王都でのあれこれ
六千人の人員を選抜し、訓練を施したところで何時の間にか二ヶ月近くが過ぎていた。
「あれ?もう連絡が来ても良い頃だと思ったが・・・」
行進も様になってきたし、学業に関しても着々と磨きをかけている。行進の合間に歌でも歌わせようかと考えて始めた頃に国王陛下からの使者がやってきた。アダムスター領ではなくザンナル方面の交易路を使ったようだ。
「ようこそ、してご用件を窺おう」
「はっ、伯爵様、日程はこれより更に一月をかけるとの事です」
「つまり開催日は一ヶ月後ということか?」
使者に用件を聞くと彼は口ごもりなにやら歯切れが悪くなる。
「言えないことがあるのかね?」
「はっ、そういうわけではありませんが・・・」
「気持ちの宜しくないハナシというわけかね」
「ええと・・・そう言う事になりますかね」
どうせどっかの貴族達がごねてるんだろうが何処のバカだ。
「とりあえず差し支えない範囲で教えてくれ。此方は国王陛下から直々に頼まれている。粗相があっては不味いんだ」
トラックの開発は終了して軍用トラックの開発に移行しているがそれも二ヶ月の間にほぼ終了し木製の無限軌道を採用したハーフトラックと全無限軌道のトラクターも開発中である。それでも王都まで行くとなると三日ほどは掛かる。一月と言いつつ伝令が遅れたり妨害されたりすると困るんだよな。
「は、そうでしたら・・・今は王都は貴族派と軍属で別れておりまして」
「なに?どういうことだ?なぜ貴族と軍が対立してる?」
「王女殿下の出立に際して軍と貴族のどちらが王女殿下に随伴してザンナル跡地に向かうかで今論議になっていまして・・・」
ようはどちらが王女殿下の覚え目出度い派閥か王都で主張したいということらしい。馬鹿馬鹿しい。
しかしメンツの問題があるので両方共譲れないのだろう。三ヶ月も掛かるところをみると国王陛下も相当苦労している様子だ。
「現地入りして手を上げて見ても良いが揉め事が酷くなるばかりだろうし・・・こればかりは陛下に頑張ってもらうしかないな」
「彼らももう少し殿下のお言葉に耳を貸してくださるといいのですが」
そう言いつつため息をつくと使者の騎士もため息をついた。
「まあ、こればかりは仕方ない。代わってあげる事もできないしな・・・。使者殿も宜しければ一泊してからお戻りになるといい」
「ありがとうございます」
使者が退席した所で俺は部屋の隅に向かって声を掛ける。
「アウロラ」
「はい、こちらに」
影から姿を現した妻を抱きしめて頭を撫でながら仕事の話を進める。
「王都に何名か派遣して情報を探れ、必要なら国王陛下のお力になって差し上げるようにな」
「王都に行くメンバーの基準はいかがしましょうか?ひゃっ・・・」
相変わらず耳が弱いようだ。
「陛下に粗相のないように振舞えるものが好ましい、ついでにアレクシアに挨拶も済ませておくとやり易いだろう。くれぐれも不審者などと言われんようにな」
「ひゃっ・・・くひっ・・・わ、わかりました」
指示を出し終えるとアウロラは影にまぎれるようにして俺の腕をすり抜けて逃げてしまった。そんなに恥かしがらなくったっていいじゃないさ。
「さて、やる事なくなっちまったな・・・」
俺は一人自室に戻るとこれからの一ヶ月をどう過ごしたものかと思案をめぐらせるのだった。
「御爺様はまだ会議ですか?」
「そのようです・・・どうにも奴らも頑固でして」
王都では国王が貴族と軍の間に立って会議と言う名の口げんかに頭を悩ましていた。アレクシアはその主役にも関わらず蚊帳の外であり、ヒマを持て余していた。隣で愚痴に付き合っていた老剣士ゲオルグもあきれた様子で終わらぬ会議の内容を窺っていた。
「やっとヴォルに会えると思ったのに・・・」
新調した鎧を横目で見ながらアレクシアは不満を漏らした。
「アダムスターも貴族の一員なのですから貴族達の面目も立つと思っていたのですがね」
「どうしてでしょうか・・・もしかしてアダムスター卿が貴族としては新参だからでしょうか?」
本来なら結婚は全くありえない平民の騎士と長い歴史を誇る名家の家柄との組み合わせだがそれでも今となってはガランドも立派な貴族である。しかしながらアダムスター家は遠い地にあるため王都ではそれほど影響力がなかったのかもしれない。
「今や国中の何処よりも先んじていると聞き及びますが・・・なんとも虚の部分に踊らされる者の多いことか」
規模・商業・工業のどれをとってもアダムスター領と扶桑に並べるものは居ない。しかしながら王都から離れている為王都周辺に領地を持つ貴族達はそれに気付かずに居るようだった。アダムスター領から流れる品々を使っているにも関わらずである。ガランドが社交界やパーティになかなか出席できないのも軽く見られる原因であったかもしれない。
「私としては早くヴォルに会いたいだけです・・・いっそ一人で行こうかな」
「大騒ぎになりますから絶対にやめてくださいね」
「大丈夫、ゲオルグには教えてあげるから」
「そうなるとお止めしなかった私が怒られてしまいますから」
少しばかり不満げなアレクシアをゲオルグは必死に宥める。彼女が癇癪を起こすと大変だ。




