孤児と俺とチンピラとオカマと
倒れていた男達を塀から外に放り出すと騎士団の詰め所に重ねて置いておく。
その際に人身売買に関わっていたことを告げる首枷と投げ文を放り込むことを忘れない。
それから奴隷状態だった少女達に此処に来た顛末を聞いてみると孤児院に集められて生活していたがそこから突然カリグラファミリーの連中が押し寄せて少女達を攫って来たらしい。
「孤児院の人は?」
「それが・・・あんまり帰ってこなくて皆で我慢してたの。」
わーお、判り易いくらい真っ黒じゃないのそれ。
孤児院と称して身寄りのない子供を売り捌いてたわけね。
「仕方ねーな、それじゃ俺が足長おじさんになるしかないじゃないのよ。」
「やっぱりおじさんなの?」
いたいけな少女達から痛い指摘が飛んでくる。
「いいかい、足長おじさんってのは遠い国に住む優しい人のこと! 俺はお兄さんだから。」
「へー!」
とりあえず当面の宿はカリグラファミリーの根城を俺達で使うことにしよう。お嬢ちゃんたちの新しいお家が必要だしな。それに当たって必要なのは用心棒だ。
それには最適なのが一人いた。
昨日の騒ぎにも関わらずずっと門番をしていたカリグラファミリーの下っ端君だ。良く見ると居眠りしてやがる。
「おい、おきなよでかいの!」
「う? おはようございます!」
完全に寝ぼけてるが挨拶は完璧にこなしている。
こいつ見かけによらず育ちがいいのか?
「よう、でかいの。俺は今日からこの屋敷のオーナーになったヴォルカンだ。よろしくな。」
「え? じゃあアンタのびじねすが上手くいったのか?」
「そうともさ、それでお前さんを警備主任にしてやるから俺が帰ってくるまで誰も通すなよ。」
「はいボス! それで給料とか上がるんですか?」
形ばかりの出世を約束してやると目がわかりやすいくらいキラキラしている。だましてるこっちが申し訳なくなるぜ。
「いくらかは知らんがそれも君の働き次第さ、給料袋を楽しみにしてなよ。」
「やった!これでお菓子教室に通えるぞ!」
お、お菓子教室?!
世の中には知らなくていいこともたくさんあるはずだ。
俺は聞かなかった振りをして昨日の酒場へと足を向けた。
「やっほー、元気か?」
「あらヴォルカンじゃないの。」
酒場に行ってみると昨日アレだけ呑んだのにピンピンしているヒューイの姿があった。
「さっそくだがちょいとした人助けを頼みたいんだが?」
「ちょっとまって、突然何よ?」
椅子を引いて座り、ヒューイにも座るように促す。
まだ朝食には少し早いが酒場の女将が気を利かせて軽食を出してくれる。
「実は昨日チョイと酔い覚ましにマフィアの本部を潰してきたんだがね。」
「それだけでワケがわからないわ・・・。」
「そしたら女の子の面倒を20人ばかり見ることになっちゃったのよね。」
「あら良かったじゃない、入れ食いじゃないの。」
「ホントの事言うと?」
「二日酔いが今になってやってきたわ。」
頼みごとがその女の子のことについてだと言うことがわかったらしい。
こめかみを押さえている。
「相談は貴族が所有していた屋敷に家賃ナシで住める権利を贈呈する。」
「そのかわり女の子達の面倒を見ろってことね?」
「そうなるね。」
「仕方ないわね・・・。」
やけにあっさり承諾したので俺は拍子抜けする。
一見全くヒューイに利益がないように見えるが・・・。
「いいのか?」
「ええ、そこって孤児院にするつもりでしょ?」
「まあ、一応な。」
「そうだと思ったからOKしたのよ、孤児院出身としてアンタみたいな奇特な男に協力しないのはオカマのポリシーとプライドに関わるわ。」
そう言うとヒューイは笑顔で俺の手をとり、ガッチリと握手を交わした。




