夜の街でやんちゃする2
「金庫番に会せる、そこで金を渡せ。」
「えー、なんでだよ。」
不満を漏らして不平を言うと傭兵崩れは俺の胸倉を掴んですごんでくる。
「いいか、お前を用水路のごみにするくらいわけないんだぞ。」
「ビジネスは鮮度が命だぜ、冷めたスープに価値が無いみたいに価値が目減りしていくのに。」
それを笑顔で流しながら承諾してやると傭兵崩れは忌々しそうに舌打ちすると俺を連れてまた長い廊下を歩き始める。
「ここだ、言っとくがふざけたマネすんじゃねえぞ。」
「はいはい、わかってますってね。」
屋敷の奥、金庫番の部屋は鉄製の扉を開けると金の詰まった袋を数える中年の男と目が合った。
「彼は?」
「みかじめを払いに来たらしい。」
「なるほど、ではそこに置いといてくれ。」
男はそういうとまた金の勘定に戻った。
「すごい量だな、ここにボスの全財産が?」
「言うと思うのかい。」
男は顔を上げないまま言う。けどそれってほとんど正解を言ってるようなもんじゃないのか。
「とりあえずまずは此処からはじめるとすっか。」
俺は振り向きざまに傭兵崩れの顎を一閃する。人形のように膝から崩れ落ちるそいつを尻目に金属製の扉を閉じて鍵を閉める。
「お、おい何の冗談だ?!」
「あー、そうか君には言ってなかったねまあ、だれにも言ってないが・・・カリグラファミリーは今日で仕舞いだ。」
金属製の扉は堅く閉ざされ窓もない部屋は密室状態。金庫番は驚きながら立ち上がると壁際に後ずさった。
「お、俺を殺すのか?」
「別にそこまでするつもりはないがリクエストには答える主義だぜ。」
「ひっ!」
俺は金庫番を押し退けると馬鹿でかい金庫に歩を進める。
「その金庫は開かんぞ! 鍵は俺も持ってない!」
「嘘は嫌いだぞ、正直に言え。」
「ホントだ!ボスの鍵と魔力で開くように設計されてる!」
そういわれて目を凝らしてみると魔力と彫刻で文字が刻んである。効力は魔法の反射と物理衝撃の軽減魔法。これでは魔法を使っても道具を使っても簡単には開かないだろう。
「ほうほう、こりゃいい細工師を雇ったんだな。」
「そうさ、手ぶらであけられるわけない!」
確かに人間なら無理だ。人間ならな。このタイプの魔法には欠点が幾つかある。
一つは魔法の加護を上回る威力を加えること。しかし金属製の金庫にそれはどう考えても非効率だし場合によっては無理。もう一つ紋様に魔力を限界以上に供給すること。そうすると文字がオーバーヒートして紋様が破壊されてしまう。
しかしそれは人間の魔力では無理に等しい・・・が残念ながら俺は人間じゃない。人間とは質の違う大量の魔力を持ってすれば紋様なんて簡単に壊れてしまう。
「面白いものをみせてやる。」
手を触れて魔力を強引に金庫に流し込んでいく。すると文字が焼けた鉄のように赤く発光しビキビキと金属が悲鳴をあげていく。
「そ、そんな馬鹿な・・・!」
やがて金庫全体が悲鳴を上げると断末魔の叫びをあげるように扉が開いた。
「ほうほう、こりゃ結構な量だ。これが全部か?」
「しょ、証券と借用書を除けば・・・全部だ。」
「借用書ね・・・つまらんハナシだな。」
拝借しても良かったが気分が変わった。借用書は処分しちまおう。
「難しいにこだわるのは間違いだ、人生はもっとシンプルに!」
息を大きく吸い込むと俺は業火を金庫の中に吹き込む。すると金貨と銀貨、銅貨はまるで氷のように解けて一塊の金属になる。
「うわああ!な、なんてことを!」
「溶かして再精練したら使えるじゃないか。」
そう言うと俺は金庫の扉を閉め、金の合計を書いた羊皮紙や部屋にある全ての書類を灰にした。金庫の鍵を変えておくことも忘れない。
