パーティまでのあれこれ
一方その頃王都では警察隊の面々が交代で休憩を取っており観光を楽しんでいた。
「ほへー、しかしデカイ建物が多いもんだな」
「住むためだけでこんなデカイ建物を建てるんだからやっぱり王都の人間は金持ちなんだな」
「そうだなぁ・・・お、この木彫りの人形ウチの実家で作ったやつじゃん」
警察隊の面々はフィゼラー出身の者ばかりなので二階建て以上の建物は早々見た事は無い。しかしながらそれは住居に限った話である。工場などは体育館くらすの建物が何軒も建っているのだ。
「あー、わんわんだぁ」
「おー、元気な子供だな」
「わんわん!だっこ!」
「よし、ほうらどうだ!」
「きゃー、わんわんすごい!」
制服姿が珍しく、また獣人が珍しいのか好奇心に負けた子供達に取り囲まれる。警察隊の面々は一人一人に丁寧に対応しながら王都を散策する。
「こ、こら!兵士さんに迷惑かけるんじゃないの!」
「ははは、かまいませんよ。子供はこれくらい元気じゃないとね、それでは」
慌てて駆け寄る母親に子供を返して警察隊の面々は笑顔を見せる。その柔らかな物腰は獣人に偏見の少ないサマルの人々にとってもカルチャーショックであった。なにせ文字の読み書きや挨拶の有無などが徹底されているのである。正直野人と侮っている者も少なくない中で彼らの理知的な所作は六千という数以上の衝撃をサマルにばら撒いていた。
「奴らはヘマせずにやっていけてるか・・・」
「はい、旦那様の教育の賜物かと」
「いや、彼らは和を重んじる性格を元から持っている。後は心にゆとりを持たせてやれば態度からも棘が勝手に消えるからな。俺はそうできるように彼らを豊かにしてやっただけさ」
オサレなカフェーでコーヒーっぽいものをしばきながら俺はアウロラと王都の喧騒を眺めていた。
先人に導かれて歴史を重ねてきた彼らは温和で、教育を受けて礼儀も身につけた。揉め事の収め方はまだまだ荒っぽいがそこも経験が伴えばなんとかなるだろう。
「豊かに暮らせるようにするだけでも十分な仕事なのですよ?」
「かといって食わせるだけではな・・・」
「いいですか、それが出来るだけでも十分凄いんです。当たり前の事じゃないんですよ?わかってますか?」
クリーム菓子をぱくつきながら何言ってんだこいつといわんばかりのアウロラに押されて俺は思わず口をつぐんだ。えー、でも食は基本中の基本だろ。できなきゃやってられないってのに。
「当たり前のように常識を破っていくのはよろしいですが・・・ちゃんと説明してくださいね?突然新発見を叩きつけられる身になってください」
身に覚えがありすぎるのでコーヒーもどきを飲んで誤魔化す。アランの驚きと怒りと喜びがミックスされた表情を思い出す。人間の顔は一度の三種類の感情を表現できるのだなとあのとき俺は人類の可能性を痛感した。
「ゲイズバー商会の売り上げは前年比の倍以上に上っているそうですよ。これ以上売れたら過労死するとも」
「それでもやり遂げてくれる辺りはさすがといったところか。彼らには自動車を融通してもいいかもしれんな」
馬車と違い暗闇さえ何とかなれば夜間でもぶっ通しで走れる優れものだ。サスペンションもあるから悪路もなんのそのだ。商人にとってはスピードの関係もあって重宝するだろう。
「機密ではありませんか?」
「エンジンを作れる人間が少ないんだから問題ない。それ以外の技術は拙いながらも既にあるしな」
「たしかにそうかもしれませんが・・・扶桑ほどの技術を持っている国はありませんよ?」
サマルでもそうだったが王族や一部の大貴族の中にはリーフスプリングを採用した馬車を使用している者がいるらしい。そうなれば数十年も掛からず市民にも浸透してくるだろう。
「そろそろ産業スパイも育てようか・・・」
「スパイするほどの技術が周辺国にあるのですか?」
「技術の多寡を知る事が大事なんだよ。優劣じゃない」
「はぁ・・・?」
「開発に力を入れてる技術を知ればそこから国の情報が良くわかるってことだよ。俺達の国で言えば工業だよな?鉄の精錬を磨いているとすれば部品の生産か、その用途は商売かあるいは戦争がしたいのか?ってな具合に技術の内容を知る事ができれば更にやりたいことが見えてくる」
「なるほど・・・」
「国の運営は大抵が何かの原因に対するリアクションなんだよ。先見の明で動ける王様なんて知れてるからな。戦争だってそうだ、俺だって課題を見つけて動いてるに過ぎないからなぁ、行き当たりばったりだよ」
糖分を補給しながら難しい事を考える。あーやだやだ。どうして俺がこんな難しい事を・・・。
「私達と戦った時も同じ事を?」
「あぁ、メンドクサイがな。売れば買うと知ってたから売った」
「普通はしないんですけどね・・・組織に喧嘩を売るなんて」
「生憎と普通じゃなかったからな。その当時のリットリオも、お前達も」
「そうでしたね・・・酷い目にあいましたから」
悪戯っぽく笑って俺を見つめるアウロラ。思い出と笑うにはそれほど経っていないはずがもう結構昔の事のように思えるのだから不思議なものだ。




