故郷であれこれ
お袋は優雅に食事のあとのお茶を楽しみ、しみじみと考えていた。
「そういえばヴォルの奥様に王女殿下が・・・そしてアウロラちゃんとテルミットちゃんとシロナちゃん。可愛い子が産まれるでしょうけどやっぱり凄い子が産まれる気がしてならないわぁ・・・ガランドの血とアダムスターの家の血は凄いもの」
サマル王家もそうだがサマルの貴族達は何世代かに一人は必ず規格外の人間が産まれるとかなんとか。優れた者同士が結婚して子を成すのだから当然といえば当然なのだろうがそれでもその割合の高さには感嘆を禁じえない。
「御爺様に我儘を言った事を思い出すわ」
「御爺様といいますと旦那様の曾御爺様ですか?」
「ええ、今でもはっきりと覚えているわぁ・・・普段と違う物が食べたいって言ったら素手で熊を獲ってきたの」
「えぇー・・・」
「肝が美味しいって言われて焼いて食べたら意外と美味しくてね。生のもちょっと食べたのよ・・・あの時の御爺様の嬉しそうな顔が今でもはっきりと目に浮かぶわぁ」
特に目立った所のないお袋だが肝の据わり方はまさしくアダムスターの一族といったところか。財務に明るいらしく親父の変わりに家を管理しているのもお袋だったな。しかし熊の生き肝を食べて喜ぶ孫と祖父って嫌過ぎる。道理でじいちゃんはヴァルターを可愛がっていたワケだ。
「アガーテは好き嫌いはしないからな、血の滴る肉に齧りついた姿には胸が高鳴ったものだ!」
「あっ、あれはちょっとおなかが空いてただけで・・・もうっ!」
親父がそう言うとお袋は頬を赤らめる。普通、そう言うのはプラスには傾かないと思うが親父もなんだかんだ言ってズレてるからしかたないのだろうか。貴族の令嬢が血の滴るレアステーキに齧りついてたら普通はドン引きすると思うが。
「旦那様がお強い理由が増えた気がします・・・」
「ま、まあ子の強さは親の強さも影響するから・・・」
「やはり此れくらいの胆力と生命力がなければ本にはなりませんね!」
感心しているシロナとドン引きしている二人。両親にとっては青春と恋の一ページだろうがほとんどが狩猟と生肉を齧ったり齧らなかったりといった内容のものが結構な割合を占めているので他人にはこの話のどこに恋や愛といった成分を見つければいいのか甚だ疑問だろう。
アダムスター家は内向きか外向きの育ち方をするようでヴァルターは頭脳派なので常識人に育ってくれた。親父は言うまでもなく肉体派。俺もそうだがお袋は例外でどっちにもいけるっぽい。
「あ、そうだわ。突然なんだけど・・・ヴォル、貴方リンザンブル家に知り合いがいるの?」
「リンザンブル?リンザンブルってリンザンブル公爵のとこの家か。知り合いは居ないな、社交界の時にアレクシアにちょっかい出してきた奴が公爵の息子だったかな、ウザかったから蹴ったけど・・・それがどうかした?」
「なんでもアレクシア殿下の結婚をまだ諦めてないみたいよ」
「しつこい奴だ、初対面はもう十年前になるってのに」
ドルト・リンザンブル子爵、それがたしか・・・たぶん奴の名前だったはず。恋多き男で迷惑極まりない男だ。権力にモノを言わせて立場の弱い女性に言い寄るのが常だった。当時まだ男爵令嬢の私生児であったアレクシアに爵位にモノを言わせて言い寄ってきた事があったのだ。
「ま、そんな小物に負ける気はないし掛かってくるなら正面からカタにはめて潰してやるだけだよ」
「そうねぇ、確かに其れが一番ね」
そもそも国王陛下と皇太子殿下の賛同を得ている中でどうやって反対するというのか。
「でも彼、アレクシア殿下のザンナル派遣についてくるつもりなんじゃないの?」
「マジで?リンザンブル家ってそんな余裕あったっけ?」
「正直息子を持て余してるって所じゃないの?派遣する名目はあるわよ?あそこは財務管理の名門だし」
「うわいらねえ・・・潰すか」
「物理的に?」
頷きかけてすんでのところで思いとどまった。対人関係を仕事に持ち込まないならまだいいが・・・。
正直婚約が王家では公然の秘密になっている以上そんな奴を派遣者に混ぜないと思いたい。
「邪魔するようならご退場願うしかないな」
アレクシアがうんと頷き、父親から祖父に至るまでがいいよと言った以上意地でも俺は彼女を幸せにする。国一個滅ぼして見せたんだ。其れくらいやらないと男じゃねえ。っていうかあのバカ俺が蹴る前からはっきり断られてたはずなんだがなぁ・・・。誰かが誰かを好きになるという事は自然な事だ。だが奴はそれにつけても恋する女性が多すぎる。しかも権力を傘にきたやり方で迫るのだから始末が悪い。
外聞が悪いから父親も苦労してたんだろうがザンナルに送られるかもと言う事はそれも限界なんだろう。
「厄介払いか・・・そんな奴絶対問題起こすだろ」
爵位剥奪して隠居させればよかったのに何考えてんだか・・・。それでも見捨てられないのだろうが結婚でもして落ち着いてくれればとでも考えているのだろうか?奥さんがよっぽどの人じゃないとあっという間に破綻するだろうしな。




