。ザンナル法に関しては自領にのみ保障し、奴隷の売買、軍権ならびに騎士団の創設、独自の外交はこれを禁ずる・・・と」
「異論があればこの場でおねがいしますね」
「扶桑国側としては異論はありません」
対外的には新興国側がサマル王国の仲介を得てザンナル帝国から領土を得た形になる。サマルが無償で領土を得た事になるがリットリオ相手にどう立ち回るかはまた難題である。
「提案としてこの場で申し上げたいのですが・・・リットリオとも領土問題を抱えていらっしゃると聞き及びました」
「確か国境沿いの緩衝地帯の幅で揉めていると・・・」
「その交渉をお任せいただきたいのです。早急かつ穏便に済ませて見せましょう」
「可能なのですか?」
「可能かどうかと聞かれれば可能です。それにこのままでは紛争が再発する可能性はゼロではありません。私が行うかはともかくとして早急に手を打つことは必要でしょう」
俺の一言に二人とも驚いた顔をしている。しかしコネは大量にあるのだ。無理ではない。なにせ孤児院の子供達がすでに貴族の子息として跡継ぎに選定されているのだから。彼らとて跡継ぎの後押しと此方からの利益供与があればどうにでも転ぶはずだ。
「我が国は最早その問題に取り組むことは不可能に近いです。今交渉を行えば一方的な要求の押し付け合いになるでしょう。サマル王国の王女であるアレクシア殿下の采配に従います」
この問題に関してザンナル帝国は最早決定権がない。この条文にサインすれば外交権はほぼ無いからだ。
「今回の功労者たる伯爵の言葉となればこちらも無碍にはできませんね。陛下からこの領地に関する采配は一任されておりますから・・・伯爵、アレクシア・フォン・サマルが命じます、リットリオ公国とザンナル帝国の国境問題を可及的速やかに解決し武力衝突を起こす事無く終結させなさい」
「仰せのままに・・・」
「サマル王国と扶桑国の代表であるお二方の恩情に感謝します。貴方達に原初の王の加護があらんことを」
アレクシアからの正式な命令を受理し、俺は頭を下げる。その際にアルトリアも席を立ち、膝をついて深く頭を下げた。最後の文句はドラゴンの信仰を持っている者ならだれでも使うありきたりなものだったが内心アレクシアと二人して苦笑していた。本人に本人の加護があるかどうかと祈られてもな。
こうして恙無く調印式は終了し、首都にアレクシアが政務を行うための建物の建造が始まった。瓦礫は夜の内に俺がドラゴンに変身して撤去し、コボルト達を十名ほど連れて来ると三日のうちに石造りの役所が出来上がった。
「やっぱり彼らを復興作業に連れてきたほうが良かったかな・・・」
官僚達は突如として開けた土地が現れたと同時に自分達の勤め先となる役所が出来た事に唖然としていたが後に自分達の屋敷が出来た頃から深く考えるのを止めたようだった。コボルト達ほどではないがザンナルにはザンナルの大工達がいるので彼らを雇い首都近辺の復興と農村への視察などを細々とやってくれるらしい。警察隊には引き続き治安維持に残ってもらい俺は扶桑へと一度帰還することにした。




