ザンナル跡地へ向かう その4
「捕虜の手当てですか・・・何故掃討しないのですか」
「敗者を必要以上に甚振る趣味があるように見えるのか?」
「我が国を滅ぼしたのは何故ですか?父は・・・父が何をしたと・・・」
「色々あるが・・・強いて言うなら無力だったからだ」
ザンナル皇帝は清廉にして良き人であっただろう。しかし、それだけの存在でもあった。
「奴隷制度も気に入らないし、それを改善する事もせず、のうのうと生きているのが気に入らない。まぁそれならまだいいさ、だがお前の父は俺の身内を斬った。そして我が身可愛さに国民を売った、奴隷ではあったがな」
「それは貴方が・・・!」
「ならお前は俺が頼めば売るのか?国民を食わせる為に国民を売るだって?普通なら国庫から出すだろ!金がなかったのか?食料の備蓄は?飢饉は過去に何度かあったのか、無かったのか・・・それさえ話しあわれてなかったんじゃないのか?」
騙した側がこんな説教垂れるのは間違っているかもしれない。だが彼女は偶然にも生き残った。自己満足の域を出ないが知っておいてもらおう。自分達が何故滅ぶことになったのかを。
「政治屋を更迭するのは皇帝もやるべきかもしれないがまさか全員やるとは思って無かった。バカなのかと思ったよ。結局俺の嘘も独断専行も阻止できないままでよ」
「・・・」
実際の所サマルに問い合わせでもされたらどうしようかとも考えていた。勝ったから良いものの今回の開戦は俺の領地とザンナルの小競り合いにすぎなかった。外交のチャンネルがちゃんと生きていれば直にでも本国に問い合わせ、事態を収束させる手もあったのだ。
「そして古くからの家臣を信用せず、俺のような何処の馬の骨とも知らぬ男に全てを委ねた。滅びるべくして滅びたとは思わないか?」
そう言うとアルトリア王女はがっくりと項垂れた。どうやら自分達が相当甘っちょろい事をしていたことは理解できたようだ。
「総じて理由としては『お前達が絶好のカモだった』としか言いようがなかった。それで?君はどうして生き残った?」
「父が使った魔道具のお陰です・・・」
そう言うと彼女を部屋の一角を指差した。するとそこには金属製の台に描かれた魔法陣があった。
「この魔法陣で逃げてきたのか?」
「はい、常日ごろから持たされていたこのペンダントが鍵になっていたようです」
彼女の首には色を失って鈍色に輝く宝石をあしらったペンダントが下げられている。どうやらペンダントの持ち主がこの魔法陣の場所まで転移できるらしい。
「なるほどな、それで九死に一生を得たわけだ・・・」
「ええ、ですがその幸運もここまでのようですね・・・」
「たしかにな・・・だがそう簡単に死ねると思うなよ」
そう言うと俺は彼女ににじり寄った。
「まずは降伏文書の作成とそのサイン、それから戦争の責任を取って流刑地に行ってもらおう。それからはその流刑地で領民の為に無償で働いてもらうからな」
「えっ?」
「えっじゃない!」
「イタッ!」
俺の言葉に不思議そうな顔をする彼女に俺は頭を引っぱたいた。
「戦争は滅びたら終わりってワケじゃないんだ!勝手に一族総出で心中しやがって、お前さんが生きていてくれて御の字だぜ」
「私は死刑では・・・?」
「小娘一人の命でどうなるというんだ、そんな事より戦後処理が山ほど残ってるんだ。サマルの王女が来るから正式に降伏して権利を譲渡しろ・・・後は親父さんに助けてもらった命を大事にしろ」
親の仇が言うのもなんだが・・・、折角自由になれたんだ。自分の一生を生きてみるのもいいだろう。そこまで自由にはしてやれないがこんな砦に篭っても仕方ない。
「わかりました・・・私も王族、務めを果たします」
「そうしてくれ」
俺は王女を伴って砦の中庭に出ると捕縛された騎士とけが人が集められており、死人はその端に並べられていた。
「さて、王女はこの通り此方の管理下におかせてもらう」
王女が砦の中庭に出てくると騎士達は最早これまでとばかりに項垂れて悲壮感をかもし出している。それもそうか、この場で俺がもしも彼女を斬り捨てればザンナルの血筋は絶えてしまう。そうなれば彼らの生きる意味もなくなるのだから。
「彼女には降伏文書への調印と戦争の責任を取ってもらう、しかしサマルには責任者に死刑を言い渡す根拠も理屈もない。それ故に流刑になるが・・・諸君らにはその際王女と共に流刑地に赴いてもらう」
流刑、その言葉に彼らは若干の安堵を感じるもその先に待つ将来に展望が持てず呆然とするばかりであった。
「それではサマル王国の王女殿下がザンナルに到着されるまでアルトリア王女殿下の身柄は此方で管理させてもらうが・・・諸君らには一足先に流刑地に向かってもらう」
使者は砦の外に墓を作って埋葬し、その作業を終えると同時に俺は黒狼隊に命じて負傷者と捕虜を揃って流刑地へと移動させる事とした。アルトリア王女も事此処に至っては全てを諦めたのか言われる通りに馬車に乗り、護衛をつけて一足先にザンナル方面へと出発させることにした。




