ザンナルのあれこれ!
そもそも国内の混乱も俺が意図的に流したデマも多い。問題はそれで崩れるほどザンナル帝国がヤバくなってた事だが王族の権威はそれでも堕ちないのだ。
「どうあれ王族の処刑には反対だ、サマル王国への怨嗟の種を蒔く為に王子を確保したわけじゃない。むしろ彼を丁重に扱いこの土地を治める正当性を主張すべきだと考えます」
「しかしだな、その王族の権威と言うのが問題ではないか?」
「すみませんが私もアダムスター伯爵に同意します、王族一人なら周辺を固めるだけで大丈夫ですが農村部の人間が造反するとなれば我々も責任を免れませんし、現状はアダムスター伯爵の私兵に警邏をお任せする立場ですからどうなるかわかりません。農村の民衆や都市部の民衆を安定させるためにも当面は彼らにショックを与えるべきではないと考えます」
ドルトの援護射撃を受けて会議は俺が望む方向へと進んでいく。とりあえず最低限王族を存続させ、最後には領地を与えて属国化するのが一番だと考える。何代か進んでからサマルの王族に吸収してしまうのもいいだろう。そもそも治安維持も楽ではない。彼らの味方をある程度はしないといけないのに爆弾の導火線どころか火薬に直接火をぶっこむような真似は絶対に避けないといけない。
「そうですね、王族の処遇に関しては非常に慎重に行う必要もあるでしょう。どうしてもと仰るなら国王陛下のご意見を仰ぐのも一つの手として考えます」
「殿下がそう仰るのでしたら・・・」
「アルトリア王子に関しましては降伏文書への調印を行うように要請してありますのでその内容に関しての調整も行うべきかと」
「貴殿はそんなことまでやっていたのか」
「内容まではまだ決めていませんがね、とりあえず私はフィゼラー大森林付近の土地を割譲していただければザンナルの食料自給率に寄与できます」
そう言うと王族の事に関しては先送りということになり降伏文書に関する内容へと進んでいく。
「賠償金を請求するのはどうですか?」
「王宮は灰になり、資産は戦火でグズグズになっていますが」
「それでは土地の割譲を要求するというのは?復興を任せるのはどうですか?」
実際それができたらどれだけ楽か。騎士団が徹底抗戦の構えを見せてくれたのと民衆の暴動で国土は荒れに荒れている有様だ。あの状態から自力復興とか無理難題もいいところだ。不参加の農村以外はメッタメタだって見て知ってるだろうが。
「もはやザンナル帝国として国土を管理するだけの力が彼らにはありません。荒野側の土地を任せるとしても物資の支援などは継続しなければなりません。ですが名目としてはこれが一番でしょうか」
「そうなるかのう、フィゼラー大森林側をアダムスター伯爵。首都近辺をアレクシア殿下、荒野側の土地をアルトリア王子にと」
結論から言うと降伏に伴い領土の三分の二を割譲、その際フィゼラー大森林側を俺、首都と農村の大半をアレクシアの直轄地として統治する。残った土地を名義はアルトリア王子に任せつつ軍関係を俺の警察隊で固める算段に落ち着いた。
「普通なら暴論だが・・・」
「軍は壊滅、国土は荒廃、国民の四割近くが離散となれば統治して復興事業を肩代わりするのですから当然と言う所でしょう。言い方は悪いが彼らは敗戦国です。王族を生かし国名を残して置くだけ御の字でしょうな」
官僚達も得る土地をあえて減らす事で負担を軽減し、土地の中で不毛の地と隣り合わせの国境付近の土地を押し付けることでギリギリ利益を出せるとそろばんを弾いたようだ。しかしながら彼らが何時アルトリアを排除しようとするかわからない。腹芸が当然の貴族社会ではアルトリアは生き残れないだろう。なんせあのザンナル皇帝の娘だ。世間知らずを差し引いたって人を疑う事をしらなすぎる。
「とりあえず国民の意識を別に向ける事はできるか」
とりあえずアルトリアと合流して条文の口裏あわせをしておこう。恐らくだが彼女は文書に調印したら仕事終了って考えてるかもしれないしその淡い期待を先んじてぶち壊しておかんとな。
「アルトリア殿下はいらっしゃるか?」
「はい、それでした会場の設営を終えてお休みになっています」
ザンナル首都の調印式に使う会場。そこで警備に当っていた警察隊のメンバーに問うと彼女は控え室で休んでいるという。
「一応親父殿を失って神経質になっているはずだ、一応監視はしておいてくれ」
しないとは思うが自殺なんかされても困る。それに暗殺者に狙われるなんてことも・・・無いわけではないだろう。警察隊の目を欺けるとは思えないがザンナルの騎士団が接触を図る恐れもある。
「アルトリア、入っても大丈夫か?」
『アダムスター伯爵ですか?大丈夫です、入ってきてください』
返事を受けて控え室へ入ると男装姿のアルトリアが待っていた。顔がいいとどちらもいけるもんだな。
「一応サマル側はある程度降伏の条件について決まった。価値の低い土地で申し訳ないがザンナル帝国の国体を残す事はできそうだぞ」
俺がそう言うと彼女は非常に驚いた顔をしていた。まぁ無理も無いか。




