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観兵式でのあれこれ その2

「ううぅ・・・早く来ないかな・・・」


待っていると不安で胸が張り裂けそうになる。頭ではきっと、必ず来てくれると信じていても不安は尽きないもの。それにこの胸に去来するものは不安ばかりではない。


「はぅ」


御爺様と父様の会話で偶然知った私の婚約の相手・・・。想い人と結ばれる幸運に嬉しさと同時に拭いきれない不安が同時にやってくるのだ。熱くなった頬に手を当ててため息をつくと周りがとても温かい目で此方を見ている事に気付き恥かしくなった。


「殿下もお年頃なのですねぇ」


そんな一言が聞こえてきてはもうたまらない。たちまち顔が熱くなり、不安とは違う気持ちで落ち着かなくなってくる。


「あ、あうぅぅ・・・」


顔を抑えて蹲るアレクシアをその場の全員がそれぞれの感想を抱きながら見守る。


「アレクシアも知らない間に恋をする歳になってたんだなぁ」

「はえー、あんな殿下の姿見た事無かったなぁ。なんか新鮮」

「シッ、声がでかい」

「見守るんだよ・・・俺達はな」

「あれが人気の理由の一つでもあるんだよなぁ・・・」


「うーうー!もー!」


恥かしさ満天の中アレクシアは早くヴォルカンが来てくれないかと祈るしかなかった。



「全員整列!」


所変わってサマル王国王都の入り口にてヴォルカンが王都の出入り口を守る衛兵達に手続きを済ませて入場するところだった。


「あれ全部伯爵様の私兵かよ・・・」


衛兵達は全員が城壁から見える光景に絶句していた。普通の領では千や二千の私兵をそろえていれば多いほうであり、王都周辺では実質的に管理している領地が少ない為領民は多くとも私兵の数は少ない。

王族の手前大勢の兵をおおっぴらに揃えられないという手前を無視したとしてもその陣容は異様の一言であった。


「しかも全員が揃いの制服に装備を揃えてるぞ、鮮やかな紺色の服だな」


当然ながらこの世界に大量生産なんてものは無い。制服は一点モノではあるが同型の制服をこれだけの数を揃えるのはそれだけで金がかかるのだ。しかも見栄えには関係ないが魔獣の毛皮が使われているので下手な鎧よりも頑丈であり型崩れを防いでくれる優れもの。


「見事な行進だ・・・相当な訓練を積んでいるのだろう」

「うむ、ザンナルを打ち破った精兵の一団に違いないぞ」


一糸乱れぬ行進で城門を潜る警察隊に衛兵達は息を呑む。集団陣形が攻撃力に影響するこの世界では集団行動ができるかどうかがその軍の強さを測るバロメーターの一種になるのだ。


「行進開始!」


先頭の飾尾をつけたトナーが叫ぶと全員が一斉に前進を開始する。ただ歩くだけでもその数が六千に及ぶと凄まじい地響きを起こしながら王宮へと進んでいく。


「先頭の声が後列にまで届くのか?!」

「獣人の感覚とはこれほど鋭いものなのか!」


微塵の遅れやズレも無く前進していく列と指示を飛ばす人間の少なさに兵士達は驚きを隠せない。

督戦隊や伝令など指示を出したり行動を決定したりといった人物が居るはずだが彼らには其れがなかったのである。実際は木札と小声の遠吠えで指令が伝播していて人間には聞こえないレベルの音域の為大声で叫んでも聞こえないのだ。その為人間からは先頭のトナーの声で全ての隊が行動を開始したように見えるのだ。


「皇太子殿下!王女殿下!アダムスター伯爵の私兵が見えましたぞ!」

「どれどれ・・・なんと!」

「すごい・・・」


一糸乱れぬ行進を保ちながら王宮の前、その大通りへと進む姿に観客である市民達は熱狂した。全員が一斉に王宮へと顔を向け、サーベルを肩に担いで行進する。サーベルは皆曇り一つなく磨かれ、太陽の光を浴びて眩しく光っている。


「アダムスター伯爵はどこに?」

「あそこにおりますぞ」


アレクシアが辺りを見渡しているとゲオルグが一点を指差す。すると真っ赤な毛並みを持った珍しい馬を駆るヴォルカンが六千の兵を率いて悠然と進んでいる。


「か、かっこいい・・・」


見下ろすサマル王達に敬礼を返しながらヴォルカンは馬を進め、大通りに整列させた警察隊の最前列に立つと馬を降りて王宮の入り口へと歩を進める。


「で、出迎えないと・・・ぐえっ!」

「ああもう!伯爵を王女が1人で出迎えてどうするんですか!ちゃんと手順を踏んでください!」


ゲオルグが襟に手をかけ、兵士が両手を掴んで漸く停める。どちらか片方だけだと振り切って走り出してしまうからだ。


「ごほごほ・・・ごめんなさい」

「いそがなくても大通りでの観兵式が済んだらその後叙任式をして王女殿下を伯爵がお迎えに来るんですよ」

「うん、王宮のホールで御爺様が任命して父様が杖を手渡して叙任式が終わり、そのままホールで軽い立食パーティをやって、その後私が伯爵と一緒に大通りに出て御爺様が用意した馬車に乗ってザンナルの跡地まで向かうんだよね」

「そのとおりですよ」

(それまで鎧は着っぱなしか・・・あんまり汗とか汚れとか付かないようにしないと)


ちらりと自分の鎧に目をやると白銀に輝く鎧は汚れや水滴が付けば目立ちそうなほど磨きぬかれ、儀礼用で多少軽く作られている分脆い。アレクシアの力では下手をすると自壊させてしまうほどだ。




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