「あぁ・・・カリグラファミリーはおしまいだ。」
「そう悲観しなさんな、この世が滅ぶわけじゃないんだから。ところでボスはどこだ?」
「最上階の・・・一番奥の部屋さ。」
「ありがとよ、アンタきっといいことあるぜ。」
項垂れる金庫番を他所に、俺は笑って金庫室を後にした。後はボスの場所へいって作戦終了だ。つかつかと廊下を歩いて行くと最上階にたどり着いた。まったくバカみたいに広い屋敷だ。
こっそりと奥をうかがうと手下らしき奴らがボスの居る部屋の前で屯している。
正面から行ってもいいがちょいと遊んでいこう。俺はうつむきながらバタバタと雑に走りながら手下達に近づいていく。
「わ、わあああ!」
「!? なんだ!どうした?!」
「あ、怪しいやつが!」
俺はさも慌てていますという風に手下達に近づいていく俺の射程距離まで、あと3メートルか。
「い、いま下で仲間が・・・!」
「おい!怪しいヤツってどんなヤツだよ!」
「あ、怪しいヤツってのは・・・俺だよ。」
声の位置から測って顔を上げると正面の男を殴り飛ばす。そしてそのまま流れるような動作で蹴り、投げ、折り、殴る。
瞬く間に五人の男達がうめき声を上げながら転がる。
「まったく不意打ちとはいえ鍛え方が足らんな。」
俺は男に一瞥をくれるとドアを開け放って上機嫌に叫んだ。
「ハロー!みんなの隣人、ヴォルカンがやってきたぜ!」
「な、なんだ貴様!」
「あー? 名乗ったのに誰だはないだろ怒るよ。」
ボスは廊下よりさらに金ぴかな成金趣味全開の眩しい部屋で借金の証文を確認していたらしい。
「部下達はどうした?!」
「五人ぽっちがそうなら廊下で寝てるよちょいと初対面の挨拶に熱が入りすぎてね。」
「そ、そんな馬鹿な・・・!」
ドアを閉めて鍵を掛けると俺は机に座って世間話としゃれ込むことにする。
「お宅随分と儲けてるらしいじゃん、あくどいことしてんだねえ。」
「な、何の話だ?」
「よせやい、人買いや人攫いに手を出してるってお前さんの金庫番が教えてくれたぜみんなお見通しさ。」
そう言うとボスは目に見えて焦りだす。図星ってより内部の裏切りかなにかと思ってるなコレ。
「そんな、アイツが裏切った・・・?くっそぉ!やっぱりアレッソロファミリーと繋がってやがったか!」
「なに?いんや俺が聞き出したんだが?」
「え?」
「それとアレッソロだかコレッソロだかしらんがお前さんたちはちょいと目障りだから順番に潰すことにしたのさ、その記念すべき第一回がお宅に偶然決まったワケ。」
おれはヤクザが嫌いでね。人身売買とか舐めるんじゃねぇっての。ヤクザが表を堂々と歩くようになっちゃ世も末だ。やや独善的だが人攫いなんて無い方がいい。
「お前、そんな理由で俺達を潰すつもりなのか?」
「そんな理由? じゃあどんな理由なら納得するってんだ? お前さんたちは今まで好き勝手してきたんだろ?その時に踏みつけたヤツのことをせいぜい思い出すんだな。」
机の上には売られるらしい女性のリストがあった。取り上げてみてみるとどの子も15歳そこそこの若い子ばかりだった。
「こりゃあ閻魔様もお手上げ状態だね、これ以上増えると閻魔様が気の毒だ、さっさと地獄へ行け。」
「ひっ!まて、まてよ!」
「見苦しいな、聞きたくねえ。」
俺はすうっと息を吸い込むとボスに向けてドラゴンのブレスを放つ。炎は瞬く間にボスを包み、奴隷の権利書と借用書を灰に変えていく。
「ぎゃああああああ!!」
炎に包まれてしばらくはもがいていたボスもやがて黒い消し炭に成り果てる。さて、作戦は成功したが・・・乗りかかった船、売られた子供達を捜しにいこう。




